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謎の少女3

 町への帰り道で俺は自分自身のことを話した。

 もちろん属性のことについては姉妹に教えたことしか教えていない。


「やはりシュウトは普通ではなかったのだな。おかしいと思ったのだ。いくら手を抜いているとはいえ中級魔人並みの力を持つ私が人間に大きく後れをとるわけがないからな。むしろ人間などはどいつも敵ではないと教えられていた」


 確かにその通りだ。

 俺はまだ会ったことはないが三級冒険者でも軽くあしらわれるだろう。肉体性能も魔力制御能力も大きく劣っているのだから仕方がないことだ。


 そんなことを考えていた時に一体の魔物が出現した。


 俺はフェルネがいるから気にせず通り過ぎようとした。

 もちろん姉妹も同じように俺に続いていた。

 しかし近づくにつれて明らかにこちらに殺気を放っていることに気付く。


「フェルネ、あれ明らかにこっちに殺気を放ってるよね?」

「そうだな」


 俺の質問にフェルネは淡々と答えた。


「そうだな、じゃないよね!?なんでフェルネがいるのにこっちに殺気を放ってるの?」

「?もしかして全ての魔物は魔人に従順だとでも思っているのか?」

「違うの?」


 フェルネは呆れたとでもいうようにこちらに目を向けた。


「言っておくけど魔物が魔人の命令に従うのは魔法で操っているからだ。魔大陸の魔物は調教されているからその限りではないがな。人間の大陸に生息している魔物は魔人の存在を知らないだろうしな」


 そういうことだったのか。

 でも確かに言われてみればその通りな気もする。

 理性のない魔物が魔人だけに従順になるというのもおかしな話だ。

 闇属性保持者の俺に従順になってもおかしくないはずなのだから。


 俺は仕方なく雷魔法を使って魔物を消し飛ばす。

 魔物が跡形もなく消滅したのを確認して先に進もうとしたとき、いきなりフェルネが俺の腕をつかんで止めた。


「シュウト!!」

「………なんだ?」


 フェルネの目がキラキラと輝きを放ち俺の顔に近づいてくる。どちらかというと恍惚とした表情に見えなくもない。

 姉妹はそれを見て唖然とした顔で立ち尽くしていた。


 俺の魔法については説明したはずなのにどうしてこんな目をするのだろうか。

 威力が桁外れなことも雷魔法を使えることも説明したはずなのだが。


「私に魔力をくれ!!」


 ああ、そういえばフェルネとは魔力交換していなかったな。


 俺はそんな気持ちでフェルネに魔力を渡した。


「もっとだ!!」


 言われた通り少し多めに魔力を渡す。


 するとフェルネの身体が薄く発光し、その光がフェルネの中に吸い込まれてその現象は終わった。

 残ったフェルネはフェルネではなかった。

 いや、正確には同じ年のフェルネではなかった。

 見た目は二十歳前後というところだろうか。少女などと呼べたものではない。

 身長は百七十センチほどはあるだろう。もう少しで俺に届きそうだ。

 明らかに成長している。以前から美人の風格を漂わせていたが今ではれっきとした美人だ。


「………フェルネ?」


 俺は恐る恐るフェルネに話しかけた。


 フェルネは恍惚とした表情をして俺の言葉に返事をする。


「ああ、シュウト………どうか私をいつまでも傍においてくれ!!」


 ……なんだって?

 聞こえないというよりも理解できない。


「私はいついかなる時もシュウトにお仕えすることを約束しよう!」


 なぜだろう、さっきまで高圧的な物言いだったのにこんな風に変えられるとものすごく違和感を覚える。


「うん、それは別にいいんだけど……後悔しない?」

「そんなことするわけがない!!」


 フェルネがググッと俺に詰め寄ってくる。


 ふと姉妹のほうを見ると何かを決意したように互いに頷きあっていた。

 よくわからない。


 俺はフェルネを一旦落ち着かせて今の現象について尋ねる。


「フェルネ、今のはいったい何?」

「おそらく……急激に強化された魔力に身体が引っ張られたのだろう」

「引っ張られた?」

「そうだ。元の身体では強化された魔力に耐えきれなかっただろう。身体がそれに合わせて成長したのだ」


 そんなことってあるのか?

 いや、この世界には理解できないことが多々存在している。

 これもそんなものの一つなのだろう。

 理解しようとするだけ無駄な気がする。


「しかしな、シュウトの魔力はとても美味しかった………また味わいたいな…………」


 フェルネが危険な顔をしながら迫ってくる。

 俺は話を逸らすように話を続ける。


「俺にも魔力を渡してくれないかい?」

「わかった」


 フェルネから魔力をもらったが特に何も起きなかった。

 もっとイケメンになったり………なんてことを想像したりするはずはない。

 心話が可能になったのだからそれで良しとしよう。


「シュウト、どれくらい力が上がったのか試してみたい」

「ああ………そうだね。さっきと同じように俺に殴りかかってよ」

「了承した」


 フェルネと距離をとり先ほどと同じぐらい離れたところで立ち止まる。


 フェルネが拳を作り、先ほどと同じように殴りかかってきた。

 だがそのスピードは先ほどの比ではない。

 先ほどのスピード気を抜いていても避けることができるようなものだった。

 しかし今回のスピードは気を抜けば避けられない可能性があった。


 さらに、迫りくる拳に俺の危機察知能力が反応した。

 俺は片手では受けきれないと思いとっさに両手で受け止める。

 さらに周りに及ぼす被害を想定し姉妹の周囲に結界を張る。


 俺の手のひらにフェルネの拳が当たった直後、その余波で姉妹の周囲を除く周囲数十メートルが消し飛んだ。

 木だけでなく地面もごっそりとだ。

 前回は近くの木々が吹き飛んだのに対し、今回はそれ以外も含めて消し飛んだのだ。

 恐ろしい成長力だった。

 もしとっさに結界を張っていなかったら姉妹がどうなっていたか容易に想像できる。

 さすがに冷汗が背を伝う。


「なかなかすごいね」

「私もそう思ったぞ……しかしこれを生身で受け止められるシュウトもやはりすごい存在だな!」


 フェルネが嬉しそうに答えた。


 確かに………俺よく生きていられたな。

 ここまで強い魔物はまだ数度しか会っていない。

 しかしその時はこちらもそこそこ力を出していたし向こうも本気を出していた。

 ただの威力計測でここまで被害が出るなんて想像できないのが普通だろう。


 さて、ここで一つ大切なことに気づく。


「フェルネ、これほどの力があればお父さんも認めてくれるんじゃないかな?」

「…………いいんだ。私はシュウトに付いて行くと決めたのだ!」


 フェルネの瞳に嘘の色はなかった。


 俺はその言葉を信じ、町へと続く森の中を再び歩き始めた。

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