その十
次の日の朝は母が起こしに来た。
「ほら遼、昨日夜食べてないんだから、しっかり朝食べなさい…鈴ちゃん、今日休みみたいだから、遅刻しないようにしなさいよ?」
寝ぼけ眼で聞いていたが、鈴が休み、なんていうことは今まであまりなかった。もしかしたら、原因は俺かもしれない。そう思った後にすぐに着替え、鈴の家へと走った。鈴の家のインターホンを何度か鳴らすと弱々しく鈴が答えた。
「遼、くん?」
「あぁ、ほら、学校行くぞ」
「今日は、体調悪いから…」
俺には鈴が嘘をついていることがすぐにわかった。
「つくなら、もう少しまともな嘘でもつけよ…」
俺は玄関の前で座り込んだ。それを感じたのか、鈴が少しだけ、玄関を開け、俺のことを見ているのを感じた。
「昨日はごめん…」
「遼くんは、何も悪くないよ?私の方こそ、ごめんなさい…急に飛び出したりなんかして…」
鈴はまだ少し震えた声でそう言った。
「…、委員長の話、断ろうと思う」
「な、なんで?昨日は…」
鈴が少し驚いた様子で話そうとしたが、それを遮るように俺は言った。
「委員長は確かにいい人だけど、やっぱり、俺には好きな人がいたみたいだから…」
「そ、それって…」
俺は立ち上がると、玄関の扉を勢いよく開いた。鈴は少し驚いて動けないでいた。俺はそんな鈴を優しく抱きしめた。
「俺も鈴も、昔からだいぶ変わったこともあるけど、それでもずっと鈴はそばにいてくれた。俺は、それが当たり前だと思ってた。だけど、改めて考えてみて、鈴がいてくれることが、俺は嬉しかった。いなくなるんじゃないかって、辛くなった。」
「…」
鈴が少し泣いているのがわかった。そんな鈴を、少しだけ強く抱きしめた。
「俺は、鈴が好きだ…これからも、一緒にいてくれないか?」
「…、うん…」
鈴は泣きながら、俺を強く抱きしめた。俺もそれに答えるように、もう二度と自分の気持ちを忘れないように、鈴を抱きしめた。