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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第四章 地獄の学期末試験。
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追試三日目。

「リルベーラ。」


「レオンハルト。」


追試三日目――


ダンスホールに行けばすでに追試を受ける人たちと見学に来た人たちが集まっていた。


レオンハルトはリルベーラの周りを見回す。


「あれ?ヘルミーナはどうしたんだい?」


レオンハルトに首を傾げて聞けば、リルベーラを少し間をおいてから話し出した。


「……ちょっと、色々用意があってね。まだ来ていないのよ。」


(本当は、隣にいるんだけど……ギリギリまでバレたくないって言っていたし。)


二人で話をしていると、急にライトが消えて真っ暗になった。


そして次の瞬間――


一か所にライトが当たる。


「始まるみたいだね。」


レオンハルトはライトが当たっているところを見ると、


ツカツカ


と教師の一人が歩いてきた。


「皆、よく集まってくれた。これよりダンスの追試試験を開始する。今から呼ばれた順番に前へ出てくるように。制限時間は一人十分だ。その時間を踊り切ることが合格の絶対条件だ。」


そう言って、教師は名簿に目を落とした。


「――最初は、リーセ・ヴァルムスト。」


呼ばれた生徒が前に出ると、音楽が流れ始める。


軽やかなステップ。


見慣れた型通りのダンス。


レオンハルトは腕を組み、その様子を眺めていた。


次々と名前が呼ばれ、残り二、三組となったころ、


「次、ヘルミーナ・スヴァルドレーン。」


ヘルミーナの名前が呼ばれた。


その瞬間――


先ほどまでざわついていた人たちが静まり返る。


しかし――


待てども、待てども、ヘルミーナが顔を見せることはなかった。


「ヘルミーナ・スヴァルドレーン……いないのか?」


教師の一人がもう一度名前を呼ぶ。


「もう一度呼んで出てこなかったら、失格とする」


その瞬間――


ふわり


(この香り……確か以前も……)


すると、レオンハルトの横に影が現れた。


「申し訳ございません。何度か返事をしていたのですが、どうやらスヴェイ先生には届いていなかったみたいです。」


簡単に挨拶を済ませると、音楽が鳴り始める。


「も、もしかして……き、君が……ヘルミーナ……なのかい?」


レオンハルトの言葉に、ヘルミーナはこくりとうなずいた。


そして、ダンスを始めるために、そっと腕を取る。


「レオンハルト様。改めてご挨拶するのは初めてになりますが……制限時間は十分しかありません。後日、きちんとお話しさせていただきたいと思いますので、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


レオンハルトは、音楽に合わせて足を運びながら、目の前にいる女性から、視線を離せずにいた。


(……なんだろう。ヘルミーナのことは、前から知っていたはずなのに……)


(ただ“綺麗”という言葉だけで片づけていいのか、分からなくなるな)


ヘルミーナがその視線に気づき、ほんのわずかに微笑む。


その瞬間、胸の奥が、かすかにざわついた。


「わ、わかった。」


音楽は鳴り止むことなくどんどん進み、曲も佳境に入ってきたころ、ヘルミーナが小さく呟いた。


「もうすぐ時間ね……」


レオンハルトに聞こえるか聞こえないかわからないくらいの小さな声。


しかし、レオンハルトにはきちんと声が届いていた。


(声まで柔らかい。……これは、皆が噂するのも無理はない、か……)


「レオンハルト様、今日はお時間いただいてありがとうございました。このお礼は必ず……」


その瞬間、ぴたりと音楽が止まる。


そして次の瞬間――


腕の中にいたはずのヘルミーナの姿が、まるで夢のように消えていた。


「ヘル……ミーナ?」


名を呼んだ声は、誰にも届かず、空気に溶ける。


(はい、レオンハルト様?)


けれど、その声が彼に届くことはなく、レオンハルトはただ、その場に立ち尽くしていた。


「はい、これで全員終了ね。結果は後日通知します。お疲れさまでした。」


スヴェイはそう告げると、全員のテストが終わったことを確認し、その場を後にした。


「レオンハルト?」


リルベーラが声をかけると、レオンハルトの隣にいるヘルミーナは、思わず口元に手を当てた。


(たった十分の間に、一体何があったのかしら。)


頬を紅く染めたままのレオンハルトを見て、リルベーラは、なんとなく何が起きたのかを察する。


(あぁ~……もしかして……)


(これ以上、私が言うのも野暮ってものね。)


そう思うと、リルベーラはそれ以上踏み込まず、踵を返した。


「レオンハルト、今日はヘルミーナのためにありがとう。」


その声が届いたのか、レオンハルトははっとしたように顔を上げる。


「あ、あぁ……いや、こちらこそありがとう。それと……ヘルミーナにも、今度会えるのを楽しみにしていると伝えてほしい。」


「わかった。伝えておくわ。」


リルベーラは歩きながら、そっとヘルミーナに耳打ちする。


「あなた、レオンハルトと何か約束でもしたの?」


「ん~……約束ってほどじゃないけど、お礼をさせてほしいって話はしたわね。」


(あぁ~……きっと、それが原因ね。)


ヘルミーナとレオンハルトの温度差を思い出しながら、リルベーラは、ほんの少しだけレオンハルトに同情した。


「はぁ~、やっと追試が終わったぁぁ~!!リルベーラ、ケーキ食べて帰りましょ?」


レオンハルトの気持ちなどつゆ知らず――


ヘルミーナは、追試を無事に終えられた解放感に満ちあふれていた。


「いいわね! この間のお店とは違うところに行きましょうか?」


「賛成~! 私、ショートケーキ食べたいなぁ~。」


二人がダンスホールを出ていく、その瞬間――


レオンハルトの耳に、かすかにヘルミーナの声が届いていた。


「あれ……? 今の声……もしかして……」


そんな気がした。

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