五級冒険者
次の日俺たちはユークリウス王国の王都ガルバインを出た。
結局ララリア王女とだけ魔力交換をした。ララリア王女に魔力交換をお願いされてさすがに断れなかったのだ。
ララリア王女も魔力の操作能力が上がったらしく、そのことを周りに教えないという約束をしてもらった。彼女は信用できる。他の人にバレても俺が交換しなきゃいいだけの話なのだが。もちろん俺の魔力にも何の悪影響もなかった。
これでユークリウス王国に何かあっても大丈夫だろう。
お世話になった人に挨拶を終えて馬車に乗り王都を出発した。
目的地は世界各地だ。
本によれば人類がまだ足を踏み入れていないような場所や興味を引くような場所はたくさんあった。
魔族契約者のための町などにはぜひとも行ってみたい。こういう町は意外に多いみたいだ。
これから向かうのはユークリウス王国の南東に位置するマーラッハ公国だ。
マーラッハ公国に向かっている理由は特にない。
この世界にはこの世界の住人にさえわからないことがたくさんあるみたいだし、そういうものを見ながら旅でもできたらなと思っている。
そこで一番最初はユークリウス王国の隣国であるマーラッハ公国にしたというわけだ。
マーラッハ公国に向かう途中は基本的に本を読んでいる。
そして今もユークリウス王国の領地の中にある森の中の街道を走っていた。
王都を出てからそれなりの日数が経っているがまだ国境にはたどり着いていない。
そろそろユークリウス王国の最後の町であるマルタ町に着くが一つ悩んでいることがある。
それはギルドについてだ。
六級になったころから依頼を受けていないのでもう数か月間は受けていないことになる。五級になったのはその時点ですでに階級アップ条件を満たしていたからだ。
さすがにそろそろ受けないと不味いんじゃないかなと思っている。
ただ五級ともなれば依頼のほとんどが討伐と魔物素材採取だ。要するに討伐ばかりだ。
討伐依頼で困るとは思えないのできっとすぐに依頼達成してしまうだろう。姉妹でさえ今の実力は四級冒険者並みなのだ。今も毎日訓練と魔物討伐をこなして実力を上げていっているところだ。
どうするべきか姉妹に相談してみる。
「私はギルドには定期的に行ったほうがいいと思います。情報の集まる場所ですし」
「私もギルドで依頼をこなしたい!いつまでも六級のままじゃいられないしね!」
二人がこう言っていては仕方がないか。
しかしアイナの言い方だと五級に上がることを確信しているように聞こえる。
六級から五級に上がるには大きな壁が存在するのだ。なにせ一番冒険者が多いのは六級なのだから。
まあ今のアイナの実力なら簡単に上がれるだろう。
上がり方さえわかれば。
とにかく俺がしていたみたいに普通に魔物を倒していれば上がるはずなのだが、俺にはどうしてあんな簡単なことが他の人にできないのかわからない。
ただの雑魚魔物討伐依頼をいくつかこなすだけで上がれたのに。
これくらいのアドバイスは姉妹に与えてもいいだろう。
マーラッハ公国の国境にたどり着く一つ前の町であるマルタ町に着き、宿をとってからすぐにギルドに向かった。
受付で姉妹の冒険者パーティーの階級アップを済ませ依頼掲示板を見に行ったとき、それぞれの階級の掲示板以外の掲示板に軽く人だかりができていた。
気になったので近づいてみるとそこには緊急依頼と書かれた依頼が貼り付けられていた。
内容はマーラッハ公国に繋がる街道付近に現れた四級魔物の二面大猿と呼ばれる魔物の討伐だ。この魔物は前後に顔が一つずつあり死角がないだけでなく体長が四メートルとデカい。特殊な魔法や能力を持つわけではないため四級で済んでいる。四級でも普通の冒険者では十分脅威なのだが。
この魔物が原因で街道が通行禁止になっているらしい。
愁斗はこれを受けるかどうか悩む。
ここで功績を挙げれば間違いなく目立つ。
そうならないわけがないのだ。
なにせ五級に上がってすぐに四級魔物と互角以上の戦闘など普通はありえないからだ。
今回はこの依頼を受けるべきではないだろう。
ということで姉妹の階級を上げるために姉妹と六級の掲示板に向かう。
そこで姉妹はそれぞれ魔物の素材採取依頼をとり受付に持って行って受理してもらう。
ここからは姉妹と別行動だ。
別行動の理由は心話の可能距離を調べるためだ。
今までずっと一緒にいた所為で実際にどれくらいの距離まで心話が可能なのか計測することができなかった。何かあった時に心話が届きませんでしたでは話にならない。
しかし今回は絶好の機会である。
調べないわけにはいかない。
姉妹がそれぞれの魔物の生息地へ向かい、そこそこ時間が経ったところで一度ユークリウス王国の王都ガルバインにワープして心話で話しかけてみる。
『二人とも心話届いてる?』
『はい。届いてますよ』
『届いてるよ!』
やはりこれくらいの距離ならば全然大丈夫か。
では次だ。
次は神域の一歩手前までワープしてみた。
この距離のワープは初めてしたが全然問題なかった。
『二人とも依頼の調子はどう?』
『先ほど終わりました。自分の成長を身に染みて感じました』
『私は今終わったところ!私すごく強くなってた!!以前倒したことのある魔物だったけど前回より簡単に勝っちゃったもん!』
ここまで来ても心話に異常なしか。
これならいざというときも安心だな。
というか姉妹が強くなったのを再確認できたのは良かった。
五級の強さの壁はとっくに過ぎたのだからこれは当然の結果なわけなのだが。
ただ、四級冒険者並みの強さをこの短期間で手に入れられたのは俺との魔力交換であるところが大きいと思う。あとはユークリウス王国の騎士の皆さんだ。
しかしこれからはそんなに簡単には実力が上がらないだろう。
四級からは上級冒険者の仲間入りだ。
ここからも実力を上げられるのは限られた人々だけ。
ただでさえ上級冒険者は数えられるほどの数しか存在しないのだから。
いろいろと確認が終わったところでマルタ町にワープで戻った。
そこからの日々は姉妹が五級に上がるまで依頼をこなす日々が続いた。
そして約一週間後、その目標は達成される。