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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第四章 地獄の学期末試験。
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公平という名の壁。

「エーデルヴァーン。待ちなさい。」


職員室から少し離れた廊下――

ヘルミーナが泣き止むのを待っていると、後ろから声をかけられた。


「ホルト先生。」


後ろを振り返れば、ホルトが腕を組みながら立ってるのが見える。


いつもであれば厳格さが前に出ているホルトだが、今日はどことなく柔らかさが残る。


(なんかいつもは怖い先生ってイメージだけど、今日はちょっと違うわね。)


リルベーラは目の前にいるホルトを見据え、次の言葉を待つ。


二人の間に沈黙が流れた。


「話がある。ついてきなさい。」


くるっとかかとを返すと、聞こえるか聞こえないかほどの小さい声で「スヴァルドレーンもだ。」と一言付け足した。


(やっぱり……この先生はヘルミーナのことに気づいていたのね。)


その言葉はヘルミーナにも聞こえていたのか、真っ赤な目を上げてリルベーラを見た。


「リル……。今のって……!?」


よっぽど嬉しかったのだろう。


リルベーラはヘルミーナの言葉に、こくりとうなずくと、そのままホルトの後を追った。


***


ガラガラガラ


「入りなさい。」


研究室――


「「失礼します。」」


中に入れば、沢山の本が山積みで置かれている。


「適当に座ってくれ。」


(適当に座れって……足の踏み場がなさ過ぎて座る場所ないじゃない。)


リルベーラは周りにある本を少しどけると、二人分の椅子を用意した。


その間にホルトは二人分のカップを取り出すと、お茶を淹れる。


(二人分……?ってこと気づいていないのかな。)


ヘルミーナがホルトの行動に少しばかり不安になっていると――


カチャリ


「ただの紅茶ですまないが……君も飲めるんだろ?スヴァルドレーン。」


リルベーラとヘルミーナの前にそれぞれカップを置いた。


(全員が気づいてくれていないと思っていたけど、ちゃんと気づいてくれていた先生もいたのね。)


ヘルミーナはホルト先生の不器用な優しさに触れて、胸が温かくなるのを感じた。


二人はホルトが用意したカップに口をつける。


三人の間に沈黙が流れた。


その沈黙は温かさと冷たさが混ざるような、逆に不気味な感覚。


それを破ったのは――

リルベーラだった。


「ホルト先生は気づいていたんですね。ヘルミーナがいたことに……」


リルベーラの質問に、ホルトはちらりとヘルミーナを見る。


「あぁ、気付いていた。」


「じゃあ、なんで……!?」


ガタン!!


リルベーラは椅子から、すごい勢いで立ち上がった。


「気づいていたからと言って、私には何もできない。」


その言葉に、リルベーラとヘルミーナは息を呑む。


「いいか?私は教師だ。すべての生徒を平等に見なければならない。それは他の先生も同じ。誰か一人を差別することはできない。」


そこでいったん区切ると、話を続ける。


「スヴァルドレーン。」


ホルトは、もやとしてしか見えていないヘルミーナを見る。


「お前がもし、教師だとして、他の生徒から認識できない生徒に点数をやれると思うか?」


ヘルミーナとリルベーラは少し考えると、首を横に振った。


「できないだろう?それが答えだ。

お前はテストに参加していたのかもしれない。

だが、今のお前を認識できる者は限られている。

それが……何らかの要因によるものだとしてもだ。

その問題は、最終的にはお前自身が向き合うしかない」


「……要因、ですか?」


ヘルミーナの代わりに、リルベーラが聞き返す。


ホルトは一瞬だけ言葉を選ぶように視線をそらし、それ以上は踏み込まなかった。


「今は、それ以上の話をする気はない。あとは、自分で考えろ。」


それだけ言うと、顎をクイッと動かして外に出るように促した。


(加護が原因だとわかっていても助ける気はない……自分で何とかしろ、ということね。)


リルベーラはホルトの言葉を聞くと、ヘルミーナの手を取って部屋から出ていこうと立ち上がった。


「ホルト先生。ありがとうございます。先生って怖いばかりかと思っていましたが、意外に優しい一面もあるんですね。

(……優しい、というより。線を引ける人、か)」


「ふん。」


二人は部屋から出ると、そのままエイクシュニル寮へと足を向けた。


その瞬間――


「やっぱりな。こんなことになってるんじゃないかと思ったよ」


目の前には、ヘルミーナの兄であるグレインが立っていた。


「グレインお兄様!」


ヘルミーナはグレインに抱き着く。


リルベーラはその様子を見て、ふっと肩の力を抜いた。


「リル。こいつが迷惑をかけたな。どうせ、実技全部追試になって落ち込んでたんだろう」


ヘルミーナの頭を優しく撫でる姿は、兄そのものだった。


二人の関係を見て、リルベーラは胸の奥がちくりと傷んだ。


(本当にこの兄妹、仲良いわよね。家とは大違いだわ。)


「そうですね。でも、なんだか妹ができたみたいで嬉しかったですよ」


リルベーラが思っていたことを口にすると、グレインは彼女の頭に手を置き、乱雑に頭を撫でた。


「それよりも、なんでグレイン様は全部知っていらっしゃるんですか?」


リルベーラは恥ずかしい気持ちを抑えて、グレインに話を振った。


「ん?だって、学園はこの話題で持ちきりだからな。」


「この話題?」


ヘルミーナは首を傾げる。


「あぁ~。お前たちはまだ聞いていないのか?

……筆記試験で上位にいるものが、実技試験は全部追試になっていたって。」


「そんな奴初めて見たって、学園では大騒ぎだ。」


それだけ言って、グレインは軽く笑う。


「はは、よかったじゃないか。ヘルミーナ。お前、ある意味この学園の伝説を作ったんだぞ?」


ヘルミーナはその言葉に、パッと顔を上げる。


「で、伝説ですか!?」


「あぁ~。伝説だ。」


「伝説……伝説……ふふっ……伝説ですか……」


先ほどまで落ち込んでいたとは思えない、頬を紅潮させる姿を見て、リルベーラは驚く。


(えっ!?一体何が起きているの…?)


するとグレインは、リルベーラに小さく耳打ちした。


「こいつは昔から、ファンタジー小説が好きなんだ。伝説とか、英雄とかな……」


(だからって……いい意味じゃないと思うけど。)


「グレインお兄様。私伝説になれますか!?追試で伝説作れますかね……?」


グレインにすがる姿は、まるで子供が宝物を見つけたようだった。


「あぁ~……どうだろうな。

でも、これだけは言えるだろう?

認識されない少女が追試をどうやってクリアするのか。

これは物語になると思うぞ。」


その言葉を聞いた瞬間――


落ち込んでいたはずのヘルミーナはどこへやら。


「私!絶対に一発で追試を合格して見せます。そして名を残して見せますわ!」


何にスイッチが入ったのかはわからないが、やる気に満ちたヘルミーナが立っていた。


(はぁ~……さすが兄というべきかしら。

それにしても……このまま何事もなくうまくいってほしいものね。)


ヘルミーナを見て、一人ため息を吐くリルベーラだった。

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