エリエスの執着
本編12で医務室を後にしたエリエスの独白部分です。
ユーリに別れを告げて医務室を後にしたものの、さっきの出来事が頭から離れませんでした。
-はじめまして、ユーリちゃん。アタシはカラフ、鍛冶部隊副隊長で服飾担当をしているの。よろしくね-
-はじめまして、ユーリです。…カラフ、おにいちゃま? おねえちゃま??-
-まっ、いい子ねぇ、ユーリちゃん。カラフおねえちゃまでいいわよぅ-
-おねえちゃま、よろしくなのー-
初めて鍛冶部隊の副隊長であるカラフと会ったユーリが、カラフに投げ掛けた言葉。
確かにカラフは女性物を基調とした物を着用して化粧などもしていますが、どちらかと言うと仮装と取られる事の方が多いです。カラフは実力があるにも関わらず、あの格好の所為で見下される事も少なくない。そして、城の周辺の集落の子供達には「変なお兄ちゃん」として認定されています。
正直な所、ユーリの言った言葉は、私こそが城の周辺の集落の子供達に投げ掛けられた言葉。
そして北の魔王城で働き始めた当初、いえ、つい最近まで言われ続けた言葉。
子供達はにっこり笑い掛けただけですが、この北の魔王城の隊員達は容赦なく締め上げ続けて最近ようやく言われなくなってきました。それでも「氷の女王様」などと言う呼び名が付けられています。
私は望んでこの容姿を得た訳では無いです。けれど、実力だけでは認められなかったから逆に特化せざるを得なかった。
私は、自分のこの容姿が大嫌いです。
さっきユーリがカラフに向けていつもの言葉を投げ掛けた時、正直に言って失望しかけました。あぁ、この子もかと。
けれど、ユーリは私を一切見なかった。見ようという素振りさえ見せなかった。
…それが、どれだけ特異な事か、あの子は分かっているのでしょうか。
言われたカラフでさえも、ユーリの言葉を聞いて真っ先に私を見ました。ディルナンとヴィンセントでさえユーリの対応に驚き、目を見張っていたというのに。
思えば、あの子は初めて会った時から私に女かどうかを一切聞かなかったですし、最初から「おにいちゃま」と呼んでくれていました。
それは、カラフに会った所で揺らがなかった。
-…成る程ねぇ、空気をちゃあんと読めるのね。エリエス隊長が気に入る訳だわ-
その後のカラフの言葉にユーリがにっこり笑って見せた時、どれだけの衝撃を私が受けたかあの子はきっと知らないでしょうね。
私が、どれだけの喜びを感じていたのかも。
あの子の本質を見通す力は間違いなくあの子にとってプラスに働く。プラス面に潜むマイナス面は、私が責任を持って対処出来る様にしてみせます。
初めて最初から”私”と言う存在を見逃さなかったあの子を、私は絶対に逃がしません。居心地の良いあの子の側から離れるつもりもありません。
その為なら、何だって利用しましょう。地位も、人も、物も。