ユークリウス国王への謁見1
今日はいつもより少しだけ早く起きる。
さすがに国王の前に出るのに緊張しないわけがない。
しかし極度の緊張というわけでもない。
この国の国王はかなり善良な人物であると聞いているし、俺に害を与えたりしないだろう。
そこさえわかっていればあまり深く考える必要はない。
何かあっても一人で生きていける世界なのだ。
姉妹には今日は留守番をしていてもらう。
この件に関して何も関係のない二人を連れていけるわけがない。
今日の話し合い以降は一緒に行動している以上いろいろと巻き込むことになるのだろうが。
一人で複数の馬車に荷物を詰め込む。
この荷物とは魔物の素材だ。
神域近くで獲れた魔物の素材はこの王都のオークションで高く売るつもりでいた。
しかし考えてみたら、あれ程の量の素材を全部オークションで売ったら少し価値が下がってしまいそうだ。というより売り切れない。
なにせ神域近くに何週間も滞在して数えきれないほど巨大な魔物を倒したのだ。
馬車でいえば数十台分に匹敵するだろう。
だから今回は近くで雇った馬車十台分に限界まで素材を詰め込んで、国王に直接売りに行くことにした。
御者達にはそれぞれ金貨一枚握らせて、中を見ないことを条件に城まで運んでもらうことを約束させた。金貨一枚をはした金だと思うような身なりのいい人には頼んでいない。
荷物を詰め込み終わり俺の馬車を先頭にして一斉に城まで向かう。
途中で俺たちの奇行は周りの目を集めたが、顔を見られているわけではないので気にしない。
そこそこ時間をかけて馬車を城門の前までたどり着かせた。
そこで門の前にいる騎士の一人に近寄る。
さすがは王都が抱える騎士だけある。
他の町で見た騎士とは纏う雰囲気が異なる。
「すみません」
「何か用か?」
騎士はこちらを少し警戒しているようだ。
まぁこれは仕方がないことだ。
馬車をここまで多く引き連れてくるのは、普通は連絡が入っているような用件であるはずだろうから。
それに顔をローブで隠して隠しているのも原因の一つだろう。
俺は騎士にのみ見えるようにローブについたフードを少し持ち上げる。
もちろん髪にかかっていた魔法は解除して。
すると俺の顔を細めた目でじっと眺め、何かを思いだしたように驚愕の表情になった。
「っ!!まさか異世―――――――――――――」
「シーーー!!」
俺は慌てて口に人差し指をあて、静かにするように伝えた。
すると何とか声は抑えることができたようだ。
この世界でもこのジェスチャーが通じるようだ。
「国王様に会いに来ました」
「わかりました。すぐに連絡いたします」
「それと、この馬車は国王様に売るためにお持ちした品ですので慎重に扱ってください。ちなみに御者の方は中身を知らないので見せないようにしてください」
「わかりました」
そう言うと騎士は近くにいた別の騎士に何か伝えてから城の中に消えていった。
ユークリウス国王であるヴィルヘルム・オルデス・ユークリウスが執務室でいつもの日課である書類整理をこなしていた時だった。
いつもより強めに扉を叩く者がいた。
「入れ」
「失礼します!」
扉を開けて入ってきたのはこの王都に所属する騎士だった。
だがそれは少し奇妙だ。
この部屋を騎士が訪れることは限りなく珍しい。
国王の執務室を訪れるのは騎士よりも高い階級の者、それこそ爵位を持ったものやこの城でそれなりの地位についた者だけだった。
騎士も国でいえばそれなりに地位は高いが城の中でいえばそうでもない。
もちろん訪れてはいけないという規則はなかったが心情的に躊躇われるはずの場所であった。
何か不測の事態が起こったのだと身構える。
「何用だ」
「ご報告いたします!只今、この城に私たちが召喚した異世界人が訪ねてきました!」
「何だと!?」
国王は思わず椅子が倒れるのも気づかずに立ち上がった。
「目的は何だ!?」
ヴィルヘルムは恐れていた。
ミネリク皇国に囚われ命令を聞かざるをえない状態へと追い込まれた異世界人がこの国へとやってくることを。
もしかしたら間違った情報を与えられているかもしれない。
ユークリウス国王に召喚され無理やり使役されそうになっていたところをミネリク皇国が助けただとか。
どちらにしても悪い発想しかできない。
「国王陛下にお会いしたいと」
「………そうか。客室に連れてきてくれ」
謁見の間では何かあった時に全員を巻き込んでしまう可能性がある。
異世界人なら国王直属の上位の近衛騎士が五人もいれば抑え込めるかもしれない。
しかし仮に抑え込めたとしても近衛騎士の五分の一もの命を危険にさらすことになる。
これは国の軍力を大きく削ることに繋がるかもしれないということだ。なんとしても避けたい。
会わないという選択肢もあったがそれは決して選べない。
本人がどう思っているのであれ、彼を呼び出したのは私だ。
真実を告げることだけはしなければならない。
たとえ信じてもらわなくとも。
城に入って一つの部屋に通された。
てっきり玉座のところまでつれていかれると思っていたけど違っていたらしい。
でもそれも当たり前か。
どこかの国の重鎮に会うわけでもないし、一市民が会いに来ただけでそんなところに通されるはずはないか。
そんなことを考えていると二人の男とその二人を警護しているのであろう騎士が十人ほど部屋に入ってきた。
しかし部屋の周りにはもっといる。
扉の外には十人以上のそこそこ強い魔力を感じるし、天井の上やこの部屋に繋がっている隣部屋にも複数の魔力を感じる。
部屋に入ってきた二人のうち一人は五十代前半と思わしき顔つきで、普段は優しそうな顔に見えるであろうが今はかなり真剣な表情をして優しさが少し抜け落ちている。
おそらくこの人が国王なのだろう。
もう一人は国王であろう人の横を少し後ろからついてきている。
この人はこの国の大臣の一人なのであろうと予測する。
俺は彼らがこの部屋に入ってきたところで椅子から立ち上がり、上品に見えるようにゆっくりとお辞儀をした。
「初めまして。大崎愁斗と申します」
「うむ。私がこの国の国王ヴィルヘルム・オルデス・ユークリウスだ」