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『親父塾』発足(ディルナン視点)

本編の別視点25の続き、真夜中の密談その二(説教からの…)です。

「幼い子供にとってはオヤツも貴重な栄養源だ。特にユーリは成長不足の兆候があるんだぞ? それを取り上げるなどと脅すとは言語道断。成人してる訳でも無いのにそんな脅しじみた発破の掛け方があるか」


ヴィンセントの説教開始からどれぐらい時間が経ったのだろう。

日常の細々した事やさっきの失敗を淡々と、理路整然と語るヴィンセントの言葉は正論過ぎて地味に痛い。


漏れそうになる溜息をどうにか飲み込んでいると、何やら扉からガタン! と音が響いた。

ヴィンセントもそれに気付いたらしく、説教を中断させる。


「…誰だ」


ヴィンセントの鋭い誰何の声に、少し遅れて扉が開き、気まずげな隊員が四人程姿を見せた。

全員が全員、外警部隊的な装備をしている。


「何をしていた」


まさか面白可笑しく情報を集めていたりしていないだろうな。


これまでの状況を鑑みて邪推しつつ四人を睨み付けると、一番年上らしき隊員が少し口籠ってから話始めた。


「すみません。その…子育てのお話が聞こえたので、気になって」

「「……は?」」


思い掛けない言葉に、思わずヴィンセントと共に問い返す。


「自分はずっと仕事仕事で子育てを妻にまかせっきりにしていたんです。

 ---…そうしたら、前回の休みに帰宅した時に……「知らないおじちゃんが来た」と娘に言われて逃げられてしまいまして……………」


すると、男が勝手に自分の状況を話し出した。

語りつつ、どんどん背後に暗雲を背負って行く。


「オレは、何をしても子供に常に泣かれっぱなしで………」

「息子に「パパなんてキライ!」と面と向かって宣言されまして…」

「……既にキライを通り越して、「あっち行け」でして」


ソイツを皮切りに、他の三人も体験談と共に暗雲を背負って行く。微妙に涙目になってねぇか?

コイツ等、マジで単純に話に興味を持って盗み聞きしてたのかよ。


というか詳しい状況は知らんが、それをユーリに言われたらと思うと確かにクルものがある。


「…子育ては飽きたからと言って途中で投げ出せるものではない。好かれようが嫌われようが、親である以上は何が何でも育て上げる責任がある」


ヴィンセントが呆れ気味に話し始めると、四人が注目した。


「子供が成長して自立する時にある程度困らない様にしてやるのが子育てだ。

 大切だからといって、ただ甘やかせばいい訳ではない。無暗矢鱈に叱り付けるのも問題外。飴と鞭はバランスが重要だ。

動物の様に本能で動く幼い子供それぞれの個性と成長過程に合わせて、生きていく為に本当に必要なモノを覚えるまで根気強く教えてやるのが親の在り方だと私は思っている」


ヴィンセントの言葉に、四人だけでなくオレも聞き入る。


「本当に必要な事が出来れば勉強が出来なくても、運動が苦手でも構わない。得手不得手も好き嫌いもあるだろう。ただ元気に、特に困る事なく生活してくれればそれで十分だ。後は子供が自分で自分の道を選択すればいい。ある程度大きくなったのなら見守る姿勢を基本にして、困った時と危ないと思った時にだけ手を差し伸べてやればいい。

こんな風に理想を言うだけなら簡単だが、親にも感情や体調、仕事等がある。思った通りには全くいかないのが現実だな」


実感の篭った言葉は、酷く重い。


「とは言え、今言った全てを自分一人でしようとする必要はない。その為の父親と母親だ。他にももっと上の世代もいるだろう。周囲だって頼めば手を貸してくれる筈だ。まずはその事を覚えておけ」


それぞれに耳の痛い言葉だ。

オレには一人で抱え込むなと、他の四人には仕事を理由に関わりを希薄にするなと言う遠回しな忠告だろう。


「ヴィンセント隊長…………オレはどうすればいいでしょうか!?」

「出来るだけ顔を見せろ。子供が寝ていても奥方にねぎらいの声を掛けるだけでもいい。母親が日々の忙しさに父親を忘れたり、父親に頼る事を一切諦めれば、子供が父親を覚える筈がまず無い。何なら帰る度に子供へ簡単な手紙でも書いてみたらどうだ?」

「ヴィンセント隊長、オレにもアドバイスをっ」

「まずは子供が興味を持って近付くまで、敢えて距離を取ってみろ。騎獣と一緒だ。最初から無理に近付かず、向こうが警戒を解くのを待ってみるといい」


そんなヴィンセントに、四人が次々に相談を投げ掛ける。

ヴィンセントが其々に答えるのを聞きつつ、ユーリにそんな反応をされた事がこれまでに無いなと思う。

その一方で、これまで悩んでいた事柄に道を示された四人から少しずつ暗雲が晴れて行く。


「但し、これまでの負の積み重ねがある。最初から上手く行くと思うな。愛情と忍耐が試されていると思え」

「「「「はい、先生!」」」」


…何だ、この体育会的ノリは。


「ディルナン、お前はユーリが特殊なんだと思え。逆にあの子のサインを見逃すな」

「サイン?」

「あの子は大人顔負けの自制心を持っているし、あの年にして周りを見て動ける。本当に必要な時ほど間違いなく自分の心を隠すぞ。周りの全員で逆にしっかり子供として扱ってやれ。ユーリこそ親が必要な年頃の子供なんだ」


ヴィンセントの言葉を噛み砕いてしっかり飲み込んでから、頷く。


「…自分も微力ながら、お手伝いしますよ」

「そうです、ディルナン隊長。一緒に子育てを頑張りましょう」

「ヴィンセント先生が付いてますしね」

「もういっそ、子育て同盟でも作りますか?」


そんなオレに、四人が声を掛けてくれる。

……オレには自分の子供がいないから分からない感覚も沢山あるだろう。

何より、ダメな例は反面教師になるか。


「ふむ。父親の為の塾か? ならばコレ・・が人数分必要になりそうだな」


オレ達の遣り取りを見ていたヴィンセントが何かを取り出しつつ呟くのを聞き、思わず全員で出て来たモノを見る。

机の上に出現したのは、一冊の本。


「「「「…”ぴよぴよ倶楽部”………?」」」」

「育児書だ。これが一番分かり易い。私も昔、良く世話になった」


可愛らしい小鳥のイラストが描かれた恐ろしくファンシーな表紙に一瞬慄きつつ題名を口にすると、ヴィンセントが返して来た。


…ヴィンセントがコレを愛読していた、だと?


まさかの言葉に、全員でその本を繁々と眺める。


興味を惹かれるままに本に手を伸ばし、パラパラと開いてみる。




…………………………子育てってのは、こんなに大変なのか?!


「「「…おー」」」


後ろから覗き込んでいた四人が、妙に感心した様な実感の籠った声を上げる。

その声に、オレ一人だけが付いて行けない。


「はっきり言って、ユーリに関しては半分以上関係ない内容かもしれん」

「!」

「だからこそ、あの子は良くも悪くも異常なんだ。本はあくまでも一般論だが、判断の基準的な意味でお前には必要になるだろう」


子供を一人育て上げているヴィンセントのこの言葉に、思わず本を凝視する。


「こうして他の父親達と交流するのもお前の助けになると思うぞ?」

「…分かった」


ヴィンセントのダメ押しに頷くと、他の四人が歓声を上げる。


「活動日などは後日決めるとして、今日はそろそろお開きとしよう」

「「「はい!」」」

「詳しくは外警部隊の訓練日に私が連絡するとしよう。四人は同じ訓練グループか?」

「はい、我々は第三グループです」

「第三だな。なら詳しくは来週に」

「「「失礼します!」」」


そんな四人をヴィンセントがさっさと言い包め、再び室内は二人になる。


もう結構いい時間なんだが、オレはまだ解放されないのか。




四人が去った後暫く口を開く気配の無かったヴィンセントに、当然ながら室内が沈黙に支配されていた。


「で? 今日のユーリは一体何をしたんだ」

「…既に何かを仕出かすのは決定事項なのか」


漸く口を開いたと思えば、ヴィンセントが今度は今日のユーリの状況を確認してくる。

これには思わずツッコミを入れると、ヴィンセントが笑みを零した。


「これまでに毎日の様に色々しておいて、何も無い筈が無いだろう。本人が大人しいと言うのに実に刺激的な子だからな」

「……まぁ、正直相談相手が多いのは助かるがな。ヴィンセントに協力を頼もうと思っていた事もある」

「ほう?」


ここまで来たら自棄だ。とことん相談に乗って貰うとしよう。

あくまでまも作者の考えですので、悪しからず。

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