謎の少女1
愁斗達がマーラッハ公国に入ってから十日ほどが経つ。
マーラッハ公国はユークリウス王国とあまり変わらない国らしい。
強いて言えば魔物が多い。
神域前の危険地帯である「サヤク森林」のような場所は世界に多数あるのだがこの国にはそれがいくつかある。
さすがに神域前はその中でも上位の危険度を誇るので、サヤク森林のように強力な敵が現れるわけではないのだが。
そんな国だからこそ冒険者も多く集まる。
しかし冒険者で一番多いのはやはり六級冒険者だ。この国では五級冒険者が次に多い。四級冒険者はそもそもかなり数が少ないため一国に集まったりしない。
それらの理由でこの国には多くの魔族契約者を魔物ごと受け入れてくれる町が多い。といっても魔族契約者が多いわけではない。
ユークリウス王国にも同じような危険地帯はあるのだが近くに町や村がないため、そのような場所に行く人は少ない。
マーラッハ公国の最初の町であるモルネイアに着いてから最初に向かったのは宿だ。それもそこそこ贅沢な場所にしてみた。久しぶりにベッドで眠れるので少しくらいはいいだろうと思ったのだ。
次はやはり冒険者ギルドだ。
調べた通りで五級の依頼がたくさんあった。四級の依頼が少ないのも予想通りだった。今は一枚しかない。
特にすることもないので五級の依頼を初めて俺達のパーティーで受けよう。 農場の近くに新しくできたゴブリンの集落を殲滅してほしいという農場主からの依頼だ。
依頼書をもって受付に行きそれを受理してもらった後、受付の人が突然変なことを言い出した。
「前回の魔物討伐の依頼の報酬をまだ受け取ってませんよね?」
「……はい?」
「ですから四級魔物の二面大猿を討伐しましたよね?」
「確かに倒しましたが………その依頼は私達が受けたことになっているのですか?受けた覚えがないのですが」
「他の人が依頼を受けてあなたが倒したのならあなたの功績にできますよ」
「そうなのですか…………ではまだ報酬を受け取ってません」
「わかりました。こちらが報酬の金貨五枚になります」
めちゃめちゃ高い報酬だな。
さすがは四級の依頼だ。
今までの報酬の額とは比べものにならない。
この依頼一つで一般家庭の二か月半の分の給料を手に入れたことになる。
「では依頼を頑張ってください」
ギルド職員にお礼を言った後そのまま依頼を達成しに行った。
依頼を達成してギルドに戻ってきたときギルドで小さな騒ぎが起こっていた。
俺はその内容を訊くために傍にいた冒険者に話しかける。
「すみません。どうかしたんですか?」
「ん?ああ、なんか人が滅多に入り込まない森のずっと奥に十二・三歳ぐらいの一人の少女が走って行ったのを見た人がいたんだとさ。そんなわけあるかって言ってんだが間違いないって言い張るんだよ……。そもそも少女一人じゃそこまで行けないってのに」
「でも本当だったらかなり危険じゃないですか。今すぐ助けに行かなければならないのでは?」
「馬鹿か!?あんな危険な場所に俺たちみたいな五級冒険者がのこのこ入って行ったら四級魔物に囲まれて餌になっちまうよ!」
確かにそうだ。
四級魔物に囲まれたらさすがに姉妹でも危険だ。
「興味があるならあんたが行けばいいんじゃないか?」
「俺がですか?」
「そうだよ。悪いが俺達はそんなとこには行かないね」
周りの人達がその言葉に大きく頷く。
さすがにこれを非情だとは言えない。
その少女がどうやってそんなところまで行ったのか気になるし俺達でそこまで行ってみよう。
そんなところまで行けるくらいだ。
俺には少女がその先に進んで既に死んだとは思えない。
もし死んでいたとしてもそれは仕方がない。知らなかった俺にはどうしようもなかった。
いつもならこんなに目立ちそうな場所に行くのは気が引けるのだが、今回は生憎そんなところに行くような人は極僅かだろうから行くことができる。
そうと決まったらすぐ行動に移す。
まず姉妹にこのことを告げて付いてくるか訊いた。どうやら訊くまでもなかったらしい。
次に周りの人の会話を盗み聞きして大まかな場所を特定する。
ここから結構近い。といっても歩いて二日ほどのところなのだが。
ギルドの受付で依頼達成の証明部位を渡して依頼を完了した。
既に日が落ちあたりは暗いが俺に暗闇はあまり影響しない。
光魔法で照らしてもいいし魔力の感知だけで世界を見てもいい。
準備は特にないのですぐに出発した。
話に聞いた位置の付近まで来た。
この森の地図など無いため正確な位置はわからない。
だから間違った場所なのかどうかさえもわからない。
魔力感知にも魔物の魔力が反応するだけで人間の魔力など反応しない。
もう魔物に食べられてしまったのか。それとも場所を間違えたのか。そもそもそんな少女など存在しないのか。
理由はよくわからないがいないなら仕方ない。
しかしこの先には人族等は滅多に進まないらしいので何か面白い魔物でもいるかもしれない。
姉妹にはいろいろな魔物と戦闘して鍛えてほしいし、俺も本で読んだだけで実際に戦ったことのない魔物はたくさんいる。
だから戻るつもりはない。
夕食を食べた後は特にすることがないので結界を張ってさっさと眠ることにした。
翌日、俺達はそのまま先に進んでいった。
昼になる前に周りの異変に気付く。
「魔物の数が減った?」
先ほどからあまり魔物を見なくなった。
魔力感知にも全然引っかからない。
何か様子がおかしい。
「確かにそうですね」
「私も少ないなって思ってたよ」
やはり俺の勘違いではないらしい。
この近くには何かあるのだろうか。
普段無意識に感じ取っている魔力の範囲はあまり広くない。
普段から半径何キロもの魔力感知をしていては情報量の多さに気が滅入ってしまうからだ。
だから今は少し周りが気になったので魔力感知の範囲を広げてみる。
そこで俺はようやく魔物が少ない理由を知った。
かなり遠いところに魔物が集まっている。
しかも仲間同士で争いをしているというわけではなさそうだ。
どうやら魔物の中心にあるものに関心があるらしい。
俺はその魔物の中心にあるものを見るためにその集団のところへと向かった。