裁縫室の勉強会。
「はぁ~、もうすぐ学期末試験かぁ~……」
エイクシュニル寮、裁縫室――
クララのため息が、裁縫室の中に響き渡った。
ウルヴァール競技祭以降、衣装係のメンバーとリルベーラの七人は、ちょくちょく集まってお茶会を楽しんでいた。
クララの言葉に、リルベーラとヘルミーナは首を傾げた。
「クララ先輩。学期末試験って、そんなに大変なんですか?」
クララはリルベーラの方を見ると、もう一度深く息を吐く。
「大変ってものじゃないわ……。
筆記はまだいいのよ。でも実技がね~……」
その言葉に、先輩たち全員が頷いた。
「私はダンスのテスト追試だったぞ……。
たった一回、たった一回つまずいただけなのにさぁ……」
「私も~。お茶会のテストで、前の人とお菓子が被っただけで追試になったわ。」
「私は音楽……。
ヴァイオリンとフルート、どちらかしか選べないって……。
ピアノなら弾けたのに……」
(えぇ~、ここにいる全員、一個は追試ってこと……!?)
先輩たちはそれぞれ、テーブルの上のお菓子を手に取り、大きく息を吸った。
そして――
「「「「「刺繍は一発合格だったのに~~~」」」」」
ここにいる先輩たちの声が重なった。
《でも、意外ですね。オスカルド先輩は、苦手な物なんてないと思ってました。》
今まで黙って聞いていたヘルミーナが、ノートを書く。
オスカルドはしばらく黙っていると、意を決して話し始めた。
「だってぇ~。
私、男側のダンス踊れないのよ~ん。」
まさかの話し方に、ヘルミーナだけでなく、ミライア以外の全員が固まった。
「はは。オスカル、皆が驚いてしまったぞ?」
「えぇ~。
でもぉ、ここのメンバーにはバレてもいいかなぁって思ってぇ~。」
どうやらミライアは、オスカルドの正体を知っていたらしい。
(え~っと、初めて出会ったけど、心が乙女ってことなのかな?
でも、こういうのって自由だもんね。
裁縫も上手だし。
私にとっては、大好きな先輩に変わりないわ。)
《私は、どんなオスカルド先輩でも好きですよ?
それに、ミライア先輩も男勝りですし、お似合いなんじゃないですか?》
ヘルミーナの言葉に、二人は頬を紅くした。
二人の様子を見ていたクララたちも、ニヤニヤしている。
「もしかして~……お二人は、そういう関係なんですかぁ~?」
「へぇ~。お似合いですね!
いいと思います。ねぇ~、リナリア。」
ユーディットに名を呼ばれた瞬間、リナリアは口をあんぐりと開けて固まった。
「へっ!?!? 私?」
「あなた以外、他に誰がいるっていうのよ。」
リナリアの返事に、ユーディットは首を傾げる。
(そうよね……。ここにはリナリアって、私しかいないし。)
リナリアはちらりとリルベーラの方を見て、胸の奥が小さく跳ねるのを感じた。
(破いた布は縫うことができる……か。
ここは、きっと縫い直すチャンスよね。)
「確かに、お二人はお似合いだと思うわ。
っていうか!
考えたんだけど、よければ皆で勉強会とか……どうかしら?」
自信がないのか、少しずつ声が小さくなっていく。
しかし――
その心配は、杞憂に終わった。
バンッ!!
クララが机を叩き、立ち上がる。
「それ! いいわね!!
お互い、得意なものを教えあうっていうのはどうかしら!」
クララの言葉に、皆が立ち上がる。
「筆記なら教えられるぞ。」
「ダンスなら……」
「ヴァイオリンなら……」
「フルートなら、私が教えられるわぁ~」
先輩たちがそれぞれ得意なものを言っていくと、全員の視線がリナリアへと向いた。
「お茶会のマナーなら……。
な、なんとかなると思う。」
その言葉に、ここにいた全員の顔がパッと輝いた。
「で、でも、あまり期待しないでね。
何とかなる程度だから……。
そ、その……」
今まで輪の中にいるだけだったリナリアが、少し前に出ようとする。
その様子を見て、ヘルミーナはクスリと笑った。
その姿を見ていたリルベーラが、リナリアに近付いた。
「リナリア先輩。
私も、お茶会でしたらお手伝いできると思います。
ですので……そ、その……」
目線を少し外し、恥ずかしそうに一言。
「代わりに、刺繍を教えてくれませんか?」
二人の間に、沈黙が流れる。
すると、リナリアの背を押すように、温かな空気がその場を包んだ。
「う、うん。
私でよかったら……」
こうして次の日から、裁縫室では毎日、勉強会が開催されることになった。
***
「ここって、どうやって解くの?」
「これは、Xを代入してこうすれば……ほら。」
二人組になって勉強する姿を見ながら、ヘルミーナは微笑む。
「へぇ~。学年によって、勉強内容って違うのね。」
ヘルミーナは足をバタバタ揺らしながら、隣に座るリルベーラを見る。
刺繍を刺すのに、苦戦していた。
「いたっ……。
なんで、うまくいかないのかしら。」
指には、たくさんの絆創膏が貼られている。
《リルって……不器用だったのね。》
思ったことをノートに書いて見せると、それを見た皆がクスクスと笑った。
「わ、わるかったわね……。
昔から、針仕事は苦手なの……。
……いたっ。」
「あ~、だめよ!
糸を引っ張りすぎ!
それに、全然下書き通りに刺繍できていないじゃない!
ちょっと貸して!」
リナリアはリルベーラから刺繍枠を奪うと、一つ一つ丁寧に糸を取っていく。
「はい、やり直し!
これじゃあ、試験で合格どころか、追試も通らないわよ。」
まさかのスパルタ指導に、リルベーラは思わず周囲を見回した。
しかし、ここにいるのは、衣装係になるほどの腕前の人ばかり。
誰一人として、リルベーラの肩を持ってくれる人はいなかった。
ポンッ――
ヘルミーナは、リルベーラの肩を軽くたたくと、首を横に振った。
「ミーナ。
あなた一人、余裕そうだけど……大丈夫なの?」
ヘルミーナは少し考えてから、目の前にある問題を、すらすらと解いていく。
「か、か、完璧……」
《昔から、本を読んだり勉強するのが好きだったからね。
お兄様たちにも、教えてもらっていたし!》
自信満々にこたえるヘルミーナだったが、
その姿が見えていたのは、リルベーラだけだった。




