監禁
「えっと……。ここは俺の部屋………じゃないよね」
俺(大崎愁斗・オオサキシュウト)が目を覚まして最初に目に入ったのは見慣れない天井。
俺の記憶にある自分の部屋はこんなに綺麗な天井じゃない。
自分が眠っていた部屋を見回して目に入るのは、いかにも高級そうな二人掛けの机と椅子、それに自分の眠っているこれまた高そうなベッドだ。もちろん全て記憶にない。
窓の外を見ると太陽が高くまで昇っていることがわかる。おそらく昼頃だろうか。
一瞬、酔っ払って知らない人の家に上がり込んだのかと思ったが、そもそも高校三年生である俺は酒を飲まない。
しかし何故か頭痛がするし身体がだるい。やっぱりお酒を飲んでしまったのだろうか。
ぼんやりとそんなどうでもいいことを考えていた時だった。
扉の開くような音がして、そちらを向いてみる。
そこには二十代後半と思しき女性が立っていた。見た目は明らかに日本人ではない。整った顔立ちに綺麗なロングの銀髪で、スタイルは豊満な胸に細い腰回り。明らかに美女といっても過言ではない。
「あら、目を覚ましていらしたのね。具合はいかがですか?」
妖艶な笑みを浮かべて尋ねてくる。
こういう笑い方をする人は個人的に好きじゃない。大抵こういう笑い方をする人は碌なことを考えていない。
早くこの場から逃げた方がいいと直感が告げている。
しかも外国人なのにも関わらず会話は通じるようだ。とりあえず今は何とかこの場をやりすごそう。
「ええと………何ともないです。ところでここはどこで、あなたは誰ですか?」
当然最初に出る質問はこれしかない。
この場面でこれ以外の質問をすることができるのは、おそらく自分の危機にかなり疎い人に違いない。
今は何よりも情報が欲しい。
「私はシーナといいます。ここはミネリク皇国の辺境の地にある別荘よ」
「…………」
言葉が出ない。ミネリク皇国など聞いたことがない。それどころか他国にいるというわけのわからない展開についていけない。
すぐにここを出ないと取り返しがつかなくなる気がしてベッドから出ようとしたとき、初めて自分の両手両足が鎖に繋がれていることを知った。
「おい、これはどういうことだ!!」
自分が何者かに拉致された可能性に思い至り、動揺から口調が強くなってしまった。
俺の反応を見てシーナという女性が笑いながら話し始める。
「あなたに話すことは特にないわ。ただ忠告はしておいてあげる。ここから脱出するのはかまわないけど、外に出たらあなた死ぬわよ」
「……何故?」
「そんなの魔物が跋扈しているからに決まっているでしょう?」
「魔物……だと………?」
愁斗は思考が停止し、全身から力が抜ける。
(今彼女は『魔物』と言わなかったか?それはアレか?本でよく目にする魔王が統べていて人に襲い掛かってくるアレか?そんなのが本当にいるとでも考えているのだろうか)
「あら、あなたの世界には魔物はいなかったのね。でも残念ながらこの世界にはいるのよ。人を喰い荒らし、人類に恐怖を与え続ける魔物と呼ばれる生き物がね。」
「…………」
「では私はもう行くわ。最後にあなたの名前を聞いておいてあげる」
「…………」
「……そう。では次来るときは夕食を持ってきてあげるわね」
そう言って彼女は部屋を出ていった。
混乱しているがまずは落ち着くところから始めよう。
彼女の話からここにいれば安全だということはわかるし、すぐに殺されるといったこともなさそうだ。
彼女は『この世界には』と言った。少なからずここは俺の知っている世界とは違うようだ。しかも魔物までいるという。
いや……そもそもなぜ俺が異世界の人間だと思ったんだ?俺が異世界人だということを知っているということは自然にこの世界にやってきたのではなく、誰かしらが意図してこの世界に連れてきたのではないか?ではなぜここに監禁されている……………。
クソッ!わけがわからない!!
とにかく何とかしてここから抜け出そう。おそらくこのままここに居続ければ俺は何かしらに利用されるか殺される。ならここから抜け出して、魔物に出会わずにどこかしらにたどり着くことに賭けたほうがずっといい選択だと思う。
しかし鎖があるせいでここから出られない。両手両足のそれぞれがベッドの四隅に繋がっている。
俺は一応この鎖が外せないか試すため右手で左手の鎖を持ち、右手と左手を逆方向に本気で引っ張ってみた。
ガンッッ!!
「………あれ?」
予想以上に簡単に切れた。もしかして俺の力ってこの世界では強くなってるのか?いや、そんなことはどうでもいい。今はここから逃げることが最優先事項なんだ。
残りの鎖も引きちぎる。まるで抵抗していないかのように簡単に切れる。
そのまま窓を開けて外に出る。急いでこの建物から離れようと森の中に走っていく。
「フフッ、馬鹿ね。あなたがどこに逃げようとも私の命令には逆らえないのに」
森の中に走っていく少年を見ながらシーナはボソッと一言つぶやく。
「私のもとへ帰ってきなさい」