全ての結果は掲示板から。
「テストの結果、張り出されてるみたいよ。」
「上位十位までが科目ごとに名前出るんだっけ?」
「そうそう! あと、追試者も。」
「それは見ておかないといけないわね。」
学期末試験を終えて数日――
学園内は試験の話題で持ちきりだった。
「ミーナ。私たちも見に行きましょ?」
「うん。」
ヘルミーナはリルベーラに連れられて、試験結果が貼りだされている掲示板の前へと向かった。
掲示板の前では、入れ替わるように名前を確認しては去っていく生徒たちが後を絶たない。
「あそこみたいね。」
リルベーラが指さすところには、人だかりができているのが見える。
(あの中をかき分けていくのか……)
二人は少し嫌そうな顔をしながらも、掲示板を見ようと前へと進んだ。
(ふぅ~。人の間を抜けるって大変ね。)
ヘルミーナは一息つくと、そのまま掲示板へと目を向ける。
「学科別になっているのね。
あ、あそこ見て! ミーナの名前載ってるわよ」
―――
歴史学
九位 ヘルミーナ・スヴァルドレーン
数学
三位 ヘルミーナ・スヴァルドレーン
―――
「ほ、本当だ!
って、リルもマナーとダンス、それに……音楽にも名前が載っているじゃない。」
「ものの見事に全部実技ね。それも、刺繍以外……」
二人はテストの結果を見て、ほっと胸をなで下ろした。
そんな時――
「ねぇー……ヘルミーナ・スヴァルドレーンって名前、聞いたことある?」
「ないわね……。でも、たしか、スヴァルドレーンって、生徒会のグレイン先輩が同じ名前じゃなかった?」
「ってことは兄妹かな……」
ヘルミーナという名前が、至る所から聞こえてきた。
「ある意味すごいわね~。」
「ねぇ……。確か筆記の方はランキングにも入っていたはずよ?」
ヘルミーナとリルベーラは顔を見合わせると、小さくうなずいてから、ヘルミーナの名前が聞こえた方へと足を向けた。
すると、そこには――
―――――
アルファルズ学園
学期末試験管理局
学期末試験の結果を踏まえ、
下記の者を【追試対象者】とする。
なお、追試の詳細については、後日あらためて通知する。
【追試対象者】
<ダンス>
ヘルミーナ・スヴァルドレーン
リーセ・ヴァルムスト
カイ・エルドリク
<マナー>
ヘルミーナ・スヴァルドレーン
クラウディア・ベルグストロム
<刺繍>
ヘルミーナ・スヴァルドレーン
<剣術>
ローヴァン・ヘルシング
<音楽>
ヘルミーナ・スヴァルドレーン
サーラ・ブリュンヒルド
以上
アルファルズ学園
学期末試験管理局
局長代理 エルヴィン・クロイツ
―――――
追試者は、確かに他にもいた。
けれど――
いくつもの欄に、同じ名前が繰り返されているのは、
彼女だけだった。
文字は、読めている。
けれど、意味だけが頭に入ってこなかった。
「え……っとどういうこと……!?」
ヘルミーナは目を大きく開けて、リルベーラを見た。
「……ミーナ……」
リルベーラも、ヘルミーナにかける言葉が見つからないのか、ただ小さく名前を呼ぶだけ。
「こ、これは夢……? 夢よね……?」
リルベーラは思わず、ヘルミーナの肩をがっしりと掴んだ。
そしてそのまま、前後に揺さぶった。
「うっ……ミーナ、落ち着いて。これは夢じゃないわ!」
急に首を前後に振り出したリルベーラを見て、周囲にいた生徒たちが、ぎょっとしたように距離を取る。
「ひぃ……あの子、急に首が上下に……大丈夫かしら?」
「ど、どうしたのって……あれはリルベーラ・エーデルヴァーンよ。絶対、近くに寄らない方がいいわ」
周囲からは、ヘルミーナの姿が見えていない。
そのため、リルベーラの動きだけが、まるで一人で暴れているように映っていた。
リルベーラは、その視線のずれに、はっとする。
(……やっぱり、そうだわ)
掲示板から視線を外し、もう一度、ヘルミーナを見る。
目の前にいるはずなのに。
声をかけ、肩に触れ、揺さぶっているのに。
周囲の生徒たちは、そのやり取りを「奇妙な一人芝居」としてしか見ていなかった。
実技試験で起きたことが、リルベーラの脳裏によぎった。
(刺繍の試験のとき、同じ部屋にいたはずなのに、教師の動きが少しおかしかったのよね。
まるでヘルミーナは写っていない……ような)
それから――
ダンス、マナー、音楽。
それらはすべて、別の部屋で行われていた。
(筆記は全て問題ないのに、実技だけはどの結果も全て追試……)
リルベーラは今の状況から、一つの答えにたどり着いた。
(もし、先生方が……ミーナを“個人として”認識できていないのだとしたら……)
筆記試験は、名前さえ書けば成立する。
けれど、実技試験は違う。
その場に立ち、誰かに「見られた」という前提がなければ、評価は残らない。
(……この結果も、うなずけるわね)
「グスッ……リル……どうしよ……まさか、全部落ちるなんて思ってなかったよ……」
半泣きになりながら、ヘルミーナが抱きついてくる。
赤くなった目で、何度も掲示板を振り返るその姿を見て、リルベーラは小さく息を吐いた。
(今まで、たくさん助けてもらってきたもの。……やっと、恩を返せるのかもしれないわね)
リルベーラは、そっとヘルミーナの頭を撫で、ふっと笑う。
「ヘルミーナ。泣き止みなさい。こんなところで泣いたら、女が廃るわ」
そう言って、まっすぐに彼女を見る。
「いい? これは現実よ。
でもね――私が、必ずどうにかしてみせる」
「だから、追試を頑張りましょ?」
ヘルミーナは手の甲で涙をこすり、不安そうにリルベーラを見上げた。
「……ほ、ほんと?」
(真っ赤な目……まるでウサギみたいね)
透けるように白い頬に両手を添え、こつん、と額を合わせる。
「ええ。本当よ」
「そのためにね……今から、行かなきゃいけないところがあるの。ついてきてくれる?」
こくり、と小さくうなずくと、ヘルミーナは小動物のように、後ろをちょこちょこと歩き出した。
(いつもは、もっと元気なのに……なんだか、妹ができたみたい)
リルベーラは、彼女がはぐれないように歩調を落とし、
やがて、とある場所の前で足を止めた。
「え……っと?」
視線の先にあったのは――
「……職員室?」
先生たちの集まる、その場所だった。




