唐突な終わりと理不尽な始まり
題材は暗いですが主人公がハイテンションなので雰囲気はユルいです(^-^)
世の中は理不尽ですが、自分を貫き(?)死んでも姉弟ゲンカする2人の挑戦の始まりです\(^o^)/
ある蒸し暑い初夏の日のこと。
私は、死んだ。
《唐突な終わりと理不尽な始まり》
どうしたもんかな。私はほとほと困り果てていた。
何故なら掴めないのだ、目の前のカップ麺の容器が。
「さっきから何してんだあんた」
何度もカップ麺を掴もうと悪戯に腕を左右に動かしている私を見かねた弟が怪訝な顔で尋ねてくる。
「いや、カップ麺を食おうと」
「……俺達多分もう死んでるんだぞ。飲み食いする必要もないだろ」
「なる程。確かにそうだ」
問題はあっさりと解決された。
私達姉弟は、ガランとしたたリビングをぼんやりとうろついていた。先程目が覚めたと思った時には既に弟も私もこの状態で、今の状況を教えてくれるものは何もない。なにがなにやら、といった感じだ。ただ、どうやら私達は死んでいるらしいということはわかる。何故ならありがちに体が透けているのだ。つまり幽霊。太った女子高生と、痩せぎすな男子中学生の。
弟が呆れたように溜息を吐いた。
「こんな状況でよくものを食おうって気になれるな、姉貴は」
「腹が減っては戦は出来ないからね」
「誰と戦うんだよ。それよりこれからどうするんだよ」
私は辺りをクルリと見回した。家の状態は以前と変わりないが、人の気配がない。早くに母に先立たれ、男手一つで私達を育ててくれた父はこの家にはいないようだ。もしかしたらまだ私達の葬儀中なのかもしれない。まぁ実際自分達が死んでからどれくらい経ったのかも私達にはわからないが。だから、本当は私達の葬儀などとっくに終わっていて、父はこの家をそのままに離れてしまった、という仮説も成り立つ訳だが所詮全ては私の貧弱な空想の域を出ない訳であって、あれこれ考えても無駄というものだろう。
「そうだな……。家の中は一通り見て回ったし、外に出てみるか」
何故だ。家から出られない。家の中にあるものは大体通り抜けるのに(意図せず。たまにぶつかったりするが)、何故か外に出ようとすると絶対に家の壁や床にぶつかってしまうのだ。勿論玄関や窓からも外には出られなかった。拳骨をくらわせても、体当たりしても、家自体は全く凹んだり跡が付いたりしない。まるで私達の攻撃など存在していないかのように。
「なんなんだよこれは……。何で家自体は通り抜けないんだよ!!食いもんとか漫画は通り抜けるのに!! 一体どういう仕組みなんだ!! これじゃ人の私生活堂々と覗きに行けないじゃねえか!!」
「そういう問題でもないだろ」
私と弟は仕方なくただ黙って窓の外を眺めた。窓ガラスを全開にして空気を入れ換えたいところだが、私達は空気と同等かそれ以下の存在なのでそれも出来ない。触れることは出来ても鍵を回せないのだ。弟がやけにしみじみと呟く。
「幽霊ってつくづく不便だよな。涙が出てくるよ。腹が立って」
「てゆうか私達幽霊なのか?」
「え、幽霊じゃないのか。透けてるし、通り抜けるし」
「足あるじゃん、透けてるけど。それに家は通り抜けない」
「姉貴は漫画の読み過ぎだ。今時の幽霊は五体満足だし、俺達が地縛霊というものなら家を通り抜けられない方が自然だろう」
「はぁ。じゃあ幽霊で良いよ」
「……ったく、夢なら覚めてくれ………。姉貴と二人きりなんて俺は耐えられない」
「突然何だよ!! 殴られないからって調子乗ってんじゃねえぞコイツ!!」
二人でぼんやりと出られない外を見ていると、ゆっくりと陽が傾いてきた。どうやら私達が死んでも世界は正常に回っているようだ。実に切ない。
暮れてゆく空を眺めながら、私はあの初夏の日のことを思い返していた。