表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第四章 地獄の学期末試験。
48/50

追試二日目。

「とうとう来てしまったわね。この日が……」


追試二日目――


「昨日は何とかなったけど、今日だけはどうにもならないわ……」


リルベーラの言葉に、ヘルミーナも深呼吸をした。


「今日はどうやって乗り切る気でいるの?一時間のお茶会でしょ?あなたが人に認識できるのはたったの十分。難しいのではなくて?」


リルベーラの言葉にヘルミーナはうなずいた。


「そうね……恐らく一番の山場といっても過言ではないと思う。」


二人の間に重たい空気が流れる。


昨日は得意なもの、”時間内”に完成させればいいということもあって、そこまで大変ではなかった。


(昨日のテストだって、普通だったら無理な範囲よ。)


リルベーラはヘルミーナの言葉に違和感があったものの、そのまま話を続けた。


「今日は一時間お茶会に参加しないといけないものね。でもあなたは十分しか顔を出せない。どうするの?」


(本当だったら、誰かに変装してもらって……代わりにテストを受けてもらうのもありかと思ったけど……)


(そんなこと、ばれたら大変だし。何より私のプライドが許さないわ。)


ヘルミーナの頭の中に、悪い考えが一瞬よぎる。


しかし、それを吹き飛ばすように首を横に振った。


「私なりにどうやって乗り越えるかは考えてきたし、問題はおもてなしする瞬間だと思うの。今回はそこにフォーカスして一か八かやってみるわ。それでだめだったら……」


「潔く補講を受けるつもりよ!」


そこには、以前泣いていたヘルミーナの姿はない。


だからと言って自暴自棄になっているわけでもない、自信に満ち溢れたヘルミーナが立っていた。


***


「じゃあ、行ってくるわね!」


カフェテリア――


追試二日目の今日もたくさんの人が見に来ていた。


「おい、まだか?昨日の美少女は。」


「なんだ!?そんなに美少女だったのか?」


「あぁ……一瞬しか見えなかったが、あれは、誰もが見惚れる美しさだったよ。」


(昨日の今日ですごい人気ね。一体どんな子なのか…私も興味があるわね。)


ヘルミーナは周囲の会話を気にすることなく、空いている席へと向かった。


テーブルの上には、すでに白いクロスが敷かれ、紅茶用のカップとソーサーが整然と並べられている。


(……ここが、今日の試験会場ね)


ざわめきの中心にいながら、彼女自身だけが、その視線の外にいることに、まだ気づいていなかった。


(先に準備だけしてしまいましょう。今から淹れておけばちょうどいい頃合いで一番おいしくなるはずよ。)


今日はあえて、冷めてから飲んだ方がおいしい紅茶を選んだ。


時間が経っても、味も香りも損なわれないものを。


それに合わせて、冷たくなっても違和感のないお菓子を用意する。


(勝負は――淹れる瞬間と、出すタイミング。それに、二言くらいのお世辞コミュニケーションね。)


それからしばらくして――


パンパンッ


と教師が手を叩く音が鳴り響いた。


「それでは、これよりマナーの追試を行います。今回は一時間のお茶会です。あなた方はもてなす側です。それぞれのテーブルに私たち試験官が回りますので、回ってきたらおもてなしをしてください。それまでは、各自テーブルに座って会話をしていて構いません。」


チリンチリン


教師が手に持ったベルを鳴らす。


「それでは、開始いたします。」


教師の言葉と同時に、数名の教師たちがテーブルへと散らばった。


「どうしましょう……これで落ちたら……」


「でも、やれることはやったし。その時はその時じゃない?」


同じテーブルに座っている生徒からは、不安な声が聞こえてきた。


(教師が回ってくるには時間がかかりそうね。)


ヘルミーナは教師の位置を確認すると、肩の力を抜いた。


(狙いは一つ。どうやら、うまくいきそうね。)


初めから熱めの紅茶を用意することもできた。


けれど、回ってくるタイミングが分からない以上、どちらかに寄せるしかない。


そして今回、ヘルミーナは――


“冷めてもおいしく飲めるもの”を選んだのだ。


教師たちがテーブルを回り始めてから二十分――


(あと少しね。)


「どうしよう……まさかこんなに回ってくるの遅いと思ってなかったわ。」


「私もよ……紅茶を用意してから結構経っているし、もう香りがなくなっているかもしれないわ。」


同じテーブルに座っている二人は、教師が回ってくるという前提を、すっかり忘れていたようだった。


(学期末試験の時も同じ流れだったはずなのに……きっと、それどころじゃなかったのね。)


二人の慌てぶりを横目で確認していると、教師が前のテーブルから立ち上がった。


その瞬間――


ふわり、


「えっ!? この匂い……何かしら。」


「あ、あなたいつ来たの!?」


テーブルに座っていた二人の前に、ヘルミーナが姿を現した。


「私ですか……? 元からこちらにいたと思いますが。」


さらりと、初めからそこにいたかのように振る舞う。


実際、間違いではないのだが、二人は不思議そうに首を傾げた。


だが――


その疑問を抱く時間は、すぐに終わりを迎えた。


「次はあなた方の番ですね。まずは、名前から。」


ヘルミーナはさっと立ち上がると、教師のために椅子を引いた。


「ルクス先生、こちらへ。」


(今日のために、先生方のお名前はすべて覚えてきたわ。)


ルクスが腰を下ろすのに合わせて椅子を戻し、その場で、優雅にカーテシーをする。


「私、ヘルミーナ・スヴァルドレーンと申します。」


他の二人も続いて名乗り、席に戻った。


「では、始めましょうか。スヴァルドレーンさんからでよろしいですね。」


ルクスが眼鏡をくいっと持ち上げる。


レンズが、きらりと光った。


「ありがとうございます。ルクス先生。」


ヘルミーナは静かに紅茶を注ぎ、そっとルクスの前へ差し出した。


湯気の立たない紅茶を見て、ルクスはわずかに首を傾げる。


「これは……?」


「ダージリンでございます。先生方が順に回られることは分かっておりましたので、冷めてもおいしくいただけるものをご用意いたしました。」


ヘルミーナが選んだのは、時間が経っても、香りの芯だけは失われない紅茶だった。


冷めてもなお、ほのかな甘みと澄んだ余韻が残る――


そんな一杯を。


続いて、皿の上のお菓子を差し出す。


「こちらは、レモンのパウンドケーキです。ここまでで甘いものを多く召し上がっていらっしゃるかと思い、口当たりの軽いものを選びました。」


ルクスは紅茶に口をつけ、静かに目を細めた。


「……これは。冷めているのに香りが立っていて、とても美味しいですね。それに、このお菓子も後味がさっぱりしている。」


一度、うなずく。


「相手の状況をよく考えた、良いおもてなしです。」


「ありがとうございます。」


二人の間に、穏やかな空気が流れた。


(この子が……実技をすべて落としたと聞いていた生徒ね。)


眼鏡の奥からヘルミーナを見る。


(色々話は聞いていたけど、きちんと、自分なりの対策を立てているわね。)


ルクスは小さく微笑んだ。


「スヴァルドレーンさん。結果は後日お伝えしますが、とても良いお茶会でした。」


「ありがとうございます。私にとっても、とても良いお茶会でした。」


微笑み返した瞬間、ヘルミーナの輪郭が、ゆっくりと薄れていく。


スゥ、と空気に溶けるように、その場から姿を消していった。


(ま、間に合った……)


名簿から顔を上げたルクスは、一瞬だけ目を見開いたが、すぐに穏やかに笑った。


(これは……彼女も、大変ね。)


それからお茶会は滞りなく進み、ヘルミーナは無事、追試二日目を乗り越えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ