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封印されし古代の魔物1

 結局王都に着いたのはララリア王女から連絡をもらって六日ほど経ってからだった。

 実際はもっと早く着けたはずなのだ。街道なんてわざわざ走る必要はなかったし、休憩だって俺とフェルネはとる必要がなかった。

 それでも六日もかかってしまったのは単に姉妹の体力を考えてのことだ。どうやら抱きかかえられているだけでもそこそこ体力を消費してしまうらしい。だからこそ休憩を頻繁にとっていたらこんなに時間がかかってしまった。別にそれに対して特に思うところはないのだが。


 王都に着いたら真っ先に城へと向かった。

 そろそろ着くことはララリア王女に心話で伝えてあったので、案の定あっさりと城に入れてもらえた。

 城には前回と同じ執務室のような場所での対談となった。


 今回はヴィルヘルム国王、宰相ザルザ、サリバン将軍、ラスタル近衛騎士団長、ララリア王女と俺達四人の計九人の対談だ。


「お久しぶりです、ヴィルヘルム国王陛下」

「少し見ないうちに仲間を増やしたのか」

「はい、ご紹介しますね。彼女の名前はフェルネ。実力も申し分ないです」


 フェルネは俺の言葉に特に反応することもなく、国王に会釈すらしなかった。

 フェルネ曰く「シュウト以外に興味はない」とのことだった。


「そうか。シュウト殿が認めるのならばそれなりの実力を持ち合わせているのだろう。」


 しかし国王はこのことについて特に言及してこなかった。

 もしこれを一般人がしていたら相応の処罰が下されていただろう。

 このことに冷や冷やしなかった俺にも問題はある気がする。


「では前置きはこのくらいにしておいてさっそく本題に移りたい」

「わかりました」


 サリバン将軍やラスタル近衛騎士団長ですら少し緊張しているように見える。

 やはり今回の件は相当危機的な事態であるらしい。


「まずシュウト殿に問いたい。昔、人族等が滅亡の危機に陥ったことについて知っているか?」

「はい。滅多に出てこない魔王が戦争に出向いてきたと」

「知っているのか。では魔王が去った時に何をしたのかも知っているか?」

「確か………多数の魔物を人族等の大陸に解き放ったんだと記憶しています」

「そうだ。ではその魔物を人族等はどうしたと思う?」

「それは…………」


 そういえば確かにどうしたのだろうか。

 文字通りの総戦力で魔大陸に侵略し、結果呆気なく敗北した。

 しかしもしそれが事実ならば残った人々で魔物達に抗うことは困難なはずだ。なんといっても魔王が直々に解き放った魔物なのだから。

 ということは…………。


「あの戦争で生き残った人々は自分たちを絶滅させないために魔物をなんとかしようとした。しかし直接戦っても勝てるような相手ではない。六級魔物程度ならばまだ何とかなったかもしれない。三級魔物ほどならば人々が力を合わせれば倒せなくとも自分たちを守れたかもしれない。しかしそれ以上の魔物はどうする?一級魔物やそれ以上の魔物が出てきたら?残った人族等では抵抗することもできずに滅ぼされてしまうだろう」


 過去の文明が今以上に栄えていたとしても、戦闘が碌にできないような人族等では見つかった時点で逃げることさえできないかもしれない。


「だから残った人族等は強力な個体を封印することにしたのだ」

「…………そんなことが可能なのですか?」


 自分よりも強い魔物を封印することなどできるのだろうか。

 まして魔法の熟練者でもないような人々が。


「それ相応の代償を払えば可能だ」

「代償……ですか?」

「そう、例えば多数の人族等の命など」


 ………そういうことか。

 魔法をうまく扱えても詳しいことまで知っているわけではない俺には魔法の原理がわからないが、確かに代償があればそんなことができるのかもしれない。

 なにかを為すためには何かを捧げなければならない。それは魔法然り。魔法を発動させるためには魔力を捧げなければならない。大規模な魔法ほどより多くの魔力を必要とする。もしかしたらその封印魔法は魔法操作能力が低い者からも強制的に奪い取って利用できるようなものなのかもしれない。


 そんなことを考えていた俺は国王が話を続けたことで現実に引き戻される。


「そういうわけで世界各地にはそういう魔物が封印された場所があるのだよ。そして今回シュウト殿に依頼することはこれに関係する」

「もしかして………」


 ここまで言われたらさすがに誰でも気付くだろう。

 強力な魔物の封印。緊急招集。王国が認める強者。

 これが示すこととは。


「この国の中にあるその封印の一つが解かれたのだ」


 やっぱりか。

 封印の解除かそれに近いものだと思ったがどうやら当たっていたらしい。


「今のところの状況はどうなっているのですか?」

「未だに大きな被害がでていない。というのも封印地がどの町の近くにもないというのが功を奏しているようだ。それに巨体過ぎるあまり動きが鈍重なのも理由としてある。その魔物自体もどこかを目指して動いているというわけでもないようだから王都に被害が出る可能性もそんな高いというわけではない」

「なるほど。ではその魔物について教えてください」

「名前はない。というのも初めて確認された魔物であり詳しいことはわからないのだ。わかっている事と言えば身体が巨大な甲羅のようなものに覆われていて外部からの攻撃をほとんど受け付けないということ、全長が五十メートルを遥かに超える巨体だということぐらいなのだよ。階級としては特級だ。今まで倒せた例のない魔物は全て特級の位置づけとなる」


 なんだか想像以上の事態が起きているらしい。

 そんな魔物を一般人が見たら失神してもおかしくない。


 階級に特級というのが存在するのは今初めて聞いた。

 でもまぁそんな階級について何度も耳にするような世界では人間は生き残れないだろう。


「わかりました。ところでどうしてその封印が解かれたこととミネリク皇国に関係があると考えているのでしょうか?もしかしてミネリク皇国の人がその封印を解いたとか?」

「いや、封印が解かれた場所がミネリク皇国と反対のマーラッハ公国に近いところだからだよ」


 どういうことだ?

 それならむしろミネリク皇国が犯人の可能性が低いんじゃないだろうか……。


「それがどうしてミネリク皇国が犯人になるのでしょうか?」

「考えてもみたまえ。封印を解除したらその魔物が自国を襲ってくるかもしれんのにそんな魔物の封印を解除しようと思うか?普通ならそんなリスクは避けたいはずだ。だからこそ自国から遠い場所で尚且つこの国に大きなダメージを与えることができるあの封印を解除したのだろう」


 考え過ぎなのではないだろうかとも思ったがギリギリで発言を思い止まる。

 以前この国とマーラッハ公国は仲の良い国だと聞いたことがある。もしそれが本当ならマーラッハ公国がそんなことをするとは考えにくい。

 必然的に敵対しているミネリク皇国ということに結論に至るわけだ。

 他の国という可能性も考えられなくはないが今はそんなこと考えていても仕方がないだろう。


「大体の話はわかりました。それで私は何をすればいいのでしょうか?」

「うむ、そのことなのだがシュウト殿には封印地付近にある村の人々の避難を行ってもらいたい。我々がそこへ行って避難をすると奴の討伐をするための貴重な戦力を失ってしまうかもしれない。結果、討伐できる可能性を下げることになりかねん。そこで戦力、速度において卓越した能力をもっているシュウト殿にそれを行ってもらいたい。引き受けてもらえないだろうか?その避難が終わった後に討伐に参加してほしい」


 これはどう解釈していいのだろうか。

 俺の能力を買ってくれているのはわかるが、肝心の俺の命が危うくないだろうか?

 今まで見たこともない巨大な魔物の傍に一人で行けというのは死地に一人で行けと言っているのと同義だ。

 戦えと言っているわけではないのだし受けるつもりではいるのだが。


「わかりました。ではその村の位置を教えてください」

「そうか………すまない」


 国王はそう言って頭を下げてきた。


 どうやらこれについて思うところがないわけではないようだ。

 まぁ俺が召喚されたのはミネリク皇国に関することを助けてもらうのが理由だそうだし、こういうことをするのが俺の仕事だと考えていいだろう。

 さすがに捨て駒扱いされたら報復は受けてもらうが、この国の治安はいいみたいだし国王は善人だからそんなことはないと信じたい。


「じゃあフェルネ達には付いてきてもらおうかな」


 俺の言葉に驚いたのはフェルネ以外の全員だった。中でも姉妹の驚きようは少し大げさなくらいだ。

 おそらくこんな危険な場所に四級冒険者相当の力しかない自分たちを連れていってくれるとは思ってもいなかったのだろう。この世界で四級冒険者とは一流の冒険者であり、数えられるほどしかいないわけではあるが。


「レイナとアイナにはやってもらうことがあるんだ。もちろんフェルネにもね」


 姉妹は満面の笑みを浮かべて返事をした。


 その後、封印地付近の大まかな説明をもらった俺達は大急ぎで現場に向かった。

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