訓練の成果
訓練では予想以上の成果を得られた。
体力にものを言わせて一日中訓練していたのだから当然と言えなくもないのだが。
体術は将軍から教わった。
最初に基本を教わった後は将軍が選んだ軍の実力者で実践した。
それも一対一では二日で圧倒できるようになり、そこから三日間は集団戦闘を中心に訓練をして、それも余裕ができたところでようやく将軍との実践だ。
さすが将軍というだけはあった。
数人の実力者を圧倒できるようになっただけでは将軍には届かなかったのだ。
そこからはひたすら将軍との体術勝負だった。
それも一週間ほどで将軍に勝てるようになり、今では将軍も圧倒している。
剣術は近衛騎士団長から教わった。
やり方は将軍の時とだいたい同じ。
下級近衛騎士を一対一で圧倒できるようになるのに一日、中級近衛騎士では二日かかり上級近衛騎士でも同じく二日かかった。この時点で近衛騎士団員全員の顔を覚え仲良くなった。全員が年下の俺に負けたことに対して嫌な顔一つせず、自分の実力を素直に認めていた。さすが国王直属の騎士といったところか、実力だけでなく精神的な部分でも騎士の見本というべき存在のようだった。
集団戦闘では五日で余裕ができ、近衛騎士団長との訓練で余裕ができるようになるのにはなんと一日だけだった。どうやら近衛騎士団長と上級近衛騎士はそこまで実力が離れていないそうだ。
そこからが大変だった。
剣術と体術を混ぜての戦闘は比較的簡単に慣れたものの、そこに魔法を加えると話が違った。
相手はそうじゃないかもしれないがこちらはかなり神経を使う。なんといっても、もともと魔法だけで遥かに圧倒できる相手なのだ。相手の魔法の威力に合わせようと自分の力を抑え、さらに魔法に頼り過ぎないように剣術と体術を組み合わせる。
これの集団戦闘になれるのに二週間かかった。
そして今日が最後の訓練。
最後の訓練は苛烈だった。
軍の実力者を倒して身体を温めたあと近衛騎士団の全員と乱捕りをし、その後に将軍と近衛騎士団長の二人組と俺一人でそこそこ力を出して戦った。
さすがに全員を一人で倒せることに自分でも少し引いてしまった。
国の面目丸つぶれにしてしまったかと軽い罪悪感に襲われたのだがそうはならなかった。
訓練は全て騎士団の訓練所と近衛騎士団の訓練所を使用していた。
要するに俺が異世界人だということを知っている人しかいないというわけだ。騎士団員と近衛騎士団員の全員が召喚に参加しているのだから。
だからこそ俺の実力が高いことは当たり前なわけで、皆どちらかというと明るい顔をしている。
近衛騎士の一人に話を訊いてみると「自分たちが全力で召喚した人物が力のある人物で良かった」と言われた。
ミネリク皇国に対抗できる戦力として見れば心強いのだろう。
俺としては戦争を起こす前に内部から潰したいところなのだが。
予想外の成果が出たのは俺だけじゃなく姉妹もだった。
姉妹曰く「魔力の操作能力がかなり向上し、魔法の威力も以前の比ではない」とのこと。
原因はおそらく俺との魔力交換だろう。それ以外に思い当たる節がない。
人間同士の魔力交換で魔力の操作能力が落ちたという話は聞いたことがあるが、その逆は姉妹でも聞いたことがないという。
人間が魔物に魔力を渡すと魔物の力が増幅するらしいのだが、実はこれに関係があるのではないかと思う。
まだ姉妹以外に魔力を交換していないので何ともいえないが。
このことについてはまだ俺たち三人の内緒だ。
他にも俺の肉体については「念のために常に強化魔法をしている」ということで誤魔化している。
俺の肉体の凄さの一端を一度見せているので、何とか誤魔化せているといった感じだ。
約一ヶ月半続いた訓練で、姉妹も魔法以外にそこそこ実力を上げていた。
といっても四級冒険者に届くか届かないかといったところだろう。
魔法だけでいえば届いているだろうし、他の部分では届いていないと思う。
まぁ訓練についてもだいたいわかったし、これからも三人で行動するときは今まで通りに訓練していけばいいだろう。
むしろそっちが訓練しやすそうな気がする。
この訓練の間にサリバンさんとラスタルさんの依頼も受けた。
以前頼まれていた治療の件だ。
幸運なことに治療相手は二人ともこの王都に住んでいたので治療に半日もかからなかった。
俺が治療したら二人とも泣きながらお礼を言ってきた。
お礼の報酬はお金でいただくことにしたのだが、治療した相手がそれ以外にお礼がしたいと言ってきたのでコネができてこっちも嬉しいとだけ言っておいた。
やはり親族に国の重役の人物がいるだけあってそこそこの地位があるらしい。
お金もそこそこ溜まっているし自分達はかなり強くなったと思う。
ユークリウス王国への帰還という大きな目標も終えたところで、この先どうしようか迷う。
ミネリク皇国を潰しに行くにもさすがに姉妹を連れていくわけにはいかない。
危険すぎるというのもあるし何より巻き込みたくない。
姉妹の意思はどこにでも付いて行きたいというものですごく迷う。
今すぐに決めないといけないというわけではないので、もう少し時間を置いてみるのもいいかもしれない。
今後何かあって状況が変わるかもしれないからだ。
一通り訓練が終わったその日の夜、姉妹は俺の部屋に来ていた。
「そろそろこの王都を出ようと思うんだ。二人はどうしたい?」
「ご主人様にどこまでも付いて行きます!」
「私も絶対付いて行く!」
少し言い方に語弊があったみたいだ。
「そうじゃなくて、どこか行きたい場所はあるかってことだよ」
「行きたい場所ですか?特にはないですね」
「私も特にないよ」
うーん………これは困った。
「この世界って図書館ってある?」
「ありますよ。確かこの王都にもあったと思います」
じゃあ明日は本屋とか図書館でいろいろと調べてから出発することにしよう。
次の日、まずこの街最大の本屋に行くことにした。
そこでいろいろと気になる書物を購入する。
本当にファンタジーの世界はよくわからないと感じた。
どうやら魔法だけでは語れない不思議なものがたくさんあるようだ。
しかし一番驚いたのが本の値段だ。
この世界の識字率は低い。そもそも文字は読めるに越したことはないが、別に読めなくても全然生きていける世界だ。しかも勉強する暇があるなら働けと言う人も決して少なくはない。
よって本というものは勉強する余裕がある人が買い求めるものなので必然的に高くなるというわけだ。
日本で小説を買えばだいたい六百円やそこらで買えたものだが、こちらの世界の小説は銀貨十枚―――一万円相当―――だったりした。
図鑑や研究者が発表した論文にあたるものはこれの十倍ほどのものまで存在した。
もちろんお金に余裕があったので値段はあまり気にせずに買った。
それでも白金貨一枚にも満たない額だったのでやはり白金貨とはすごい額であるらしい。
店長はこの金額分の本を買った俺に驚いていたのでさすがにここまで買う人はあまりいないということがわかった。
本屋で見かけなかったものを図書館で調べようと思ったのだが、俺の頭を以てしても全然読みきれない。そりゃそうだ。
ということでもう少し滞在することになった。
姉妹にはその間も訓練するように言っておいた。
結局一週間ほど王都に滞在したのだった。