その一
携帯で設定していた大音量のアラームが部屋に響いてるのが分かった。と、同時に誰かが階段を上ってくる音がした。
「おはよう、遼くん!」
勢いよく布団がめくられ、カーテンが開いて朝の日差しが差し込んだ。
「またお前か…。」
犯人は幼馴染の鈴だった。隣の家に住んでいるせいか、高校になってから毎日おこしに来る。それまではこんなことはなかったのに…
「なんでいつもおこしに来るんだよ…。」
「だって私は遼くんのお嫁さんになるんだから!」
「はいはい、着替えるから部屋の外行って…。」
軽くあしらってドアのほうに鈴を追いやると、鈴は抵抗した。
「やだ、ここにいる!」
「変態か、お前は!」
「変態です!!」
「くだらないこと言ってないでさっさと出ろ!」
自信満々に言う鈴に腹が立ち、無理矢理抱きかかえて部屋の外に出すと、鍵を閉めた。
「開けてよ!」
「絶対やだ、おとなしくしてろ!」
「遼くん、照れ屋さんなんだから。」
「そういう問題じゃねぇよ…。」
俺はドアから離れると着替え始めた。鈴は俺が話せる少ない異性の友達だ。俺は彼女いない歴=年齢だが、鈴は高校に入ってからいろんな奴と付き合っている。俺はどこにでもいそうな男だ。髪だって短く、校則に違反するようなことはしない。それにくらべて鈴はいつの間にか別世界の人間のような存在になった。黒くて長い、艶を出した髪は、ほんの少し前までCMで流れていたくらいだ。顔も女優顔負けのすらっとした、大人な顔で、明らかに普通に生活しているのがおかしいくらいの人物だ。そんな鈴がなんで俺を毎日おこしに来るのかは、高一のころからの謎である。鍵をあけると鈴が飛びついてきた。
「ちょっ!」
「ん?あれ、遼くん照れてる?」
「…、うるさい。」
鈴を強引に引き離すとリビングに降りた。
「おはよう、父さん、母さん。」
「おはよう、二人とも仲がいいわね。」
「おはよう、朝から一緒なんて夫婦みたいだな。」
「そんなんじゃ…」
「遼くんは私の旦那さんですから!」
俺の言葉をさえぎって鈴が言った。俺は軽くため息をつくと、朝飯を食べ始めた。
「はい、あ~ん…」
「やめろ。」
鈴があまりにもしつこいために、低い声で言った。
「お、怒った?」
いままで張りきっていた鈴が急に申し訳なさそうにこちらを見た。
「別に…」
俺は鈴には目もくれず、朝飯を食べ終わると足早に家を出た。