謎の少女2
その集団のもとへと辿り着いたとき魔物が一斉にこちらに目を向けた。
魔物は全部で数十はいる。それも上級の魔物だけだ。二級や一級の魔物は見当たらないが三級なら数体はいるみたいだし、四級に限ってはこの集団の大半を占めている。
さすがに姉妹も緊張しているようだ。
だがそれも仕方ないことだろう。なにせこれだけの上級魔物を目にしたのは初めてだろうから。
姉妹が協力し合っても二人の実力では逃げることは確実にできないだろう。
俺達を確認すると魔物達は一斉に威嚇をし始めた。
そしてゆっくりと俺達を囲もうと動き出す。
上級の魔物だけあってさすがに知能は高いらしい。それでも獣の域はでないが。
魔物が一斉に俺達に攻撃を仕掛けようとしたとき。
「待ちなさい!」
どこからか少女の声が聞こえてきた。
そしてその言葉に魔物達が素直に従った。
そのとき俺の予測が当たっていることを確信する。
魔力感知で見たとき魔物達の中心にいたのは人型の何かだった。
魔力の器が人型をしているが保有している魔力は人族等のそれとは別のものだった。一般の人族等の魔力とは桁違いの力強さに、どちらかといえば魔物よりの魔力の質。魔力だけでいえばサリバン将軍やラスタル近衛騎士団長を超えている。
考えられるのは魔人である。
今まで魔人を見たことはないが何故かこのときそう思った。
そして実際に魔物を従えてみせた。
魔人は魔物を従えることができるのだ。
魔物達が左右に割れ中心から少女が出てきた。
その少女の見た目はやはり人間だった。だいたい十四・五歳ぐらいに見える。髪の色は綺麗な銀色で腰近くまで伸ばしている。
なぜだろう、幼いのに可愛いというよりも美人の風格のある容姿だ。将来は間違いなく別嬪さんになる気がする。
普通の人間にはただの女の子にしか見えないだろう。
見分けることができるのはかなり優れた魔力感知を持つ者か、または常日頃からそのことを意識して魔力感知を行いそれに慣れている者だけだ。
その少女が話しかけてきた。
「なぜ人間がこんなとこにいる」
「もっと人間の住む町に近いところで人間の少女が森の奥に入って行くのを見た人がいたんだよ。俺達はその子を探しに来たってわけ」
「そうか。でも無駄足になったな。私は人間ではない」
「でしょうね」
「ほう」
俺の言葉に少女は目を細める。
どうやら俺には見分けられないと思っていたらしい。
「魔族だね」
「………なぜわかった」
「魔力の質が人間より魔物寄りだからかな」
「なかなかやるようだな」
少女が言葉を切った直後、いきなり殴りかかってきた。
あまりのスピードに姉妹は追いつけていない。
しかし俺の目ははっきりとその姿を捕らえている。
胸元めがけて殴り込んできているその手を俺は素手で受け止めた。
少女のその拳を受け止めた瞬間、その余波だけで近くの木々が吹き飛んだ。
想像以上に力があった。普通の人間が当たればバラバラになるだろう。強化魔法を行使できる人でも無事でいられないはずだ。俺の手も少しヒリヒリしているのだから。
素手で受け止めた俺に少女は驚いた顔をしている。
姉妹は受け止めた俺を見て青ざめた顔になった。
「予想以上にやるな」
「どうしていきなり殴りかかってきたのかな?」
「人間相手にどこまでやれるのか気になったのだ」
「そうなんだ」
殴りかかったことに対する反省はしていないらしい。
俺も特に気にならなかったから別にいいのだが。
人間がいきなり殴りかかってきたらさすがに怒るかもしれないが、相手は少女だしなにより魔族だ。
人族等の価値観とは違う価値観を持っているのかもしれない。
俺は気になったことを訊いてみる。
「じゃあ今度はこっちが質問をするね。俺は愁斗っていうんだ。君の名前は?どうしてこんなところにいるの?」
「………私はフェルネ。家を追い出された」
思っていた以上に重い内容だった。
理由を訊くことは躊躇われるが一応訊いてみることにしよう。
「どうして家を追い出されたの?言いたくなかったら言わなくてもいいけど」
「別にいい。力無き者だったら捻り潰すところだが、シュウトは私に質問をする権利がある」
「ありがとう」
「私は力が無いから家を追い出されたのだ」
「………魔族はそんな理由で子供を追い出すの?」
もしそうだったらさすがに酷い。
力が全ての世界ではそんなことが起こり得るのだろうか。
「そうではない。私は最上級魔人である父上から生まれたのにそこまでの力を持っていなかった。私の父上は厳格だ。力無き者に興味がないのだ。だからそんな私を捨てた。私はいつも他人から笑われる存在だった。そんな魔大陸にいる理由もない」
「……あれで力がないことになるの?」
「中級魔人並みの力ならある。だが父上はそんな力はないも同然だと思っている」
厳しすぎるだろ……。
さっきの一撃だって四級冒険者じゃ手も足も出ないような一撃だった。
それを手を抜いて出せるのだから力としては申し分ない。
それを無いものと同じといえるなんて普通ではありえないことだ。
「ここらへんの魔物を集めていたのはどうして?」
「……一人で森の中にいるのは寂しいからだ」
フェルネはそう言って目を伏せた。
そうだったのか。
寂しいよな、一人っていうのは。
俺もずっと一人でいたときは人恋しく感じたものだ。
このまま置いてはいけないな。
「なら、俺達と一緒に来る?」
俺の言葉にフェルネだけでなく姉妹も目を丸くした。
しかしこれは仕方がないことだ。
種族的に相いれないものなのだから。
俺は黙り込んだフェルネの言葉を待つ。
少ししてからフェルネは言葉を発した。
「いいのか?私は魔族だぞ?」
「俺は別に気にしないよ。それに女の子をこんな森の中に置いて行くのは気が引けるしね。レイナとアイナはどう?」
「私はご主人様がいいなら構いません」
「私も別にいいよ」
姉妹は一瞬躊躇ったがすぐに吹っ切れたのか拒絶はしなかった。
「三人とも変な奴だな。普通は魔族を見たら攻撃してくるか恐れて逃げ出すのだが……………それと私は少女ではない。シュウトの十倍以上は生きているだろう」
「「「え?」」」
十倍?
それって百歳を超えてるってこと?
「私は少なくとも百五十年以上は生きているぞ。」
そういえば魔人の寿命って人間より遥かに長いんだっけ?
それならこの成長速度も頷ける。
「………じゃあこれからよろしくね。こっちがレイナでこっちがアイナ」
「よろしくお願いします、フェルネさん」
「よろしくね!フェルネ!!」
「おう、よろしくな」
一区切りついたところで町に戻るために四人で歩き出した。