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裏の仕事2

 次の日は少し早目に起きて姉妹にばれないように騎士に引き渡しに行く。

 昨日のできごとは世間一般から見れば大事だが、生憎俺とフェルネからしてみれば呆気ないことこの上ない出来事だった。姉妹にいらぬ心配をかける必要もないだろう。


 二人を担ぎ騎士の詰所へと向かう。フェルネは俺が家をこっそり出たことに気付いていたみたいだが何も言わなかった。

 朝が早いからか外にはあまり人が見られず少し閑散としている。


 もちろん詰所も人は少なかった。

 詰所の中に入ると二人の男性がうたた寝をしているような状態だった。朝だからといってそれではダメな気がするが、何もないしないでただ数時間じっとしている気持ちも分からなくはないのであえて何も言わない。この二人が仕事を頑張っていたとしてもこの事件を防ぐのは難しかったということもある。


 騎士二人は紐で拘束された人間を二人担いでいる俺の姿を見てギョッとし、眠そうな顔からすぐに真剣な顔になって近づいてきた。


「どうした?」

「夜中に私が泊まっている宿に侵入してきたので気絶させて拘束しました」


 俺の言葉に二人は険しい顔になりそこから事情聴取が始まった。



 案外時間はかからず俺は解放された。

 美人の仲間と行動しているという話をすると信憑性が増したらしい。

 騎士の話によればこのような事件は世界各地で起こっているということだった。犯人が捕まった例はまだなかったらしく、人族等の犯行だと確信していたのは単に美少女や美人のみが狙われているかららしい。ちなみに一度いなくなった人が戻ってきたことはないという。


 最終的には騎士に大いに感謝され宿に戻るのだった。



 宿に戻ると姉妹が心配そうな顔をして俺に近寄ってきた。


「何かあったのですか?」

「ご主人様、大丈夫?」


 俺はそんな二人が可愛くて頭を撫でながら言い訳をする。


「いきなりいなくなってごめんね。でもただ早く起きすぎちゃったから散歩していただけだよ」


 すごく見え透いた嘘だったが姉妹はそれ以上は何も訊いてこなかった。

 無言で姉妹の前からいなくなったのは初めてだったが、魔力交換による繋がりもあるしフェルネも傍にいたので以前よりも心配させないで済んだと思う。

 これからはこういうことは無いように心がけねば。ただ、それを口に出せない程度には自分の立ち位置に問題があることも自覚している。力とは得てして問題を引き寄せるものなのだから。


 フェルネが俺達を見て羨ましそうな視線を向けてくるので同じく頭を撫でてあげる。自分よりも年上に見える女性の頭を撫でるのはなんだかこっちも恥ずかしく感じてしまう。


 その後は朝食を食べてからフェルネのギルド階級を上げるためにギルドに向かった。



 そして四人でギルドに向かっている途中に周囲の雰囲気が少しおかしいことに気付く。

 いつもは活発で明るい雰囲気だが今は少し落ち着きがないというかざわざわしてしる。

 気にはなったが自分たちが介入することではないと判断しギルドに向かおうとする。


 しかしそのとき聞き捨てならないことを耳にした。


「騎士団の詰所が何者かに襲撃されたって本当か?」


 それは近くで屋台をやっているおやじに客が質問したものだった。


 俺はとっさにそちらに耳を傾ける。


「そうらしいぜ。なんでも詰所にいた騎士二人が重傷を負ったって話だ」

「物騒な話だな」

「全くだぜ。騎士団の詰所を襲うなんて馬鹿なのか?」


 そうじゃない。

 詰所を襲えるだけの戦力と捕まらない自信があるのだ。

 周囲の話からまだ犯人は捕まっていないことはわかっている。


 おそらく昨日の侵入者に関係がありそうだ。

 ということはまだこの事件は終わっていない。

 なにせ昨日の侵入者がどうなったのかまだわからないし、直接関わり合いのある俺達がまだ生きているからだ。

 詰所を狙ったということは少なからず俺が詰所に入ったところを目撃されてるはずだ。

 いつになるのかわからないが俺のところに来るだろう。


『フェルネ、三人で依頼を受けにギルドに向かってほしい。レイナとアイナを頼んだよ』

『わかった』


 姉妹には伝えなかった。

 しかしわかってほしい。二人を巻き込みたくない。

 それにすぐに合流できる可能性は高い。

 常に姉妹と行動している俺が一人になるなど滅多にないことなのだから一人になったらすぐに来るだろう。

 夜に襲撃しても気づかれる可能性が高いということはあちらも理解しているだろうし。


 姉妹に買うものがあると告げてすぐに異なる通りを一人で歩きだす。

 これから騎士団の詰所に向かう。

 歩きながらの魔力感知により騎士団の詰所付近の状況を理解した。

 侵入者の二人の魔力はない。やはり狙いは彼らを消すことにあったらしい。

 あの騎士たちは騎士団の近くで治療されている。どうやら火魔法による攻撃を受けた騎士二人は重度の火傷を負っているようだ。肌が焼け爛れているように見える。損傷が大きすぎてほとんど治っていない。

 そんな二人の近くに四・五人の騎士が立っている。おそらく二次襲撃を恐れて周囲を警戒しているのだろう。

 近くに俺が連れてきた二人がいないことから、殺されてしまったことを察する。


 先ほどから俺を尾行している人間がいる。

 攻撃してくる様子はないから俺から手は出さない。敵なのかどうかまだわからないというのもある。


 俺が騎士団の詰所に着くとその人も同じく立ち止まり野次馬に混ざった。

 しかし俺はこの人の魔力を覚えたのだからそんなことに意味はないのだが。


 俺は怪我を負った人に近づいていく。

 すると傍に立っている騎士がそれを拒む。


「それ以上近づくな!お前は何者だ!?」


 俺は冷静な声でその言葉に答える。


「彼らの治療の手伝いにと」

「………それならいいだろう。しかし怪しい真似はするなよ」


 やはり俺を疑っているようだ。ローブで顔を隠しているとどうも怪しい雰囲気を醸し出してしまうらしい。

 しかし気にするほどのことでもないので無視することにして治療する。

 といっても大勢の前で治療魔法を使いたくないので水に回復魔法を付与したものを飲ませる。それとは別に同じものを体中にかける。

 最初は俺の行動に驚いて止めようとしていた騎士たちだったがすぐに表れた劇的な効果に驚き感心した目で俺の薬を見ていた。


「そんな高そうな薬を使ってしまっていいのか?」


 騎士はどうやらそこが気になったらしい。

 しかしそれも仕方がない。

 普通の回復魔法師の魔法でもあまり治らなかった傷をたちまち治してしまう薬など高価でないはずがないのだから。


「はい。気にするほど高くないですし」


 高くないどころか水だし。

 無料といっていい。

 俺の回復魔法を付与した労力を考えればその限りではないが。


「すまない、助かったよ。もう引退は免れないと思っていたからな」

「いえ、これは私にも原因がありますし」


 そして俺がこの事件に関係していることについて話そうとしたとき、いきなり魔法が放たれたのを魔力感知が感じ取った。

 俺はその魔法が誰から放たれたのか考えるまでもなく知っている。

 だからこそこの喧騒の中で魔法の詠唱がかき消されているとしても俺には犯人の特定ができる。


 飛んできた五十センチほどの火球を風魔法で空に向かって逸らし、すぐさま逃げに転じた犯人を俺は追いかける。

 町の人々に見られているところで呆気なく捕まった犯人は最後の抵抗とばかりに空いていた右手に取り出した短剣を握り一気に突き刺そうとしてくる。この距離では魔法を使えないからだろう。

 しかしそれを難なく受け止めた俺を見て次は腕を振りほどこうとするがビクともしないほどの力量差に気付き、次はどんな反撃に出るのかと思いきやいきなり真下に向かって魔法を解き放った。


「『エクスプロージョン』」


 俺はとっさに飛び退き、周囲に被害が及ばないように結界で犯人の周りを覆った。

 結界内で爆ぜた魔法は閃光の強さから直視できず目を逸らした。

 次に目を向けたときそこには誰もいなかった。おそらく俺が作った結界が爆発の魔法を外に漏らさず、相乗効果により通常の魔法以上の威力を出したからだと思われる。


 ここで俺はようやく気付いた。

 「ベイナントンという奴隷商は想像している以上に危険な組織なのだ」と。

 こんなことを普通の奴隷商人がするはずがない。

 いや、似ていることをしている奴隷商人はいるのだろうがここまでする奴隷商人はそうそういないだろう。秘密漏えいを恐れて自殺など普通の組織ならまずできない。

 今後もこの奴隷商は気に留めておく必要があるかもしれない。さすがに二度も失敗したのにまだしかけてくるとは思えないけど。


 俺は今回の件の事情を説明してから解放された。侵入者がベイナントンという奴隷商だということだけは伝えなかった。

 一番面倒だったのは勧誘だった。俺は戦闘力の一端を見せてしまっている。といっても本当の本当に一端だけなのだが。

 もちろん断ってすぐにギルドに向かった。尾行してくる人間もいないようだ。

 すでに昼を過ぎているため昼食を買うことも忘れない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この主人公の『殺せないでしゅ』って甘さで毎回周囲に被害が出て主人公怒って行動するみたいな、自業自得ボケが繰り返されてるけど、作者さんは意図して書いてるのかな? それとも非道は許せない…
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