偶然の出会い2
数日かかり夕方に目的の町に着いた。
町に入ろうとしたところで一悶着あった。レイナとアイナがギルドカードを失くしてしまったのだ。
結局は保証金の銀貨十枚を二人分払って中に入ったのだった。
「本当に申し訳ありませんでした」
「すみませんでした」
二人とも本当に泣きそうな顔である。
実際は俺からしたら痛くも痒くもない出費だったのだが。
「それ以上謝ったら怒るよ?本当に気にするほどの出費じゃなかったんだ。それよりも何かあったらまた頼ってほしい」
そう言って笑う。
「すみま…………ありがとうございます」
二人の頭を撫でてみる。
もちろん卑しい気持ちはなかった………いや、少しはあったかも……。
二人は顔を赤くして俯いてしまった。
「じゃあまたいつか」
「………さようなら」
「……………ありがとうございました」
二人は強い覚悟を持ってその言葉を口にした。
愁斗はその言葉に深い意味があることに気付かなかった。
レイナはアイナと冒険者ギルドに来ていた。
アイナもおそらくもうここに来ることはないと気付いているのでしょう。
護衛依頼失敗は通常『死』を意味します。生き残って戻ってくる人は少数です。
ですから護衛依頼はとても依頼料が高いのです。
それにその依頼期間の時間の多くを依頼主は買っていることになりますからね。
もちろん依頼主はその依頼を受ける人を選ぶ権利があるので、高いお金を払う価値がない人と思われた場合は選ばれることはありません。
そういう理由があって護衛依頼失敗により発生する違約金はものすごく高いのです。
商人にとってはその違約金でも全然補えないほどの損害を被っていると耳にしたことがあります。護衛の依頼は多数の人で受けるものなので違約金も割り勘で払うことになるのですが、今回は残念ながら生き残った私達だけで払うことになります。
しかも私たちは冒険者を続けるためには、それ以外に二人分のギルドカードを再発行しなければならないのです。
払えなければ奴隷に落とされてしまいます。 もちろん一カ月間の猶予期間はありますし、死ぬまでずっと奴隷というわけではありませんが、買い手によっては拷問に近いような恥辱を受ける場合があるそうです。
卑しい気持ちで女の子の奴隷を探していて、奴隷に対してペットのような扱いをする貴族にでも買われたりしたらと考えると眩暈がします。
ギルドは違約金を払えなかった冒険者を最終的には奴隷商人に売って違約金分を賄います。
鉱山に連れていかれてしまう奴隷は売れないと予測される、または実際に売れ残り続ける奴隷だと聞きます。
おそらく私たちは買い手がすぐに見つかるでしょう。
レイナはギルドの受付嬢に話しかける。
そこで依頼を失敗したこととその詳細を話した。ギルドカードを失くしたことも話した。
「……なるほど。話はわかりました。いくつか質問がありますがよろしいですか?」
「はい」
「まず、あなたたちを助けたという冒険者について詳細をお願いします。四十人以上の盗賊を単独で討伐したとなると、おそらく有名な上級冒険者でしょう」
話そうかどうか迷います。
彼は冒険者の階級を名乗りませんでした。かなりの魔法の使い手のようでしたが、あのような特徴の冒険者は聞いたことがありません。
それにいろいろと隠していて、目立つことを嫌がっていました。
助けてもらった恩はもう返せませんが、せめてこのくらいは…………。
そうレイナが考えていた時、アイナが話し始めた。
「それが全然わからないの。私たちを助けたらすぐに去って行ったから」
「ではどんな魔法を使っていたかわかりますか?」
「魔法を使ってるところなんて見てないの」
「容姿は?」
「そうだなぁ……身長はかなり大きくて魔術師というより剣士に近かったと思うわ」
「そうですか……わかりました」
アイナはそう偽りの情報を与えました。
どうやら私が考えていたことをアイナも考えていたようです。
さすがは私の妹です!
「では最後に、ギルドカード再発行と依頼失敗の違約金で金貨三十枚になりますが払えますか?」
「…………払えません」
「では一か月間の猶予期間が与えられます」
一カ月間で金貨三十枚も集められるわけがないです。
家族四人の一般の家庭の月収の平均が金貨二枚ほどなのですから。
貯金から引いても金貨二十五枚以上です。
ここまでの大金を貸してくれるような知り合いもいませんし……。
これならいっそ早く奴隷期間を終えてしまいましょう。
……心が今にも折れそうです。
「……それでもおそらく払えないと思います」
「ではあなたたちを奴隷商人に売ることになりますがよろしいですね?」
「……………はい」
そのまま二人は奴隷商人がくるのを待って、奴隷商人と受付嬢の話が終わったところで奴隷商人に促されてギルドを出た。
愁斗はそのころ馬車をどうしようか考えていた。
元盗賊の持ち物だと考えると使いたいとは思えない。しかも俺の一人旅の場合は馬車は邪魔だ。
そう考えて売ることに決めて歩き出したところでレイナとアイナが目に入る。しかもどうやら一人の男に連れられていてかなり暗い雰囲気だ。
あの男が何かしたのかもしれない。
助けようと思ったが事情を訊いてからだと考え直し、堂々と二人に近づいて話しかけた。
「やあ!さっきぶり。二人ともすごく暗いけどどうかしたの?」
そう尋ねたところ俺の質問に答えたのは、二人の傍に立っていて少しチャラめでそこそこ仕立てのいい服を着た金持ちそうな雰囲気を醸し出した男だった。
「この子たちは大きな失敗をしたのにお金が払えなくて奴隷になるんだよ」
その言葉に二人はますます落ち込んだ。
奴隷か………だから首輪をつけているのか。
俺を殺しかけたあの忌々しい首輪……………。
おっと、今はこっちだな。
たぶん依頼失敗で発生した違約金だな。
結構高いらしいから払えなかったのかな?
「俺がそのお金を肩代わりするって言ったらどうです?」
俺がそう言うと二人は驚いた顔をして何か言おうとしたらしたところで奴隷商人に遮られた。
「無理だな。こっちも商売でやってんだ、それじゃこっちに利益が出ない。それにこれほど可愛い奴隷はかなり高く売れるからな。お兄ちゃん?が金貨二百枚払えるってんなら考えるぜ」
「………ちなみに普通の奴隷の相場は?」
「一般的な奴隷は金貨三十枚ってとこだな。安くて十枚ってとこか?高くなると金貨八十枚なんてのもいるぜ」
要するに俺に売りたくないわけだな。
なんか理由があるのか?
そんなことどうでもいいけどね。
「わかりました。………はい、どうぞ」
そう言って白金貨二枚を渡す。
男は驚いた顔をして固まった。
「どうしたんですか?白金貨二枚でいいんですよね?まさか商人が嘘でしたなんて言いませんよね?」
男が苦虫を噛み潰したような顔をして渋々受け取る。
「ちなみに、この首輪はつけた人命令に従うってことはあなたの命令に従うってことですか?」
「いや、その首輪に最初に魔力を流した人のだよ。その首輪に少し魔力を流してみろ」
言われた通り少しだけ魔力を流してみる。
思いっきり流したら壊れかねない。確か俺が自分の首輪を破壊したとき、全力で魔力を流したときと同じように身体から何かが極僅かに減った感覚がした。
魔力を流すと少し光ってすぐに元にもどった。
「じゃあそいつらはアンタの奴隷な」
そう言って行ってしまった。
二人はその怒涛の展開についていけていないようだった。