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神獣との遭遇

 そいつらは美しい白銀の体毛に覆われていて、全長3・4メートルほどありそうな狼の群れだった。

 どの狼も俺をかなり警戒し、牙をむいて威嚇していた。今にも一斉に襲い掛かってきそうな勢いである。


「はぁ……ここまでか………」


 俺は狼の観察をしていた隙に囲まれてしまった。

 でもそれは仕方ないだろう。

 月に照らされた白銀の体毛は見る者の目を引き付けて離さないほど幻想的だった。今まで見た魔物はどれも禍々しく凶暴な見た目で見惚れるなどありえなかった。

 精神的に追い詰められていたこの状態では「逃げる」や「戦う」といった思考よりも、最後に見たものが見惚れるほど美しい光景で良かったという思考のほうが先にくる。


 そんなことを考えていたとき、群れの後方から一際大きな狼が現れる。

 明らかに群れの長だとわかるその狼はまるで見定めるような視線を俺に向ける。

 俺も言葉を発することができず、ただ見つめるだけだった。


 数十秒いや数分か、どれほどの時間がたったかわからなくなったとき、群れの長が愁斗に話しかけてきた。


「お主、なぜこのようなところにいる」


 狼にもかかわらず人と会話ができるようだ。


「…魔物なのに会話ができるんですね」


 考えてたことが口に出てしまった。


「質問をしたのはこちらだ。質問に答えろ」

「……はい。実は水や食料を探して走り回っているうちに、気付いたらここにいて………」

「ほう………徒歩で人間の住む町まで15日以上はかかるこの危険地帯に、武器も持たぬお主は食料を探して走ってきたと、そう申すのか」

「………そうです」


 そう言うとまた黙ってこちらを観察してきた。

 こっちも黙ってまた何か言ってくるのを待った。

 そして少し時間が経ったところでもう1度話しかけてきた。


「…どうやら嘘をついているわけでもなさそうだな。よかろう、我が水飲み場まで案内しよう。ただし!ここは神域ゆえに森を荒らさないと約束してもらおう」

「神域?」

「そうだ。ここは神獣だけが住むことのできる聖なる地。我はその神域の番人フェンリル」


 出たよフェンリル。

 そうじゃないかと思ってはいた。


 俺はそんなことを考えながらフェンリルとの会話を続ける。


「あなた方自身は魔物ですか?」

「違う。我らも一応神獣の仲間だ」

「そうですか」


 ここまで美しい生き物なのに魔物なわけないよな。


「こちらからも質問してよいか」

「はい」

「お主からは血の匂いがせぬ。ここまで出会ってきた魔物はどうしたのだ?」

「全部避けてきましたよ」

「そう何日も魔物を避けられるとは思えないが……」

「実質、森にいたのは半日だけですから」

「………なんだと?」

「半日です。気付いたら森の中にある家に監禁されていて、そこから走って逃げてきたんです。ただ、走るスピードがかなり速くてなんとかここまで逃げてこれました」


 そこから一人と一匹は話しながら歩いて水飲み場まで向かった。

 話した内容は主に起きてからここまでのこと。何者かに召喚された可能性についても話した。


「その可能性は非常に高い。召喚魔法は大国ならどこでもやっていることだ。成功するかどうかは知らぬがな」

「その召喚魔法について教えてもらえますか?」

「よかろう」


 フェンリルが言うには、召喚魔法とは数十年に一度しか使用できない大規模魔法のことだそうだ。

 魔法を行使する人数も数百人に及び、成功する可能性もかなり低いという。

 ただ呼び出す人間を指定することはできないため、時に危険な人間を呼び出してしまうこともあるそうだ。

 呼び出された者は大抵がこの世界の人間よりも強大な力を有しているらしいが、その強さも召喚された者同士で比べると大きな差があるらしい。

 ちなみに前回召喚に成功したのはミネリク皇国という国で、この国は召喚された者を奴隷のように扱うらしい。


「どうして神域に住んでいるあなたがそんなに詳しいんですか?」

「そんなことをわざわざ話す必要があるか?ここは神域なのだぞ?人間がペットとして神獣を捕まえようとこの森に入ってくることがあるのだ。神獣は人間ではかなり高額で取引されるらしいぞ。忌々しい奴らめ!もちろんそんな馬鹿者は極稀であるがな……………おっと、話が逸れたな。そういう理由で情報がなければ、いざというときに対処できなくなるかもしれんから、世界中の情報は常に集めるようにいろいろと動かしているのだよ」

「……失礼ですが、どうして馬鹿者なのですか?」

「……ここに来るまでに多くの魔物に会ったのだろ?」

「はい。どれもかなり強そうでした……」

「そいつらは普通の人間では全く歯が立たないだろうな。この神域の手前にある危険地帯では、ミネリク皇国の最も近くに出没する赤熊レッドベアでさえ国の首都所属の騎士団員五人分に匹敵するレベルなのだ」


 ………マジふざけんなよ。

 てか赤熊レッドベアとかいうやつに心当たりがありすぎる。

 そんなところで彷徨っててよく俺死ななかったな。自分を褒め倒したい!!


 というよりも……


「さっきから話を聞いていると、俺を召喚したのはミネリク皇国のやつらだという可能性が高いですよね?」

「その可能性は低い。あの国は前回の召喚に成功したのが約70年前だ。そう何回も連続で召喚に成功するとは思えぬ。それに隣国のユークリウス王国では国中で兵士が何かを探しているらしい。お主を探しているのではないか?」

「なるほど………」


 なんとなく状況がわかってきたぞ。

 ユークリウス王国が俺を召喚して、その後すぐにミネリク皇国に奪われたと……。

 ミネリク皇国め……いつか一矢報いてやる。


「この2つの国は仲が悪いのですか?」

「かなり悪いらしいな。ミネリク皇国が頻繁に攻めているらしいぞ。まぁすぐに撤退しているからどちらにもあまり被害がないらしいがな。だが数年後までには必ず戦争が起こるだろうな」


 戦争に利用されるために召喚されたのか?

 あまりいい気分じゃないな……。でも魔法が存在する世界に呼んでくれたのは悪い気分じゃない。

 要するに複雑な気分ということだ。


「最後にお主の名前を訊いておこう」

「愁斗。大崎愁斗です」

「そうか。よろしくなシュウト殿。我のことはギンと呼んでくれ」

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