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ミネリク皇国脱出

 軽い。とてつもなく軽い。まるで自分の身体が別物になったかのような感覚だ。

 しかも自分が今走っているスピードが普通じゃないのは誰が見たってわかるはず。車で高速道路を走っていたってこんなに速く走れないだろう。いや、この世界ではこのスピードが普通なのかもしれない。まだあの女以外には会っていないから、この世界の常識が全く分からない。

 そう。あの人は女性じゃなくて女でいい。あんな人に少しも敬う必要はないのだから。

 

 普通じゃないのは身体だけじゃないらしい。思考も加速しているようだ。よくよく考えてみれば、森の中を高速で動けるわけがない。なのにもかかわらず、普通の道で走るような感覚で走れている。なんだか笑えてきた。

 このまま行けるところまで遠くへ行ってしまおう。


 そんなことを考えていたとき、突然首が締まるような激痛が走った。


「グァアア!!」


 激痛から逃れようと首に手を当てて初めて、首輪のようなものをつけられていることに気付いた。

 そのまま自分の馬鹿げた腕力で壊そうと思ったが壊れない。意識が朦朧としてきてこのまま自分が死ぬんだとなんとなくわかった。

 最後の悪あがきに全身から力を発散するように両手に力を込めた。


 そのとき身体から何かが少し出ていく感覚を覚えて首輪が砕け散った。


「はぁはぁ………マジで死ぬかと思った」


 九死に一生を得たためか全身から力が抜けてその場で寝転がった。

 今自分が来ている服であるスウェットが汚れてしまった。いつもなら気になることだが今は全く気にならなかった。

 疲れたから今は何も考えずに少し休むことにした。








 その頃シーナは少年が戻ってこないことから少年が死んだと思い込んでいた。

 あの首輪は奴隷の首輪。

 奴隷の首輪をつけられた者は首輪をつけた者の命令に逆らうと、首輪が縮まり首輪をつけた者を死に至らしめるようになっている。

 今までもシーナが所属している国では召喚した異世界人に奴隷の首輪をつけて操っていた。

 しかし、たまに死ぬことを覚悟したうえで命令に逆らう者もいたため、利用する前に命令に従順かどうか確かめることになっていた。

 辺境の別荘にいた理由は命令無視で周りに被害を出さないため。過去に1度だけ命令無視で国の一角を消し炭にした者がいたという。


「残念ね。顔だけは好みだったのに………まぁ城に戻ればいくらでも陛下に可愛がってもらえるのだから気に病む必要はないわね」


 自分の役割を終えたため、城に戻る準備を始める。

 その顔は仕事をやりきった満足感と愛する陛下に会える喜びで溢れているのだった。








 数十分の休憩を終えて移動を再開しようとしたところで1つの疑問に行き当った。


「魔物はどうしたんだ?」


 この森は魔物が跋扈していて危険だとあの女は忠告してくれた。にもかかわらず、今のところ1匹も魔物と思われるものに出会っていない。

 もしかしてあの女の言っていたことは嘘だったのか?いや、さっきの首輪は明らかに普通じゃなかった。鎖を軽々と引きちぎることができる腕力で全力を出したにもかかわらずビクともしなかった。いわゆる『魔法』なるものが存在するのだろう。その証拠に首輪を壊したときに身体の中から何かが抜ける感覚があった。あれはおそらく『魔力』と呼ばれるものだと思われる。生命力だと考えることもできなくはないが、そういう人は現実的すぎていけない。



 愁斗本人は気付いていないが、先ほど放出した魔力に魔物が怯えて愁斗から離れて行ってしまったのだった。

 さらに向かっている方向も人が全く立ち入らない領域がある方向で、シーナの所属する国の首都とは真逆だということも今はまだ知らない。



 まぁどんなに深く考えたところで誰かが正解を応えてくれるわけでもあるまいし、今は先に進もう。


 そう前向き?に考えて森の奥へと進んでいくのであった。



 日も落ちかけてきてあたりが少し暗くなった頃、俺は初めて魔物と遭遇した。

 初めて見た魔物は全身が血を浴びたかのような真っ赤な毛で覆われていて、牙も爪も鋭く、体長が5メートルほどもある熊のような魔物だった。


 それを見た瞬間殺されると思い、近くの木に隠れた。地球ですらこれほど巨大な肉食陸上生物はいないのに、日本生まれで一般人である俺が「勝てるぞ!戦おう!!」などという思考に行き着くわけがない。幸い向こうはまだ俺に気付いていない。

 まだ熊モドキとの距離は三十メートルほどある。熊モドキの存在に気付けたのは偶然か必然か。

 俺は気付かれないように大きく迂回しそのまま先に進む。


 それからというもの頻繁に魔物と遭遇するようになった。どれも先ほどの熊と同等かそれ以上の大きさのやつばかりだ。だがどれも相手に気付かれる前に俺が気付くため、全て迂回して先に進む。

 ここまでくればさすがに偶然などとは思えなくなり、これが自分の気配察知能力だと俺は気付く。


 さらに魔物の大きさが徐々に大きくなっていっていることから、自分が踏み込んではいけない領域に足を踏み入れてしまっていたことにも気付く。

 しかし後戻りはできない。起きてから何も食べていないし飲んでいない。何故か疲れはないが、腹は減るし喉は乾く。木の実などはあったが食べられるかわからなかったので見なかったことにした。

 ここまで走ってきて川を見ていないことから、もう少し進めば川があると予想して前に進み続ける。いや、ないと困る。

 そもそも魔物がいるのだから水飲み場がどこかしらにあるに違いない。あらゆる生き物は少なからず水分を必要としているはず。魔物には必要ないのかもしれないが、そんなことは俺の知るところではない。


 手元に水がありいつでも飲めるが飲まないのと、手元に水がなくいつ飲めるのかわからない状態で飲まないのでは、精神的なダメージに決定的な差がある。


 愁斗の精神にヒビが入りそうになった夜中にそいつらはあらわれた。

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