王都での一日
城の客室を出た俺は外で待っていたメイドさんに外まで連れて行ってもらう。
この人は先ほど客室に向かう時も案内してくれた人だ。
しかし途中でもう一人のメイドさんに呼び止められ、また違う部屋に案内された。
そこで先ほど話に出た金銭の入った皮袋をザルザさんに渡される。
ギルドに直接振り込むか訊かれたが、こんな大金が振り込まれていたら引き出す時に目立ってしまうので丁重にお断りした。
それ以外にこれといった話はなかったので、すぐに部屋を出て城を去った。
俺の馬車以外は全て帰ったようで俺の馬車だけが取り残されていた。
軽く馬を労ってから馬車に乗って出発する。
まだ昼には少し早かったので、見回りをしていた騎士にギルドの場所を訊いてギルドに向かった。
この街の近くに魔物や盗賊などが少ないせいか冒険者の数もかなり少ない。
ギルドの中にも人はあまりいなかった。
しかしここでも一つのちょっとした出来事があった。
俺がギルドに入り依頼掲示板から六級の依頼、情報掲示板から街や街の周りの情報を集めていると、ギルド職員の女性から話しかけられた。
「あのー……もしかして六級冒険者のシュウトさんでしょうか?」
「はい、そうですが」
返事をしながら振り返る。
「少しお話があるのですが受付まで来てもらえますか?」
「いいですよ」
俺は特になにも考えずに受付へと向かった。
そこからギルド職員が話し始めた。
「実はシュウトさんに階級アップの許可が下りました。お受けしますか?」
「え?俺は六級に上がってからほとんど依頼を受けていませんよ?」
これは事実だ。
四級冒険者のエリシアに忠告をもらってからほとんど依頼を受けていない。
他にも移動が忙しかったとかお金に困っていないとかいろいろと理由はあるのだが。
「どうやら情報によりますと六級に上がる前から五級に上がるための条件を満たしていたそうですよ。しかし階級を飛び級で上がるということは認められていないので一定期間の猶予を設けたそうです」
「そうですか………どうして俺だとわかったんですか?」
「それはもちろんギルドが冒険者の容姿を記録しているからです。それ以外にもあなたは将来の有望株として期待されていますから、ここの近くのギルドのギルド職員の中で有名ですよ」
「なるほど」
あのときの連続依頼達成はまだ尾を引いていたか。
やはりもう少しギルドの依頼は自重するとしよう。
「ではギルドカードを提出してもらえますか?」
「わかりました」
ギルドカードの更新が終わったあと一言だけ付け加えられた。
「冒険者パーティーの階級も五級に上がりましたので、次回はパーティーメンバーと一緒にギルドにいらしてください」
「わかりました」
当分来ません。
ギルドから出た後は馬車に乗って宿まで向かった。
そこで帰りを待っていてくれた姉妹と一緒に馬車に乗り、城に向かう途中で昼食をとる。
お金が多く手に入ったので個室で食事をとれる高級料理店での昼食にした。
そこで城で話したことの大まかな説明をして今後の行動について話した。
「えっ!?しばらくお城で住むことになったんですか!?しかも鍛錬のためにですか!?」
「どうしようっ!?着飾る必要があるのかな!?」
最初はこんな風に驚いていたがすぐに落ち着きを取り戻した。
そのあとも城での出来事を話し続けてしっかりとリアクションをとってくれた。
さすがにお金の話は少し控えめに話しておいた。
それも五十分の一ぐらいにして。
それでも十分驚いていたのだが。
どの話にもしっかりとリアクションをとってくれるのは正直言ってかなり嬉しい。
疲れさせないかと心配ではあるのだが。
食事が終わり城に向かって馬車を進めていく。
それに伴って姉妹はドキドキがましていったらしいのだが、俺はどうも緊張感がなくなっていた。
城での出来事の所為なのだろう。
もしかしたら自分の複雑なこの立場が国王に対して優位に事を進められるものだと思っているからなのかもしれない。
それとも国王の人柄というものをある程度理解したからなのかもしれない。
自分でも本音についてもわからないのであった。
城に着いたら難なく城に入れてもらえた。
そして先ほどとは違うメイドさんに俺たちの部屋へと案内された。
さすがに俺と姉妹は別部屋だったがこれは容易に予想できたことだったので気にしていない。
部屋に置くべき荷物などは全てバッグに偽装された亜空間にしまってあるので特にはなく、部屋に入ってすぐまた街に繰り出した。
姉妹には申し訳なかったが少しの間待っていてもらう。
もちろんその間にも俺の魔力感知は姉妹を捉えているので、何かあってもすぐに気づくことができるので安心だ。
俺は武具屋に行き素材だけ最高の残念防具を改良してもらうことにしたのだ。
軽い聞き込みで見つけたこの街の最高の武具屋に向かった。
その建物はとても綺麗で正直拍子抜けした。
もっと見た目がお粗末でも中身が最高な武具屋というものを想像していたからだ。
実際に中に入ってみるとこれまた綺麗に整理整頓されていて、とても腕の立つ鍛冶師がいるような場所には見えない。
「いらっしゃいませー」
駆けつけてきたのはまだ見習いに見える若いお兄さんだ。
荘厳な雰囲気などまるでない。
「今日はどのような武具をお探しですか?」
「…………おすすめの頑丈な大剣を」
「わかりました。………これなんかいかがでしょうか?これはこの店の中でもかなりよくできたものでして簡単には壊れませんよ」
「あ、すみません。用事を思いだしたので帰ります。ありがとうございました」
俺はすぐにその店を出た。
なんだったんだこの店は。
確かに品揃えは良かったと思うし接客も決して悪いものではなかった。
…………もしかしてこの街最高の武具屋とはそういうことを言っていたのだろうか。
よく考えてみればわかることだった。
そもそも魔物被害のあまりないここで鍛冶が発達するか?
いや、腕の立つ鍛冶師が集まるか?
集まらないよな。
なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ………。
愁斗は自己嫌悪に陥りながら城への帰路につくのであった。