偶然の出会い1
「二人とも大丈夫?」
気配を薄くして小さな声で語りかけたのにもかかわらず、二人はビクッと反応して顔を上げた。
「……誰…ですか?」
「俺は愁斗。君たちの敵じゃないよ。偶然通りかかっただけだけど助けに来たんだ」
そう言って闇魔法を解いて俺の存在をはっきり認識させる。
二人は目を丸くしてこっちを見る。
「今から近づくけど怯えなくても大丈夫だよ」
そばによって回復魔法をかける。
二人はこれに絶句する。
回復魔法の精度と速度。それ以上に驚いたことは無詠唱。
魔法をかけ終わると女の子が話しかけてくる。
「……無詠唱で魔法を使えるんですか?しかもこれほどの精度で…………」
「あー……うん。できれば内緒にしてほしいな」
「もちろんです!」
「ありがとう。少し待っててね」
そう言って堂々と扉の外に出た。
愁斗はもう吹っ切れていた。こんな奴らなら殺しても心は痛まない、そう思った。
外に出た瞬間に何人かがこっちに気付いた。
俺は扉を閉めてすぐに魔法を行使する。
使う魔法は火魔法と水魔法。手に剣と同じ形の水を生成し盗賊に切りかかる。洞窟の入り口付近に火で壁を作り逃げ道を断つ。
洞窟の外にいた奴らは中にいる奴らの後だ。
さすがに酔っていても身の危険を感じたのか即座に対応する。
愁斗が水剣で高速で切りかかると、それを受け止めようと剣を構える。
しかし剣で受け止めることはできず剣を切り落とし、その先にある身体を切り捨てる。
力量差を計れない馬鹿は愁斗に襲い掛かるが、力量差に気付いた数名は逃げようとする。
火や水や風で魔法攻撃を仕掛けてくる奴らを全て同じ魔法で圧倒し葬る。
中には愁斗と同じように水で剣を作ろうとする者もいたが、こんな繊細な作業をただの盗賊ができるはずがない。
洞窟内の盗賊を全て始末すると外にワープし同じように葬る。
全て片づけたところで水剣を解除し、扉の前にワープする。
扉を開けて中に入ると二人が不思議そうにこっちを見ている。
「何をしていたんですか?」
「盗賊を始末してたんだよ?」
「「…………え?」」
「……え?」
「最初はどうやってここまで来たんですか?」
「………内緒」
「そうですか……」
会話をしながら腕力で強引に鎖を外していく。
二人は驚いた顔をしてその様子を眺めている。
「すごい強化魔法ですね。ここまで魔法制御が上手となると……有名な冒険者さんかなにかですか?」
「そんなことないよ。冒険者になってまだ日が浅いんだ」
「……でもやっぱりすごいです!!」
「ハハハ。ありがとう」
二人を立ち上がらせると自己紹介をしてくる。
「私はレイナといいます。こっちが妹のアイナです。よく双子に間違われますが一歳差です」
「助けてくれてありがとう!!」
見た感じは姉がお淑やかで妹が活発といったところか。
どちらも美少女だ。
「こんなこと訊いて申し訳ないんだけど年はいくつ?」
「お姉ちゃんが十八で私が十七。まだ年齢を訊かれても困らない年だからね!」
「そうなんだ」
なんというか……いいな。
次はレイナが質問してくる。
「私も質問していいですか?」
「うん、いいよ」
「どうして顔を隠してるんですか?」
「ただ目立つのが嫌なだけだよ」
「……そうなんですか。変なこと訊いてしまってすみませんでした」
「別にいいよ」
フードを外して顔を見せる。
二人ともじっと目を見つめてくる。
「綺麗な目だね!黒目を持ってる人ってあんまり見ないから見惚れちゃう………それにカッコイイ……」
最後にボソッとつぶやいたが普通に聞こえてる。
そこは聞かなかったことにしておく。
フードを被り直す。
「それで二人はこれからどうするの?」
「護衛依頼失敗しちゃったし、まずはギルドに行かなきゃだよ」
「違約金がすごく高かった気がします……」
また暗い雰囲気になりそうだな。
「俺は王都に向かってるんだけど何なら一緒に行く?」
「えっ?いいんですか?」
「別にいいよ。旅の連れが欲しかったところなんだ」
一人旅は寂しい。嫌なわけではないが話し相手が欲しいというのが本音だ。
話がついたところで部屋から出る。
外に出たとき二人は悲惨な光景を目にして険しい顔をしたので先に外に向かわせた。
俺は戦利品の確認にもう一つの部屋に行く。
部屋の中にはいろいろなものがあった。食料、武器、防具、お金など。
誰が使ってたものかわからない武器と防具はいらない。お金は金貨数枚分しかないが有り難く頂いておこう。
食料は全部水魔法で洗って亜空間に仕舞う。
洞窟の外に出てみると二人が座って待っていた。
「じゃあ行こうか」
「はい」
「馬車はどこら辺に停めてあるのですか?」
「そんなのもはないよ」
「「えっ!?」」
二人が信じられないという顔をしている。
そういえば馬車がないと遠いよな。
「でもすぐ近くに盗賊たちが奪ったと思われる馬と馬車があったよ」
「じゃあそれを頂いていきましょうか」
歩いてその場所に向かう。
そこには二つの馬車と一頭の馬がいた。
綺麗な方の幌馬車にする。
「俺御者できないんだけどな……」
「そうなんですか?私たちができますから気にしなくていいですよ」
「本当に申し訳ない」
馬車の準備を終えて出発する。
その日は太陽が沈むまで進み、野営を始めた。
食べ物を出したかったんがそんなもの出せるはずもなく、その日は何も食べずに寝ることになった。
「風属性の強固な結界を張ったから安心して寝ていいよ」
「ありがとうございます」
「ありがとう。今日は助けてもらってばかりで……」
「本当に気にしなくていいから!」
俺が何を言ってもきっと気にするだろう。
だから考え事をさせないように早く眠らせるようにした。
二人がちゃんと寝たのを確認してから俺も眠りについた。
次の日の朝は日が昇る前に起きて、亜空間から少し多めに食料を取り出す。ここら辺で穫れるものばかりだ。
そのまま朝食を作り始める。といっても調理器具は出せないので魔物の肉に木の枝を刺して焼くだけ。果物は料理しなくてもいいからな。
俺に掛かっている何かしらの魔法?は不思議だ。
翻訳魔法。自分ではそう名付けている。これには本当に驚かされた。
この世界に存在する果物は俺のいた世界と同じ名前の果物で翻訳されている。
たとえば見た目は全く違っても味が同じ果物なら、その果物の名前で翻訳される。
例外は元々俺の知らない味の果物だ。
料理が終わったところで二人を起こしに行く。
アイナは食べ物があることに大喜びだ。
レイナは申し訳なさそうにしている。
宥めるのってこんなに疲れるものなんだな………。