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心話

 愁斗達がアリステを発ち王都ガルバインに着くまでは非常に平和な日々を過ごしていた。

 王都近郊なだけあってさすがに魔物がほとんどいない。

 盗賊などにも出くわさなかった。

 おそらく王都に所属している騎士等が定期的に排除しているのだろう。または治安がいいため盗賊になるような人々などいないのか。


 この期間、三人で鍛錬などは行うようにしていた。

 もちろん三人とも誰かに師事していた経験などないため自己流の鍛錬になってしまい、余計な力を入れていたり変な癖がついていたりと、全てがプラスになるような鍛錬にはならなかったが。


 愁斗は自分が剣術や体術に関する知識がほとんどないことを知っているため、このままではダメだと思っている。

 そしていろいろな種類の剣術や体術を習得したいとも思っていた。

 これから先、今のままの力任せな戦い方では勝てないような人物に遭遇するかもしれないと考えていたのだ。魔法抜きでの話だが。


 身体、頭脳の両方にて異常な性能を有するようになった愁斗はこの考えのもと、今後短期間で恐るべき成長をすることになる。




 愁斗達が長い待ち時間の末ようやく王都の街の中に入ることができるようになったのは、門番による検門の列に並び始めてから六時間ほど経過してからだった。


「ようやくだね」


 すでにあたりは薄暗く、もうそろそろで門が閉じられてしまうところだった。


「そうですね。今日はひとまず宿を探してから夕食を食べることにしましょう」

「そうしよっか」


 門の近くにある宿でとりあえず一泊だけすることにした。

 せっかく王都まで来たのに適当に決めた宿に泊まるのは少し躊躇われる。

 お金には余裕があるし少しくらい高くてもかまわないしな。

 せめてもう少し吟味して宿を決めたい。


 一階にある食堂で夕食を口に運びながら周りに耳を澄ましていたらとんでもない話を聞いてしまった。


「聞いたか?カイン病の完治者が隣町に出たらしいぞ」

「まじか!?」

「ああ。誰が治したのかはわからないらしいけどな」

「そうか…………あいつの子供ももう少し早くその人に見てもらえていればなぁ」

「そうだよな………」


 おいおい。

 なんでこの話がここまで来てるんだ?

 俺たちはケイトさんを治療してすぐにこの街に来たんだぞ。

 俺達以外がこの話題を知ってるはずはないだろう。

 噂が伝わるのは速いっていうアレか?速すぎるだろう!!


「あのさ……他の人がケイトさんの病気が治ったことを知ってるんだけど………」

「そんな会話が聞こえたのですか?私には聞こえませんでした」


 ただでさえ耳がよくなった俺が耳を澄ましていたからこそ偶然聞こえたんだろう。


「おそらく心話で伝わったのではないでしょうか」

「心話?」


 テレパシー的なやつか?


「はい。魔力を交換して繋がりを作ることで、遠くにいても魔力に言葉をのせて届けることができるようになります。魔族契約と似たようなものです」

「へぇー……俺達も交換しとけば良かったんじゃない?」

「そう気安くできるものではないのです。他人の魔力が自分の中にあると自分の魔力に他人の魔力が干渉してくるのです。要するに魔力操作が下手な人や魔力量が少ない人が使うと魔法そのものを使えなくなる可能性もあります。もちろん相性の良し悪しもあって、そうはならない場合も多々ありますが………。さすがに複数人と魔力交換すると魔力操作に長けた者でも影響が出てくるそうですよ。ちなみに魔族契約では魔力を一方的に渡すのでそれが起こらないそうです」


 なるほどな。

 確かに危険な賭けだと思う。

 心話のために魔法が使えなくなるなんて勿体ないしな。

 俺も一般人だったらこんな危険な賭けはしない。


「ですから私達姉妹でさえ魔力を交換していません」

「そうなんだ。じゃあまずは俺にレイナの魔力を渡してほしい」

「……え?」

「交換は置いといて、まずは魔力の相性を確かめてみようよ」

「ですがもし魔法が使いにくくなったらどうするんですか!?」

「うーん………たぶん大丈夫だと思う。魔力操作は得意なほうだし」

「確かにそうですけど………」

「じゃあお願い」


 そう言って手を差し出した。

 魔力を渡しやすくするためだ。


「はい……」


 レイナが渋々ではあるがそっと俺の手を握ってくる。

 そしてレイナの魔力がゆっくりと自分に流れ込んできた。

 まるでレイナの人となりを示したような優しい気持ちになれる魔力だった。


 手を放してから自分の魔力に問題があるかないか調べてみるけど今までと全く変わらない。

 周りに気づかれないような微風を吹かせてみたがやはり変わらなかった。


「やっぱり問題ないみたい」

「良かったです!」

「じゃあ次は俺の番だね」


 俺の魔力もレイナに渡す。

 レイナも全く問題はなかった。


「ご主人様!私も交換したい!!」


 アイナも交換を要求してくる。

 もちろん最初から交換するつもりだったけど。


「わかった」


 アイナともレイナと同じように魔力を交換した。

 アイナの魔力は気分を明るくさせてくれるような元気な魔力だった。


 お互いに何も影響はないようだし魔力交換は成功したといえる。


「そういえばどのくらいの距離まで心話って伝わるのかな?」

「個人の力量によるのではないでしょうか。一般的には数百メートルほどだと思いますよ。腕が良い者同士だと数十キロほどは可能だと思います。ご主人様なら………大陸横断ぐらい軽くこなしてしまうのでしょう」

「私もその意見に一票!ご主人様ってスゴすぎだもん!!」


 大陸横断なんていつになるかわからないから確かめようがない。

 するかどうかもわからないことだ。

 暇があったら心話可能距離を調べてみよう。


  




 ほとんどの人は知らないことだが回復属性保持者は他人の魔力と相性がいい。

 相性は魔力属性によるものではないが回復魔法は他人の魔力とうまく溶け込む性質があるため、回復属性の魔力は他人の魔力にあまり干渉しないのだ。


 さらに愁斗の場合は他者をまるで寄せ付けない圧倒的な魔力量にも理由があった。

 愁斗の魔力量からすれば他人と交換した魔力量など砂漠に落ちた米粒のようなものだった。

 米粒では砂漠に微かな影響すら与えることはできないだろう。




 さて、明日からすることは決まっている。

 まずはこの王都にある城へ国王に会いに行く。

 そこから先どうなるかはわからないがせめて自分の自由だけは認めてもらうつもりだ。

 そもそもこの国に所属しているわけではないのだが、俺をこの世界に呼んだのはユークリウス王国らしいのであくまでの話なのだ。


 よし!

 今日はもう明日に備えて寝るとしよう。

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