とある衛兵の悲劇
北の~魔王城には~♪のユーリを起こしちゃった衛兵さん視点です。
オレは北の魔王城の外警部隊の隊員だ。名前は…まぁ、あれだ。作者が出番次第で考えるってよ。
性格はおっちょこちょいって良く言われる。そんな事ないと思うけどなぁ。
オレの所属する外警部隊は、北の魔王城の警備に当たってる部隊だ。
城全体に配置されている全てのポイントに必ず複数人、騎士がいる事になってる。
城だから広さもあるし、一日中警備に当たるから全十四部隊の中で一番人数が多いんだぜ。
まぁ、唯一外警部隊が立たないのは、城の二階。
魔王であるカイユ様のお側には近衛部隊がいるからな。
近衛部隊ってのは、外警部隊の中でも強さ、魔力、人柄が特に優れてるって選抜された騎士の部隊の事だ。
…こいつは余談だったな。
とにかくそんな訳だから、外警部隊は勤務時間は三交代制で場所もローテーションが組まれてシフト制で動いてる。
この日のオレは、朝から夕方まで城の城門に立つシフトになってた。
北の魔王城に滅多に来客なんてありはしない。
多いのは侵入者だが、魔導部隊の張った対侵入者用の強力な結界があるお陰でこの城門が狙われやすい。その為、城門の衛兵の人数はしっかり配置されてる。
だというのに、この日は珍しく調理部隊のディルナン隊長が騎獣と共に城門に態々やってきたんだ。いつもはさっさと結界を抜けて獣舎に直行しちまうのに。
このディルナン隊長、戦闘の専門じゃない内勤部隊の隊長なのに、外警部隊のウォルド隊長と互角に戦っちまうお方。
強いし、魔力もかなり多いし、いつもクールでカッコイイ上に最高に美味い飯作れるなんて凄すぎじゃね? いや、内勤部隊の隊長は皆、恐ろしく強ぇけどさ。
でも、このディルナン隊長率いる調理部隊自体が内勤部隊としちゃ規格外っつーか、別格なんだよな。
全員が外勤部隊と互角以上の戦闘能力を持ってる戦うコックさんだもんな。とんでもねーよ。
そんなだから、実は外勤部隊ではディルナン隊長を「アニキ」と慕うヤツが少なくない。オレもその一人。内緒だぞ!
「ディルナン隊長、お疲れ様です!」
憧れのアニキであるディルナン隊長に会えて、いつもより少しだけテンションが高い。挨拶すると、ディルナン隊長の目がオレを捕らえた!
「お疲れ」
やべぇ、挨拶返されちまったよっ。
「一人分、通行許可証を出してくれ。目的はエリエスに面会だ」
通行許可証? 書類部隊のエリエス隊長に面会って。
…良く見たら、ディルナン隊長の左腕には眠る子供の姿。
そんな、まさかっ。
「…ディルナン隊長、子供誘拐してきちゃダメじゃないですかー!」
「ぴっ!?」
思わず浮かんだ最悪の考えにうっかり叫ぶと、子供が起きた。
…あ、なんかディルナン隊長から物凄い怒気というか、殺気が。ヤバイ、命の危機かも。余りのプレッシャーに冷や汗が出てきた。
助けを求めようとしたら、仲間達が瞬時に目を逸らした。薄情者っ(泣)
「…テメェ、ユーリが起きちまっただろうが。ぁあ?」
「ぎゃあああぁぁぁっ!
ディルナン隊長、無理っ、死ぬぅっっ。
いでででででで!!」
逃げる間も無く、頭を鷲掴まれたと思ったら、とんでもない力が加えられた。
頭ん中で骨がぁ! 脳みそ出るぅ!!
もがこうにも、この人さり気無く持ち上げてるっ!?
オレ今フルプレートの装備一式身に付けてんのに、えええぇぇ、マジでどういう力してんのっっ!!?
…あぁ、もうダメかも。死んだじーちゃんの顔が見えてきた。死因が立派に戦い抜いてじゃなくて、こんな理由なんて。
そんな事遠のく意識で考えてたら、何かいきなりディルナン隊長の力が緩み、地面に落とされた。
受身も何もあったもんじゃないから、地味に物凄く痛い。生理的な涙が浮かんだのは仕方ない筈だ。
「---」
「---」
頭上で何か話す声が聞こえたけど、内容なんか入って来る筈が無い。痛みにコッソリ呻くので精一杯だ。暫くして、痛みはどうにもならんけど、どうにか頭を押さえつつ顔を上げた。
え、何でディルナン隊長は兎も角、エリエス隊長までいるの!?
この方、書類部隊の隊長。北の魔王城の隊員で一、二を争う程の美貌を誇るが、その気質と仕事ぶり、得意とする武器から一般の隊員の間で「氷の女王様」とまで言われている最恐隊長。
この人と、医療部隊のヴィンセント隊長は敵に回したら最期とまで言われてるんだけど…。
オレ、物凄くおっかない冷笑で見下ろされてる。
オレ、何かした!?
ヤバイ、マジで食われる気がしてならないっ。
「今なら見てないし、イケるか」
「ぎゃあっス!」
「イケますね」
「ぎょえぇっ!!」
何が見てないの!? と言う暇も無く、今度は背中を思いっきり踏み付けられた。
ディルナン隊長だけでも十分なのに、更に踏み付けてきたエリエス隊長は一切容赦なかった。比喩じゃなく口から内臓出る寸前。
死んだじーちゃんの顔だけじゃなく、ばーちゃんの顔まで見えるって今度こそ終わりだ…。
遠のく意識の中、何やら子供の泣き声が聞こえた気がした。
「しっかりしろ!」
「今、医務室に運ぶからな!」
「死ぬんじゃないぞ、気をしっかり持てっ!!」
…あれ、仲間達の声援が聞こえる。オレ、生きてるの? 医療部隊に運ばれてるの??
ならば、言う事は唯一つ。
「………ヴィンセント隊長だけは、勘弁してくれ……」
最恐隊長のもう片割れに会ったら、今度こそオレ、死んじゃうから。
新しい情報入ってますけど、本編でいずれ出てくる部分です。小話部屋開設に伴い、大至急で書き上げました。大穴があったら申し訳ない。
この憐れ(?)な衛兵君は、読者様の反響や、作者の気まぐれで名前が付くと思われます。
読んで下さってありがとうございました。