四級への昇格祝い
サーリフがギルドから出ていくと途端に周りがうるさくなった。
サーリフが結界を張っていたおかげで周りに会話は聞かれていないが、サーリフと対等に話していたように見えていた周囲の人々からしてみれば、俺達がいったい何者なのか気になるのだろう。
しかもそれだけではない。今目の前に四級冒険者になろうとしている少女が二人もいるのだ。彼女等がフリーならすぐにでも仲間に引き入れたいに違いない。
しかし既にパーティーを組んでいるらしい二人になんと言うべきか迷っているようだ。これが普通の冒険者ならここまで悩まずに勧誘していただろうが、サーリフと対等に話していた男が傍にいるのに勧誘などできようはずもない。
そんな雰囲気の中、ギルド職員が二枚のギルドカードを持って出てきた。
「先ほどは申し訳ありませんでした!あなた方のご活躍があまりにも素晴らしいものだったので少しばかり疑いの心を持ってしまったのです………」
どうやら本当に後悔しているらしい。この人の顔が本当に青ざめている。
「気にしないでください。あなたよりもドイケルという人物のほうが頭にきましたから」
あなたにも少しばかり頭にきましたということを遠回りに伝える。
さすがに疑いの目を向けられて何も言わずに許すというわけにはいかない。特に今回はかなり侮辱されたのだから。
「はい………それとレイナさんとアイナさんは今日から四級冒険者です。今まで以上に難しい依頼があなた方を待ち受けているでしょう。今まで以上に気を引き締めて依頼をこなしていってください」
「わかりました」
「わかった!」
レイナとアイナがしっかり返事をした。
その後、俺とフェルネの冒険者カードの更新があったので冒険者カードをギルド職員に渡す。
そして先ほど思いついたことを伝えた。
「まだ決めていなかった冒険者パーティーの名前を決めたいのですが」
「はい。その名前を教えてください」
「『自由の光明』で」
「わかりました」
そう言って再び姉妹からギルドカードを受け取って奥に入って行った。
「冒険者パーティー『自由の光明』でどうかな?」
もともと俺が決めていいということになっていたが何も言わずに決めてしまったので、事後承諾という形になってしまったが了承を得たい。
「それでいいと思います」
「それに賛成!私たちにピッタリだね!」
「私もそれでいいぞ」
三人とも快く俺の提案を受け入れてくれた。
ギルドカードを返してもらいそそくさとギルドを出る。
今日は豪華な食事にしよう。
なんといっても姉妹は今日から上級冒険者の仲間入りだ。しかも冒険者パーティーとして四級の実力なのではなく個人で四級の実力なのだ。
これから姉妹は有名になっていくだろう。上級冒険者とはそういうものなのだ。
これで俺が目立つのも避けられなくなってしまったがそれはすでにどうしようもない。サーリフの件でどちらにせよ今後は目立ってしまうのだから。
夜までは町を出て近くの森で鍛錬をして過ごした。
姉妹は互いに模擬戦をしている。二人とも俺が強化魔法を付与した防具を着ているのでただの斬撃では傷もつかない。だからこそ実戦さながらの斬撃を躊躇いもなく放てる。俺の魔法を信頼してくれるというのもなかなか嬉しい。
フェルネは魔力操作能力の向上を目指した鍛錬をしている。周りに実力がバレるようではいつ魔人だということがバレてもおかしくない。だからこそこの鍛錬をしている。
俺はというと魔力感知の範囲を拡げるために精神を研ぎ澄ましてより遠くを感じられるように集中するといったものだ。
これをしているからこそ町の近くで鍛錬をすることができるのだ。誰かが魔法を使えばすぐにわかるし近づいてきてもすぐわかる。
さらにこの鍛錬は思考を強化することにも繋がっている。一度に多くの情報を処理するこの鍛錬は魔力感知能力を上げるだけにとどまらない。
それぞれが違う鍛錬をし自分の弱点を補おうと努力する。
これこそが今の俺達に必要なものだと思う。
これから受けるようになる姉妹の依頼の危険度はきっと二人も理解しているだろうから。フェルネも自分の魔力操作に小さな疑問を持っただろうから。
鍛錬を夕方ごろ終わりにして俺が作った風呂に入った後に夕食を食べに行く。
今日は外食にすることにした。
豪華で美味しい食事をするには宿で出るものではダメだ。
別に今までお金をケチって宿の食事をしていたわけではない。宿代に食事代も含まれているのに外食をするなどもったいないから宿で食事をしていたのだ。ただ、宿だと場合によっては不味い食事が出てくることもある。
今泊まってるところの食事は普通としか言えないものであり、美味しいわけでもないし不味いわけでもない。こんなお目出度い日にそれではダメだと思った。
というわけで向かった先は富裕層が暮らしている区画。
ここら辺はあまり来る機会がない。富裕層は武器などを買う頻度は少ないため武具屋などはないし、服を買うにも見た目はいいが戦闘に向いているとは言い難い。商人や貴族が着ているような服を着てもいいのだが他の冒険者に舐められそうだ。冒険者ごっこをしているお坊ちゃんがいるぞと。さすがにこの町で俺達を知っている人は何も言ってはこないだろうが、俺達のことを知らない人物ならば十分あり得る話だ。
周囲の人々に聞いて一番評判のいい店に入り、姉妹に好きなものを頼んでいいと伝えるとおススメのメニューがいいと言ったので全員でそれを頼むことにした。
全員に料理が届いたところで食事を始める。
「今日は二人ともおめでとう」
二人にそう言ってプレゼントを渡す。
「ありがとうございます!」
「ご主人様、ありがとう!!」
二人とも嬉しそうに俺が渡したものを受け取る。
プレゼントの見た目は普通のバッグだ。普通といっても冒険者が持っているようなバッグではない。女の子が持つような斜め掛けバッグだ。
二人とも嬉しそうにしているがこれが何なのかまだ理解していない。
「レイナ、アイナ。それはね、マジックポーチなんだよ」
二人ともニコニコとした笑顔のまま凍り付く。
二人はマジックポーチの本当の価値を知っている。そして俺もユークリウス王国に着いてから知った。
マジックポーチとは空間魔法が付与されていて効果が途切れない超がつくほど高価なバッグ。現在の技術でも過去の技術でも作ることも解明することもできないとされてる不思議なもの。
間違っても一般人が手に入れることなどありえないものなのだ。世界に百個も存在しないのだから。
まさに神創遺産と呼ばれる代物である。