突破口。
「グレイン。今、学園で噂になっている話は知っているか?」
生徒会室――
学期末試験も終わり、生徒会室も、いつもの落ち着きを取り戻したころ、学園内では妙な噂が話題に上がっていた。
「……あぁ~聞いただけだがな……」
リンデルに話しかけられ、目の前の書類から顔を上げると、リンデルは笑顔でグレインを見ていた。
(この顔……何かに気付いているって顔だな。)
グレインはリンデルの顔を見て、心の中で溜め息を吐く。
「あれでしょ~一年生の話でしょ~」
二人で話していると、ローヴァンが話に割って入ってくる。
「それでしたら私も少し聞きましたね。なんでも、筆記試験にはランキング上位に名を轟かせながら、実技試験は全て追試だったとか。」
「へぇ~アルヴィスまで知ってるなんて珍しいこともあるもんだね。普段は噂に興味すら持たないくせに~」
ローヴァンの言葉に続けて話したのは、いつも淡々と仕事をこなしている副会長アルヴィス・グレイヴだ。
「うるさいですね。噂ではなく全て現実に起こった話なのですから、知らない方がおかしいでしょう。
それよりも貴方はさっさと仕事してください。これではいつまでたっても帰れないではないですか。」
アルヴィスは眼鏡をクイッと持ち上げ、ローヴァンの耳を引っ張ると、そのままズルズルと別の部屋へと連れて行った。
「いった~い。グレイン助けてよ~!!」
グレインはその言葉を無視して、自分の書類へと目を向ける。
遠くから「卑怯者~」「薄情者~」という声が響き渡っていたが、誰一人助けるものはいなかった。
「ねぇ、グレイン。君に以前調査をお願いしたことがあったろう?とある生徒について……」
誰もいなくなったことを確認すると、リンデルがグレインに話しかけた。
「あぁ~、ありましたね。それが何か?」
「いや、なんだか気になってね。今までだったらすぐに調査報告が上がってきていたはずなのに、今回はやたらと遅いからさ。もしかして……」
リンデルはわざと間を置くと、
「君、何か知っているんじゃないか?」
グレインを見据えた。
(やばい……ヘルミーナのことは言わないでいたが……それが逆に興味を持たせてしまったか。)
グレインの背中に冷や汗が流れるのを感じる。
唾を軽く飲み込むと、そのまま話を続けた。
「あ、あなたが言っていたんでしょう?いつも姿が消えてしまうと……私も探していますがなかなか見つからないんですよ。」
(これで、隠せるか?まだ……できればあいつのことを王族には知られたくない。)
リンデルは笑顔で一旦首を傾げると、席から立ち上がる。
「ん~そっかぁ~。グレインが調べられないなら仕方がないねぇ~。まぁ、もう少しだけ待つことにするよ。」
そして、生徒会室の扉まで移動すると、もう一度振り返った。
「君の妹ちゃん……追試は合格するといいね。」
それだけ言うと、生徒会室から去っていった。
(あれは……気づいているな。)
グレインはリンデルが出ていった扉を見て、大きく息を吐いた。
***
「まずは一回、今回の追試について整理するか。」
学園のカフェテラス――
放課後になり、生徒たちもすでに寮へと帰宅し、まばらになってきたころ、グレインと、リルベーラ、そしてヘルミーナは三人で集まっていた。
「今回、筆記は受かっていた。ということだったな。」
「はい、筆記は全て受かっていました。点数もこの通りです。」
バサッ
九十点以上の答案用紙がずらりと並べられる。
「そういえば…昔から暗記や数学が得意だったな。」
グレインは妹の答案用紙を見て、眉毛をピクリと動かした。
(こいつ……なんだかんだすごいんだよな。)
「はい、勉強や本は昔から好きですから。新しいことを知れると思うとワクワクしてしまうんですよね。」
「はぁ、そう言える奴はあまりいないぞ?だが、このテストをみて、なんとなくだが一つだけ可能性が出てきた。」
「「可能性…?」」
グレインの言葉に二人は首を傾げる。
「そうだ。ほら、ここを見てみろ。」
そう言って指したのは――
「「ヘルミーナ・スヴァルドレーン?」」
二人が読み上げた言葉を聞いて、グレインはうなずく。
「あぁ、名前。というよりも、名前の記入欄だな。実技を思い出してみろ。」
グレインの言葉を聞いて、二人は実技の様子を頭の中で思い出した。
「実技で、名前を言ったか?」
「刺繍と、音楽のテストは番号でした。」
リルベーラに続けて、ヘルミーナが当時の状況を話し出す。
「マナーのテストは名前のプレートが置いてありましたけど、私の名前を呼んでから首を傾げて先生はいなくなってしまいましたね。
それからダンスの時も、名前を呼ばれましたが、相手が現れず…結局最後まで一人で踊ったんです。」
その瞬間――
リルベーラとグレインが立ち上がった。
「それだ!」「それだわ!」
二人の声がカフェテリア中に響き渡り、残っていた生徒が全員こちらを振り返った。
「えっ!?何!?修羅場!?」
「えぇ~相手グレイン先輩じゃない。羨ましぃ~!」
「女性の方は…一年生のリルベーラ・エーデルヴァーンよ。」
周りにはヘルミーナが見えていないためか、どうやら逢瀬中の大喧嘩と勘違いしたようだ。
二人は顔を真っ赤にしながら座ると、ヘルミーナが気を利かせて一つのケーキを渡した。
「ここは仲直りに。二人で食べさせ合うのはどうですか?」
「な、何言ってるんだ!」
「そ、そうよ!!」
ヘルミーナは周りに目を向けてから、二人に視線を移す。
「でもこの場を収めるにはこれが一番手っ取り早いと思いますよ?ねっ?」
ヘルミーナに促されるまま、周りを見れば、たくさんの生徒が野次馬の如く集まってきていた。
グレインはヘルミーナの言葉の通りにフォークを持つと、ケーキをすくってリルベーラの口元に持っていく。
「リル。あ~ん。」
リルベーラも顔を真っ赤にして、ケーキをそのまま口に入れた。
「あ、あ~ん」
それを見ていた生徒たちは――
「なんだ~修羅場かと思ったけど違ったのね。」
「なんだかんだお似合いの二人じゃない~。」
それだけ言うと、この場から散らばっていった。
「ゴホン」
生徒たちが散らばっていったのを確認すると、グレインは空気を戻すために一度咳払いをした。
「今回の敗因は、お前のことを先生たちが認識していなかったことだ。」
「で、でも刺繍は…実物があったはずでは?」
グレインの言葉に、リルベーラが疑問を投げかける。
「刺繍に至っては実物は残っていても、本人が刺繍をしていたという証拠がなかったんだろうな。
だって、その場の担当教師にはヘルミーナの姿が見えていなかったんだから」
その言葉を聞いて、二人はごくりと唾を飲み込んだ。
それからグレインは分厚い資料を取り出すと、パラパラとめくりだした。
「ここを読んでみろ。」
二人はグレインの指さすところを読む。
「評価は結果主義――でも、“誰がやったか分からなければ、結果として扱われない”って書いてあるわね……」
その言葉を聞いて、ヘルミーナはパッと顔を上げた。
「グレインお兄様、リル、ありがとうございます。おかげで、やることが決まりました。」
「次の追試、必ず一発で合格して見せます。そして――伝説に、名を轟かせましょう。」
それだけ言うと、ヘルミーナはやることがあるといって、そそくさとカフェテリアを去っていく。
その後姿を見ながら、二人は残ったケーキを食べた。
「グレイン様。ミーナって…かわいらしいですね。」
「だろ?俺の自慢の妹だ。まぁ、お前もかわいいけどな。」
そんな二人のやり取りが行われていたのを、ヘルミーナは知る由もなかった。




