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回復薬とカイン病1

 次の日、朝早くから準備を整え次の町に向けて発った。


 基本的には姉妹が御者を務めてくれるが、男が御者もできないようでは笑われてしまう……かもしれない。

 だから姉妹に御者を習っていた。


 正直に言えば難しいわけではなかった。

 姉妹の話によれば馬によって操車難度は変わるらしいが、今回は良い馬に当たったようだ。

 うん、なんかそんな気がしていたんだよね。

 俺の目に狂いはなかった!!


 そんな幸運に気をよくしながら愁斗一行は順調に街道を進んでいった。


 次の町に辿り着くまでに魔物には何度か会ったが全く問題なかった。

 姉妹は強いというわけではなかったが、弱いというわけでもない。六級冒険者みたいだし普通の強さといったところ。

 ただ、一度だけ盗賊に会ったときは焦った。

 姉妹は盗賊に人生を狂わされたばっかりだし、いきなり暴れだしたらどうしようとも思った。

 しかし何も起こらなかった。

 踏ん切りでもついているのだろうか、冷静に俺の言葉を待っているようだった。

 俺は二人が見てる前で即座に盗賊を気絶させ、武器防具を少し離れたところにまとめておき、用意しておいたロープで木に縛り付けておいた。

 今はそのまま盗賊を放置し先に進むことにした。


 夕食頃に姉妹の目を盗み、ワープで盗賊のもとに戻る。

 もう一度気絶させてから先ほどの町に盗賊ごとワープする。

 門の傍に縛った盗賊を置いてから姉妹のもとに戻る。

 人質のいない盗賊に出会ったときはこれが習慣になっていった。

 姉妹以降はまだ人質を持つ盗賊に出会っていない。

 盗賊が捕縛されたら死罪と決まっているらしいが、そこまでは愁斗のあずかり知らぬことだ。


 慣れとは怖いもので、今まで数百という魔物と数十の盗賊を殺してきた。

 本人は気付いていないが、死というものにゆっくりと慣れてきている。この世界では生き物の死を目撃する機会が多すぎる。

 いや、この世界というものに順応してきていると言ったほうが適切だろう。

 できるだけ人は助けたいとは思っているものの、人殺しを平気でやるような人に同情の余地はないと考えるようになっている。

 また、このことを指摘する人がいないというのも大きな要因なのかもしれない。




 王都の一つ前の町は今までで一番大きな町だった。

 ここの領主はなかなかいい人らしい。

 政治にもそこまで詳しいわけじゃないし爵位を持つ人にも会ったことはないので大人の世界がいったいどういうものなのかよくわからないが、その領地の民を見ることで善政を敷いているかどうかぐらいはわかるつもりだ。

 今までもそうだったがこの町もなかなかにいいところだ。

 いや、この国がいいのかもしれない。


 もちろん全員がいい人だとは口が裂けても言えない。


 回復魔法が普及しているこの世界だからこそ、回復薬などという前の世界の人間が聞いたら鼻で笑われるような品物もある。

 回復魔法を受けられる場所もあるにはあるのだが、町の外で回復が必要になる場面は多くある。

 冒険者パーティーに回復属性保持者は重宝されているのだが、なんといっても数が少ない。

 その上効果も人それぞれで、切り傷しか治せないような人から重い病気も治せるような人まで様々だ。いうまでもないが、重い病気を治せるような人は非常に稀である。


 そこで回復薬が出てくる。

 回復薬は薬草などによって作られるのが一般的だが、もちろん薬草で作った回復薬にも魔力が大いに関係してくる。

 回復魔法に近い魔力でなければ、そもそも即効で身体を治す効果など得られるはずもない。

 一般的でないものには食べ物などに回復属性を付与魔法で付与して摂取するというものがあり、これはかなり高価なので一般人には手が出せない。

 さらに本物か偽物か見分けることができる人は魔力の属性を一つ一つ見分けることができる人だけであるため、そんな人は大陸中探し回っても見つからないだろう。だからこそ回復薬で詐欺を行う人も後が絶たないのだ。

 もちろん国から正式に証明書を受け取った者だけが販売していいことになっている。


 愁斗達はこの詐欺師の一人にしつこく売り込みをされていた。

 しかもその許可証を何故か持っている。


「ですからこれは本物なんですよ。今なら銀貨二枚!!」


 愁斗は魔力を見分けることができるため、これが偽物だということがすぐにわかった。

 さらに姉妹から回復薬の相場が銀貨五枚であることも聞いており明らかに怪しい。


「どうしてそんなに売りたがるんですか?」

「君たちのような子供には安めに売ってあげないと手に入りにくいだろう?だから私が善意で売ってあげようと思ったのさ!!」


 善意ね。

 しかも俺が子供だとばれているのは何故だ?

 やはり雰囲気が子供なのか!?!?

 いや、そんなことは今はどうでもいい。

 それよりも重要なことがある。


「どうしてその許可証をもっているんですか?」

「国からいただいたに決まっているじゃないか」


 あらそう。

 こんな小者臭たっぷりなやつがどうやって手に入れたのか気になるが、こんなことに時間を浪費したくない。

 しかし子供を舐めているこいつには何を言っても無駄な気がしたので無視して先に進むことにした。


「後悔しますよーー!」


 後ろで何か言っている気がしたが、残念ながら俺の耳はそれを聞き入れたくないようだった。


 その日はそのまま宿に泊まることにした。

 自分専用の武器防具は王都で買うつもりだし、特にここですべきこともない。

 明日は移動の準備を済ませたら食べ歩きなどをしながら町の探索でもしよう。


 寝る前の会話で先ほどの詐欺師が話題にあがった。


「よくもまぁあんな嘘を平然とつけるよね」

「全くです!!子供を馬鹿にしすぎです!!」

「そうだそうだ!!私はもう子供じゃないんだ!!」


 アイナ……話の論点がずれてるよ。


「これからも気を付けよう。あんなやつばっかりじゃないと思うけど」

「そうですね。私ももう少し大人の女性になれば少しは侮られなくなると思うのですが」


 そんなに子供だと侮られたことを気にしているのか?

 確かに大人の色気を出すにはまだまだ早いと思う。

 しかし色気を放つ大人の女性には訳あってあんまりいい印象をもってないしな。


「俺は今のままで十分だと思うよ」


 そんな他愛ないことを話してその夜は更けていった。

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