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裏の仕事1

 町に着いてから最初に向かったのは服屋である。

 フェルネが大きく成長してしまったため、もともと来ていた服のサイズが合わなくなってしまったのである。

 フェルネに合った服を数着選び、一つをその場で着てから店を後にした。


 次に向かったのは冒険者ギルドだ。

 フェルネが仲間に加わったので冒険者パーティーにも加えようと思ったのだ。

 最初は魔族が冒険者になることはできるのか不安だったが、結局は何事もなく冒険者パーティーの一員となった。そもそも魔力以外ではほとんど判断できないのだから、人間である俺の魔力と混ざって益々わかりにくくでもなったのだろう。

 ちなみに魔法属性は火・強化属性で登録した。これは適当に決めた。強化属性は必須だったが他は適当でいい。今回は俺が火魔法の『ファイア』を付与した指輪を渡しておいたので、後はそれを自分の闇魔法で支配して操ってほしい。

 次に複数の依頼を同時に達成する。森で採取した素材を必要としている依頼は討伐依頼としても扱われるそうだ。それはそうだとも思う。そもそも素材は倒さなければ手に入れられないわけだし、俺達のように複数同時に依頼を達成するなどマジックポーチでもなければできないことなのだから。倒せても証明できなければ意味がないのだ。そのようなことをできる人はごく少数だろう。


 そしてやはり気にしていた問題が起きた。

 それはフェルネへの下心丸出しの視線である。

 今まで姉妹と一緒にいてもそのようなことはあまりなかった。もちろん少しはあったのだが。

 姉妹は確かに美少女だがそれはあくまで可愛らしいという意味であり、探せばいないということもない。例を挙げればクラスに数人はいる美少女というところだ。

 しかしフェルネはそうではない。ララリア王女に匹敵する美貌を持ち、周囲の視線を自然と集めてしまうのだ。

 その視線はその横に立っている俺に自然と収束してしまう。

 嫉妬にまみれた視線がヒシヒシと伝わってくる。

 正直あまりいい気分ではない。

 しかしフェルネが気にしていないようなので俺も無視することにした。



 明日からはフェルネのギルド階級を上げようと思う。

 最短記録を出した俺で二日なのだから、俺と同じように依頼を受ければフェルネもだいたいそれくらいで七級に上がれるはずだ。

 八百長を疑われるかもしれないがそれはそれで別にかまわない。冒険者ギルドで働かなくてもお金には不自由していない。もちろん無駄遣いはしていない。

 ギルドで仕事をしているのは世界中を回りながら仕事ができること、また身分を証明するものがないのは不憫というだけの理由だ。


 明日からの行動方針も大まかに決まったところで宿に戻って寝ることにした。




 四日経ちフェルネが七級冒険者になったその日の深夜、日付が変わったころにそれは起きた。


 人々が寝静まり愁斗も眠りについてそこそこ時間が経過した頃、愁斗達が泊まっている割高の宿の部屋にゆっくりと二人の人間が忍び寄ってきていた。

 どうやって忍び込んだのか、宿の店員に気付いた様子はない。

 その二人は愁斗達がいる部屋の鍵をゆっくりと開ける。その手並みはベテランそのもの。明らかにやり慣れている。

 鍵が開くと物音をたてないように静かに部屋の中に入って行く。


 そんな二人を愁斗はとっくに気づいていた。

 どういう目的で何をするのか気になったのでわざわざ寝たふりをしている。

 他の人に危害が加わるようならばこんなことはしないが、この部屋に入った時点ですでにこの部屋からは出られない。姉妹には起こさないように結界を張る。


 そんなことをしているとフェルネから心話が届く。


『シュウト、気づいているか?』

『もちろんだよ。俺はあの二人が何するか気になるから放っておくけどフェルネはどうしたい?』

『私もそれでかまわない。レイナとアイナは………結界を張ったのか』


 さすがフェルネだ。

 少し意識をするだけで瞬時に使った魔法の有無を感知することができる。普通の人間にはできない行為だ。目の前で生じている炎が燃焼によるものなのか魔力によるものなのかなど普通は判断できない。魔力をダダ漏れにしている魔法や近距離で起こった魔法なら普通の人でも気付けるかもしれないが。

 特に俺は常に最小の魔力で最大の威力を発揮できるように心がけているため、より一層に気付かれにくい。効率のいい魔法行使を練習していた賜物だ。

 だからこそ今まで魔法をこっそり行使していても周りに気付かれることはなかった。長い間髪の色を変えているのにも関わらず誰一人気付かなかったのがその例だ。

 それなのにフェルネには気付かれてしまう。

 このことからもフェルネの魔力感知が高度なものであると推測できる。

 


 二人が一つずつ部屋を確認している。

 最初に俺の部屋、次に姉妹、最後にフェルネという順番になっていた。

 俺と姉妹の部屋はスルーしてフェルネの部屋に入って行く。


『フェルネの部屋に入ったよ』

『大丈夫だ』


 フェルネの寝ているベッドに近づき懐から何かを取り出した。

 魔力感知では色が識別できないため何なのかよくわからないがどうやら液体の入った小瓶のようだ。


 これはさすがに見過ごすことはできないため二つ隣の部屋に魔法を使おうと思っていたら、俺よりも先にフェルネが魔法を使っていた。


 侵入者はいきなり倒れこんだ。

 顔面から床に突っ込んでいたため鼻でも折れていそうだがそんなことは知ったことではない。

 自業自得というやつだ。


 俺は布団から出てフェルネの部屋に向かった。


 フェルネの部屋に入るとフェルネが何もなかったかのように平然とした顔でベッドに腰かけていた。


「こいつらはいったいなんだったのかな?」

「わからない。しかし何か持っているかもしれないし探ってみよう」


 フェルネはそう言うなり侵入者を調べ始めた。

 そしていきなり何か思いついたように止まり、侵入者二人を見つめて何かしらの魔法を行使した。


 数秒後フェルネが俺のほうに向きなおり驚くべきことを告げる。


「こいつらはベイナントンという奴隷商の下っ端だな。しかし奴隷商で働いているわけではなく自分たちが捕らえた人族等の女を奴隷商に売っているらしい。こいつらは既に獣人の娘を数人攫ったことがあるぞ」

「………もしかして記憶を覗いたの?」

「その通りだ。成長する前はできなかったことだが今なら難なくできるみたいだぞ!」


 フェルネは自分の成長を素直に喜んでいる。


 ……そうですか。

 じゃあ俺もそのうち敵に対して使って見よう。

 罪悪感が湧かないような相手にならいいだろう。


 というか奴隷商つながりか。

 確かにフェルネほどの美貌なら相当な額で売れるだろ。それこそ貴族が大金をはたいてでも買おうとするはずだ。

 ますます奴隷商に悪い印象が根付いてしまった。こんなことをするような仕事がまともなはずはない。

 普通に犯罪者や売られた人間を奴隷として売買するなら理解できなくもないが、人さらいをしてまで儲けようとするその根性は気に入らない。

 ユークリウス王国もマーラッハ公国も奴隷制度にあまり乗り気ではないため奴隷を目にする機会は極端に少ないが、これが他の国に行ったときにどのようになっているのか気になる。


 しかも既に数人やっているのか。

 それならそこそこやり慣れていてもおかしくない。

 魔力感知に優れていなければ気付かない可能性が高いだろうから。姉妹は気づかなかったようだし。

 日本に格段に劣るセキュリティなのだから泥棒も入りやすいだろう。日本でさえ泥棒というものは未だに存在しているのだからこの世界ではなおさらだ。


「ちなみにその小瓶の中身は何かわかった?」

「これは簡単に手に入る睡眠薬のようだ。私が起きないように念を入れるつもりだったらしい。しかも短剣も隠し持っているぞ」


 物騒だな。


 既に上級魔人以上の存在になったフェルネに対して簡単に手に入るような睡眠薬で眠らせることができるはずなどない。

 もし眠らせたいなら殺す気で毒薬を摂取させなければならないだろう。それでも死にはしないだろうが。その程度で殺せるのなら上級魔人も大したことがないといえる。


 しかし短剣まで持っているとは…………。

 バレたときに口封じに殺すつもりだったのだろうか。


「さて、この二人はどうしようか?」

「こんなやつらは殺してしまおう!」

「殺すまでもないでしょ?この町の騎士の人達に渡そうよ。事情を説明してもう少しこの町の警備に力を入れてもらうのがいいんじゃないかな」

「シュウトがそういうのなら私はそれでいいぞ」


 承諾を得たところでまた寝ることにした。

 フェルネが言うにはあと半日以上は起きないそうだ。


 明日騎士に引き渡すとして今日はもう一度眠りについた。

 保険として侵入者に強固な結界を張った。内側からも干渉できないような結界である。

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