鍛冶部隊服飾担当部門のとある隊員の日記
別視点12でスキップして生地置き場に入っていったとある隊員視点です。
火の一月✕✕日 晴れ
今日は飛び上がる程に嬉しい事があった。
北の魔王城に、それも昼の混雑した食堂に、ディルナン隊長とエリエス隊長に連れられて天の御使いが現れたのだ。
小さな体。サラサラでフワフワの亜麻色の髪。くりくりの大きな紫色の瞳。絶妙なバランスでパーツが配置された、それは整った顔立ちをした美しい幼子。
名前はユーリちゃんと言うのだと、後で副隊長に教えて頂いた。
何でも、身一つでディルナン隊長に拾われて来たらしい。
あんなにも小さくて可愛らしい幼子を捨てるなんて考えられない!
それは置いておいて。
兎に角、そんな状態の子だから、作業着以外にもユーリちゃんの服一式全て作る事になった。
ユーリちゃんには申し訳ないが、余りの嬉しさに泣いて喜んでしまった。
…オレは最低だ。分かっている。
それでも、ひたすら作業着だけを作り続ける、終わりの見えない虚しさを噛み締めて耐えるだけの日々は過去となった。
武器・防具担当と違い、他の部隊の連中に見下されるのはまだ良い。
例え見下されていても、奇抜な格好をしていても、俺の所属する部門担当者である副隊長が実力者である事は間違いない。それに、実力者として名の知れている方々はそれを分かって下さっている。隊長だって副隊長を一番に信頼している。それを知っているから少し悔しいだけだ。
一番耐えられなかったのは、オレ達が懸命に作った服を粗末に扱われて来た事。
いくら仮装やはっちゃける為のイベントの為とはいえ、オレ達は服を作るという己の仕事にプライドを持っている。
例え一度しか着られる事のない馬鹿げたドレスであっても、それなりにきちんと作り込んでいるのだ。
それを粗末に扱われた挙句ボロボロにされた状態で打ち捨てられ、清掃部隊に目の前で単なるゴミ切れ…それも汚れ物の様に摘ままれて回収された時の怒りと切なさとやるせなさは今でも忘れられない。
その日の事もこうして日記に書いた。けれど、とても読み返す気にはなれない。
副隊長がユーリちゃんの所に行く度に作る物が増え続けたけれど、オレ達は誰も文句を言わなかった。それ所か、歓喜の悲鳴が上がった位だ。
生地も、デザインも、最低限のポイントだけ抑えて副隊長は全て任せてくれた。
思わず生地置き場にスキップしてしまう位嬉しかった。スキップなんて、子供の頃…もう200年以上前にしたきりだったのに。
時間が無いからとにかく簡単なデザインになってしまったが、生地は肌触りと通気性の良い上質の綿の物にした。
今度作る時はそれを綺麗に染めて、可愛らしいデザインで作りたい。
複数人で協力して、凝った物を作るのもいい。夢は広がるばかりだ。
こんなにも明日の仕事が楽しみだった事があるだろうか?
今だって日記帳が目に入らなければ日記を書く事も忘れて、デザイン画を書き続けていただろう。
とても眠る気にはなれない。次から次へとデザインが溢れ出してくるのだ。書かずにはいられない。
今日のこの日記を読み返す日が来たら、この喜びは鮮やかに蘇るだろう。