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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第一章 悪役令嬢にされた日。
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ツリ目令嬢、再び危機一髪!? 助けてくれたのは“妖精さん”!?

「痛いじゃない! また、あなたなのね……!?」


セレーネは、ゆっくり立ち上がると、少し離れた場所で並んでいた吊り目の女性の元に向かった。


「あっ……また、あの方のところに……」


それを見ていたヘルミーナは、思わず声を上げる。


「何か言ったか……?」


「え? 私は、何も言っていないけど……」


「今……後ろから、女性の声が聞こえた気がしたんだが……気のせいか……?」


ヘルミーナの周りにいた人たちが、キョロキョロと周囲を見渡すが、そこにいるのはグレインだけ。


ヘルミーナ自身も、思ったより声が大きかったのか、驚いたように、思わず口に手を当てる。


「……ちょっと、怖いこと言わないでよ。後ろにいるのは、男の人だけじゃない」


「そ、そうだな……気のせいか」


グレインと目が合うと、前に並んでいた二人は「すみません」と軽く会釈をしてから、前へ向き直した。


「おい……ヘルミーナ。もう少し、時と場合を考えろ。お前が驚いたりするときだけは、声が聞こえやすくなるんだぞ?」


「す、すみません……すっかり忘れていました」


周りに聞こえないくらいの声量で、グレインが注意すると、ヘルミーナは肩を落としながら、素直に謝る。


「それで……何があった……?」


グレインの位置からは、状況が見えていなかったらしく尋ねると、ヘルミーナは慌てた様子で話し出した。


「グレインお兄様……また、吊り目の美人さんが絡まれているので……行ってきます!」


「吊り目の美人?」


その言葉を聞くなり――


ヘルミーナは、すでに二人の元へと向かって、走り出していた。


(……ったく。人の話は、最後まで聞けばいいのに……こういうところは、母上そっくりだな)


グレインは、ヘルミーナが走り去っていく姿を見ながら、ため息を吐いた。


そして周りの人たちは、ヘルミーナが見えていないためか――


「突風が吹いた!!」


と、騒ぎになっていることなど、本人は知るよしもなかった。


(本当に……このまま、学園生活が始まって大丈夫なのか……俺だけで、何とかできるとは思えないんだが……)


ヘルミーナが、突風と勘違いされている頃、入寮手続きの列では――。


***


「ちょっと! 聞いているの!? あなた、ローゼンクラフト公爵家の私に、そんな態度をとってもいいと思っているわけ!?」


入寮日当日――。


吊り目の女性こと、リルベーラ・エーデルヴァーンは、手続きを済ませようと、列に並んでいた。


「この行列……話には聞いていたけど、一日がかりになりそうね……」


エーデルヴァーン公爵家では、学園に入る際、侍女を一人も付けない決まりになっている。


それどころか、送り迎えすら、許されていない。


理由は――。


学園において、“公爵家という身分を使わない”ことが、家の掟だからだ。


リルベーラは、人の邪魔にならないように、トランクケースを通路とは逆側に置き、本を読みながら、静かに待っていた。


すると――。


「いったぁぁぁぁ~~~い!!」


目の前で突然、金髪の女生徒が転んだのだ。


「だ、だいじょ……」


そのままにしておくわけにはいかないと感じたリルベーラは、金髪の女生徒に声をかけようと、しゃがみ込んだ。


「痛いじゃない! って……また、あなたなの!?」


涙目になりながら、リルベーラを見上げてくる女生徒を見て、リルベーラは思わず、顔を引きつらせた。


(……またか……この子も、私を標的にすると決めているみたいね……)


差し伸べようとした手を引っ込めようとすると、セレーネは、リルベーラの腕をガシリと掴み、グイッと、自分のほうへ近づける。


そして、次の瞬間――。


どこから取り出したのか、自分の制服を、ナイフのようなもので、切り刻んだ。


「キャアァァァァァァァ~~~!!」


先ほどよりも大きな叫び声に、周りにいた人たちも、思わず、リルベーラの方へと近づいてくる。


「な、何事だ!?」


観客がそろったかのように、セレーネは、ウルウルと目を震わせると、周りに見えるように、ナイフをカランカランと落とし、破れた制服を、誇張するように見せつけた。


「制服、破けてるぞ!?」


「まさか、あの子がやったのか?」


「キャァァァ~! ナイフが出てきたわぁぁ!」


先ほどまであった長い行列は、瞬く間に円になり、リルベーラたちを囲む。


(卒業パーティーの時から、面倒だと思ってたけど……本当に、面倒な人ね)


リルベーラは、目の前にいる、演技派なセレーネを見て、大きくため息を吐く。


と、同時に、一人の男が近づいてきた。


「おい……何があった」


その男が近づいてきた瞬間、周りにいた女生徒たちも、「きゃ~~~~~!!」と、黄色い声を上げた。


(うわぁ~……面倒なのが、もうひとり来たわ……この男、いつもこうやって、“状況も見ずに”しゃしゃり出てくるのよね……)


顔には出さないリルベーラだったが、現れた男を見て、持っていた本を、思わず握りつぶした。


***


「あちゃ~……制服、破けてるわ……」


ヘルミーナは、近くまで行くと、何があったのか、瞬時に理解した。


(あのナイフ……フレイシアにしかない鉱石で作られているものね。確か……結構、高いはず)


自分の痕跡が残らないように、ハンカチを使って持ち上げ、そっと、金髪の女性のポケットに戻す。


破けた箇所を確認すれば、縫い目に沿って、きれいに破かれているのがわかる。


(この破け方……初めから、細工がされていたみたいね……)


「とりあえず、縫っておいた方がいいかな……」


ヘルミーナは、針と糸を取り出すと、破けた場所を、きれいに元通りへと戻していく。


ちょうどその時、王子の靴が、ヘルミーナの目の前をかすめ、彼女は、そっと一歩下がった。


もちろん、誰にも気付かれない。


(急ぎ縫いは、苦手なのよね……歪んでいませんように!)


そして、しばらくすると――。


タイミングを見計らったように、偉そうな男がやってきた。


「……おい、何をしている」


ドキッ。


ヘルミーナは、気づかれたと思い、息を止めると、声のする方を見た。


「ひぃっ……」


口に手を当てて、目を大きく見開くと、そのまま、ゆっくり顔を動かす。


と、どうやら、目の前の男は、吊り目の女性に話しかけているようだ。


「ハァ……私じゃなかった。……って、見えるわけないものね。さぁ、続きやりましょうか」


ヘルミーナは、自分に話しかけているわけではないことを確認すると、そのまま、作業を続ける。


「いえ、特に何もしていませんよ。ダーリン第二王子殿下」


「ふっ。どうせ、お前のことだ。また、セレーネをいじめていたんだろう? 俺が、お前を見ないからって、必死だな」


「あっ、危ない……! 針が……!!」


目の前で起きているやり取りの途中、男は、金髪の女性の腰を、勢いよく引いた。


「きゃっ! ダーリン。こんなところで、ダメじゃない! 皆が、見ているわ!」


「ふっ、見せつけておけばいいさ。それで……セレーネ、何があったんだ?」


(へぇ~……この金髪女、セレーネっていうのね……。頭、悪そうだわ……それに……ダーリン第二王子殿下って……ぷぷっ……もう少し、いい名前、なかったのかしら)


ヘルミーナは、ネタのような名前の男・ダーリンに引き寄せられて、顔を赤くしているセレーネを見た。


(うわぁ~……なんか、逆にお似合いかも……ぷぷ)


セレーネは、金髪縦巻きロールで、ダーリンは、八二分け。


風もないのに、まるで、風が吹いているように見える前髪。


ヘルミーナすら、針を持ちながら、思わず笑ってしまうほどだった。


「ちょっと、がたがただけど……これくらいなら、わからないわよね!」


縫い終わったスカートから、針を抜き、プチッと、糸を切る。


「あのぉ……この女が、私の制服のスカートを、破いたのぉ……」


そう言って、破れたところを見せるセレーネ。


しかし――。


破れたはずの所は、すでに、きれいに元通りに戻っていた。


「ん……? 破けている……ようには、見えんが……?」


「えぇぇ~……そんなはず、ないですよぉ……」


制服を見れば、破れたところは、きれいに補修されている。


「「「えっ!? えぇぇぇぇ~~!!」」」


先ほど、破けたところを見ていた人たちも、同じように驚く。


そして、吊り目の女性を、何事もなかったかのように、通り過ぎていった。


「間に合って、よかったわ」


風に乗って、小さな声だけが、吊り目の女性のところに届いていた。


「えっ……今のって……」


「なんだ? なんか、言ったか!?」


「いえ、何も……」


(また……助けられた。あの夜と、同じように……)


リルベーラは、卒業パーティーの時に起きたことを、思い出していた。


「妖精さん……かな。また、助けてくれたのね……」


その声は、誰にも届くことなく、消えていった。

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