顔合わせ1
若干、外見の変更です。あと手直し。何にもせずにそのままアップしていたことに今頃気づきました。
皇帝陛下を殴り飛ばしたい気分だが、生憎皇帝一人を殴ったところで元凶は複数いるのだ。その内の何人かは確実に血縁で、さすがに年寄りに無体な真似をするほど落ちぶれてはいない。
お茶の用意だけしてカイザークを客室に待たせ、一浴びしたルーテイシアは出かけることにした。太陽は既に中天を指しているが、朝食を取らねば頭も働かない。しかし料理人がいないために食事にありつけるはずもなく、外で食べることにしたのだ。暇なのかそれとも興味があるのかカイザークもついてくる。
「お前はこんな所で油を売ってていいのか?」
「俺を誰だと?一日くらい抜けたところで問題はない。それよりもルー」
「なんだ?」
「どれだけ食べるつもりだ?」
抱えきれないほどの袋を持ったルーテイシアに顔が引きつる。実際には食べ物より、道中に声をかけられる女性陣からの贈り物が圧倒的に多いのだが。宮中でも彼女に憧れる令嬢は多かったがまさか市井でもこれ程とは思わなかった。
特に今日は藍色の大きな瞳に翳りがあるせいか、整いすぎた中性的な美貌が更に引き立つことを本人は知らない。そしてその隣で涼しげな青みを帯びた銀髪に、切れ長の鮮やかな紺碧の瞳を持つ美丈夫がスパイスを利かせていることも。
「二日分の食料だ。私に飯は作れん」
「城に来るか?お前は俺の妻になったんだし問題ない」
「ふん。私はまだ認めたわけじゃないぞ」
「強情な奴だな。なんなら口づけでもしておくか?」
「それはお前と仲の良いご婦人方にやってもらえ」
馴れ馴れしく回された腕を上手く避けながら、足早に次の店へ向かう。
「嫉妬か?心配しなくても暫くはお前一人だけだし世継ぎもお前の子にするぞ」
「お前は阿呆か。ただの幼なじみに嫉妬なんぞするわけもないだろう」
「ただの幼なじみ、ね」
後ろ手に強く引かれたかと思えば噛みつくような口付けが待っていた。往来であることを憚ることなく強引に奪う。その激しさに若者は赤くなりながら目を逸らし、大人達は囃し立てた。
息すらも奪われ目の前が白くなってきたところでようやく酸素が支給される。ふらつく身体を支えられながら、初めてを奪った男を睨みつけた。
「カイザー。歯を食いしばれ!」
見事な回し蹴りがカイザークに入った。
「全く、俺の広い心に感謝して欲しいな。いや、むしろ最上級に褒め讃えろ」
「却下だ。乙女の唇を奪ったお前が悪い」
「ルー。皇族に手を出すなんて国家反逆罪だぞ」
「未婚の娘に不埒な手を出した馬鹿の方が尚悪い」
「だから俺達はもう夫婦だって」
「知らん。私は同意した憶えもなければサインした憶えもない」
堂々巡りを繰り返しながらようやく我が家に辿り着いた。が、即座に回れ右して元来た道を帰ろうと!?
「どこに行く気かな~?奥さん」
「よくやった、トリス、クリフ」
「ちゅ、中将殿?と文官の」
「クリストファーだよ。よろしくねルーちゃん」
見事な体捌きでルーテイシアを抑えているのがルーテイシアの上官であるトリス中将で、眼鏡をかけた伊達男が副宰相のクリストファーだ。まさかと嫌な思いが過ぎる。
「あ!お帰りなさいルーシアさん。今日も素晴らしく綺麗ですね。愛してます。やっぱり俺と貴方の運命は繋がってたんですね。ようやく俺との結婚を承知してくれて嬉しいです。絶対幸せにしま……ぐぼぁ!」
「うるさい。黙れ。変態」
「シェイス殿。鍋が沸騰してますよ。……おや?貴方がルーテイシア・バレッタ・レンツァー・ミラコン・スオード・ライデン・ドルスさん?噂はかねがね聞いております」
なぜ彼等がルーテイシアの屋敷から出てきたのか。半ば確信に誰か嘘だと言ってくれと願う。
「シェイスさん!大丈夫ですか?」
優しげな風貌をした栗色の髪をした少年が、幸せそうに倒れているシェイスを介抱している。人生最大の厄日だ。
未だ六人の旦那が出てこないorz。
困ったなぁ。