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魔族契約

「あれ異常じゃないかな?」


 人間の男と三つ目の魔物ウォードッグが一緒にいる方向を指さす。


「あぁ……初めて見ればそうなりますよね。でもそうでもないですよ?あれは魔物と契約しているのです」

「魔物と契約?」

「はい。まず魔族のことから話しますと―――――――――――――――」


 そこからレイナによる魔族の講義が始まった。


 魔族とは魔王、魔人、魔物の総称であり、魔物を魔人が、魔人を魔王が統率し従えている。

 人族等と魔族は本来互いが対となる存在であって共存はできないとされている。これは大昔から互いが互いを滅ぼそうと何度も大戦争しているからだそうだ。

 しかしそんな中にも人間に懐く魔族がいるという。

 人族等は個体能力においてほとんどが魔族に劣るため、人族等から魔族に安易に近寄ることができない。しかし魔族にはそれができる。

 魔族は自分の気に入った人族がいるとその人族に殺意を向けず、目を合わせたまま頭を垂れるという。

 そして人族が魔力と名を与えることで契約が完了する。与える魔力量は魔族によって大きく違い、与える名は何でも喜ぶらしい。

 一度契約が完了すると魔力につながりができて、契約者の呼び声に応じていつでも人族のもとへ瞬時に行けるようになるということだ。さらに、契約前よりも魔族の力が増すという。


「―――――――――――――――ということがあるのです」


 愁斗はそれを聞いて冷や汗をかいていた。


 似たような状況に何度も遭遇したことがあった。

 あの時はてっきり何かの攻撃の溜めをしているのかと思って先手必勝で攻撃を仕掛けた。

 それが自分に好意を持っていたなんて……………へこむわ。マジでへこむわ!!


 好意を持ってくれている相手に対して問答無用で攻撃………。

 正に外道だ。俺は外道なんだ!!


 そんな風に落ち込んでいる様子を見て察したアイナがフォローする。


「気にすることないよ!!知らなかったんだから仕方ないよ!!ご主人様が本心で殺したんじゃないってこと、きっと相手もわかってるはずだよ!!」

「………アイナは優しいな。ありがとう」


 そう言って頭を撫でる。

 まだ少し照れるがアイナが頬を赤く染めて嬉しそうにしてるのを見て少し慣れる。


 そんな様子を見ていたレイナもフォローしてくれる。


「そうです!!ご主人様が優しい方だということは私がよく知っています!!ですから元気を出してください!!」

「レイナもありがとう」


 レイナも頭を撫でてあげる。

 レイナは頬は頬を赤く染めて俯いてしまった。


 うん。どっちも可愛い。


「ところでいくつか質問をしてもいい?」


 さっきの話を聞いていくつか疑問があった。


「はい、どうぞ」


 レイナが返事をする。


「魔族ってことは魔王や魔人も人族等を好きになる場合があるってこと?」


 これは重要な問題だ。

 もしもこれが日常的になれば、いつか共存できる日がくるかもしれない。


「魔王は知りません。魔王が人族等の大陸に来るということは戦争が始まるということですから」

「だよね………。魔人は過去に例があったのかな?」

「はい。ですが人族等を好きになったというよりは召喚者を好きになったという方が正確です」

「召喚者に例があったの?」

「その通りです」

「そっか」


 なら俺にも可能性があるってことだ。


「魔族は人族等の何を好きになるの?」

「それは諸説ありますが未だに詳しいことがわかっていません。名前を欲しているため、より強い力を欲しているため、その人族の力に惚れたためなど。一番有力なのは『その人族の魔力に惚れたため』です」

「なるほどなぁ」


 魔族の好みなんて人間に理解できなくても仕方ないか。


「じゃあ最後の質問なんだけど、あんな風に町を歩く魔族契約者は普通なの?」

「そんなことはありませんよ。町には戦えない人がたくさんいるので魔物を怖がる人が多いのです。禁止されているわけではないのですが、魔物を町の中に入れるのは決して褒められたことではありません!もちろん室内なら問題ありませんし、醜くない魔物なら外でも大丈夫です」

「ならどうして?」


 あの冒険者の自信あり気な表情からなんとなくわかる気がするが、そこは敢えて訊くことにする。


「どうせ魔物に気に入られたことを見せびらかしたいのでしょう」

「やっぱりね……」


 魔物を森に残すのが不安だというならまだわかる。もしかしたら他の魔物に食べられてしまうかもしれない。

 しかしそれならそれでやり方があるというものだ。


 それに魔物のあの態度はなんなんだ?

 あの冒険者のマネをしているのか?

 それともあの冒険者と波長があったから契約したのか?

 ……そうとしか思えない。


 これは魔物が人族のどこを好むのかについての説の一つに加える必要があるかもしれない。


「ご主人様、止めに行こうよ!!」

「……別にいいけど、どうして?」

「町の人達が怯えてるもん!」


 アイナが言ったとおり町の人々は三つ目の魔物を見て怯えていた。


「わかった」


 魔物を従えた男に近づいて行く。

 その男自体はなんてことはない。戦斧を持った大柄な男というどこにでもいるような人間だ。

 アイナのような少し小柄な女の子がこの大柄な男に近づこうとしていることは十分賞賛に値する。


 あの冒険者が近づいてくるこっちに気付いたようだ。

 益々嬉しそうな顔をして話しかけてくる。


「おう、お前らも俺の相棒を見に来たのか?」

「違うわよ!!アンタみたいな常識知らずの人間に常識を教えに来たんだよ!!」

「はぁ?何言ってんだお前?」

「周りの人達がアンタの魔物に怯えてるのがわからないの!?」

「俺達に恐れ戦いてるんじゃねえか?」


 そう言って魔物を撫でる。


 こりゃダメだな。


「アンタ達に怯えてるんじゃない!アンタの魔物だけに怯えてるの!!」

「てめぇ、ガキのくせに調子に乗ってんじゃねえぞ!!」


 男が戦斧を手に取る。

 それに合わせてウォードッグも戦闘態勢に入る。


「アイナはウォードッグを頼む。俺があのバカを止める」

「わかったわ」


 俺達も戦闘態勢に入る。


 最初に仕掛けてきたのはウォードッグからだった。

 ウォードッグがアイナに襲い掛かる。

 アイナはそれを魔法で迎撃しようとする。


「『アースバインド』」


 アイナが魔法を唱えた瞬間、地面からいくつもの土の鎖が伸びてきてウォードッグを地面に固定した。

 間髪入れずにすぐに次の魔法を唱える。


「『ファイアアロー』」


 アイナの周りにできた五本の火の矢が全てウォードッグに向かう。

 その火の矢がウォードッグに命中したとき小爆発が起きた。

 煙がはれたところにはウォードッグが焼け焦げて倒れた姿だった。

 体表を覆っていた毛はなくなり地肌が見えていた。

 まだかろうじて息をしている。


 俺は即座に回復魔法で傷を治してあげる。

 体毛ももとに戻せるがそこまでしてやる義理はない。


 まぁこんなもんだろう。

 こういう犬型や狼型の魔物は本来集団戦闘を好むもの。

 ウォードッグは単体では八級魔物だ。契約で強化されても七級がいいところだろう。


「相棒ーー!!…………貴様ぁ!!!」


 相棒の倒れた姿に激怒した男は戦斧を構えてアイナに走り寄ろうとする。

 俺は瞬時に男の懐に潜り込み、男の鳩尾に軽く掌打を打ち込む。

 男があまりに遅いため狙いを外すほうが難しい。


「ぐはっ」


 男は腹を抱えて蹲る。

 俺は男の頭にチョップをかます。

 男はそれだけで昏倒した。


 レイナが話しかけてくる。


「これどうします?」

「後片付けはきちんとしなきゃね」

「わかりました」


 その後は気絶した魔物と男を風魔法で運んで町の門番のところまで行き、事情を説明して引き取ってもらった。

魔族契約は主従契約ではありません

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