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王都に向けて

 ギルドを出て歩き始めてすぐに気付く。一人だけが後をつけてきている。

 気にはなるけど今は依頼が優先だ。


 そのまま気付いてないフリをして町の外を目指す。

 俺が町から出てすぐに追跡を諦めたらしい。気配がゆっくりと遠ざかっていく。

 なんだったんだ?

 まぁいつまでも気にしても仕方ないか。


 そのまま依頼に向かう。

 今回の依頼は魔物の討伐。正直言うと弱すぎてただの作業になっている。もう少し頭を使ったり身体を動かしたりする魔物と戦いたい。そうすれば少しは勉強なり鍛錬なりになるはずなのに……。


 倒した魔物の討伐証明部位を剥ぎ取って町に戻る。

 ………うん、いつも通りだ。


 次の日もいつも通り依頼を受けに行く。

 ただ、変わったことがいくつかある。リンさんが笑顔で挨拶をしてくれたこと。他の冒険者が冷たい視線を送ってくること。そして一番気がかりなのは、昨日のストーカーさんが今日も変わらずストーカーさんであること。

 これはもう話を訊くしかないな。


 今日は依頼を見ただけでギルドを後にした。

 ギルドを出た後、適当にぶらぶらする。ストーカーさんは相変わらずしっかりついてきている。

 そろそろ訊きに行こう。


 露店で串焼きを二本買って、ストーカーさんに気付いていないフリをしながら歩いて近づいて行く。

 一瞬だけストーカーさんに目を向けたらまだ若い冒険者の女性だった。帯剣しているし防具もつけているから冒険者に間違いない。

 ストーカーさんはこっちから近づいてきたことに少し狼狽したみたいだったが、すぐに平静を取り戻した。どうやら知らないフリをするつもりらしい。

 互いの距離が三メートルほどになったところで、こっちから話しかける。


「俺に何か用ですか?」

「っ!………いきなりどうしたのかしら?」

「いや、あなたが昨日からずっと後をつけてくるのでどうしたのかなと」

「えっ!?………気づいてたの?」

「ええ、最初から」

「……そう。ごめんなさいね。あなたの行動が不思議で気になったのよ」

「不思議?」

「そうよ。だって自分の素顔を隠しているのに行動はとても派手だもの」

「そんなはずは……普通に依頼を受けていただけですけど」

「それがおかしいのよ!冒険者を始めて十日で六級になれるなんて普通じゃないわ」


 そうだったのか…………。知らなかった……。

 だってただ依頼を坦々とこなしていくだけで、勝手に階級が上がっちゃったんだもん。


「知らなかったよ……」

「気づいて良かったわね」

「ありがとうございました。あっ、この串焼きをどうぞ」


 先ほど買った串焼きを渡す。


「あら、あなたって意外と気さくで優しいのね」

「お世辞として受け取っておきます」

「……自己紹介を忘れていたわね。私は四級冒険者のエリシアよ。よろしくね」

「六級冒険者の愁斗です。四級とは……すごいですね」

「師匠が良かっただけよ。私だけの力じゃないわ」


 師匠か……俺も欲しいな。

 魔法はいいから、体術と剣術の師匠が欲しい。


「じゃあもう私は行くわよ。目立ちたくないなら少しは依頼を自重することね」


 エリシアさんはそう言葉を残して行ってしまった。

 最初はてっきり俺を闇討ちでもするんじゃないかなぁとか考えてたけど、どうやらいい人みたいだ。

 いや、今はそれよりも目立ちすぎたことについて何か考えなければ。

 もういっそのこと次の町に向かうか?もともと王都に向かうのが目的でここにいるわけだし。生活の基盤も一応出来上がった。


 そうだな、よし!次の町に向かうとしよう!!


 その後の行動は早かった。

 宿にいるメイズさんに挨拶してからギルドのリンさんに別れを告げる。

 少し悲しそうな顔をしていた気もするが、笑顔で見送ってくれた。

 荷物は全て亜空間に仕舞ってあるから馬車の用意は必要ない。食料も亜空間に仕舞えば品質に問題はない。

 旅のお供が欲しい気もするがそれは贅沢というものだ。


 町を出てすぐに走り始める。

 ここから王都までの道はちゃんと調べてある。たぶんそんなにかからないと思う。

 町を四つ越えたその先に王都があるという。一つ一つ寄ったりしない。一日で行けるところまで行く。


 二つ目の町を越え三つ目の町に向かっている途中で、この世界で初めて盗賊を見つける。

 盗賊が出ることは知っていたし、会ったら殺すか捕えなければ他の人に被害が及ぶことも知っている。

 でもどちらも躊躇われる。

 捕えれば俺のことを町の騎士たちに話されるかもしれないし、町に着くまでこんな臭い男たちと一緒に行動とかありえない。

 殺しは正直したくない。まだこの世界にきてから人殺しはしていない。以前に比べれば殺しへの忌避感が薄れているのは確かだ。人型の魔物は何回も殺してきた。でも最後の一歩がどうしても踏み出せない。


 煮え切らない気持ちを抱えながら盗賊のアジトに近づいて行く。

 どうやら洞窟をアジトにしているらしい。その洞窟は人工的なものなのだが。きっと盗賊の中に土属性の魔法を使える奴がいるのだろう。

 人数は四十八人。ずいぶんと多い。


 ステルスを使い気付かれないようにアジトの奥に進んでいく。

 確か盗賊を討伐したときに盗賊が持っていたものは討伐者のものになるはずだった。でないと盗賊を討伐する旨味がない。

 こいつらがどれくらい溜め込んでいるのか興味がある。


 洞窟の一番奥に辿り着くと、そこには三十人程の盗賊がいてみんなが酒を飲んでいた。


「今回の獲物は拍子抜けだったな」

「だな!もしかしたら俺達のために酒と女を運んでたのかもしれねぇな」

「ガハハ!!そりゃありがてぇ」

「今日の夜は楽しくなりそうだぜ!」


 会話がキモイ……。さすが盗賊。予想通りの生き物たちだ。

 どうやら最近商人を襲ったらしい。

 奥に二つ扉がある。片方からは生き物の魔力を感じないが、もう片方からは二人の人間の魔力を感じる。


 扉一枚先にワープする。

 するとそこには顔を青くして震えている十五、六歳ぐらいの二人の女の子がいた。どちらも青い髪で可愛い。防具をつけているところを見ると冒険者のようだが、ところどころに怪我を負っている。

 二人とも似ている。でも双子というほどでもない。

 会話はしていない。


 この部屋に風の結界を張って外に会話が漏れないようにする。

 気配を薄くする闇魔法をかけてからステルスを解除して静かに語りかけた。

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