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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第三章 ウルヴァール競技祭。
35/50

奉納舞。

「ウルヴァール競技祭、最後の種目と言えばこれしかない!決勝に上がった選手の登場だぁ~!!」


ヴァルハイム競技場の一角、


ヴァルステッズ――


実況の中継とともに決勝に残ったペアが次々に壇上へと上がっていく。


「エイクシュニル寮の選手が一人も見えませんが、一体どうなっているのでしょうか。このままいくと不戦敗ということになりますが……」


「なんだ~今年は最初から尻尾巻いて逃げたのかぁ~!?」


「去年と何も変わっていないじゃないか。負け犬ならぬ負け鹿寮だなぁ~」


「「「はははは!負っけ鹿!負っけ鹿!!負っけ鹿!!!」」」


至る所から野次が飛ぶ中、レオンハルトが息を切らせながら壇上へと現れた。


「はぁはぁ…すみません遅くなりました。」


一人で現れたレオンハルトを見て、場内に一瞬の静寂が訪れる。


そして次の瞬間――


「「「「ははははははははは!!!!」」」」


場内が、大きな笑い声に包まれた。


「なんだぁ~相手がいないじゃねぇか~!」


「奉納舞は一人で踊れないぞぉ~?」


「顔は良いのに、エイクシュニル寮というだけで笑われて残念ねぇ~。」


しかし、レオンハルトは周りの言葉を気にすることなく準備を始めた。


(っていうか…このアウェーな感じ……。もしかしてこれを知っててフィンは私をここに出そうとしたってこと?)


レオンハルト――否、リルベーラは、周囲の言葉が耳に入っていなかった。


それほどまでに、この状況を理解するので精一杯だったのだ。


「ミーナ……あなたこのこと知ってたの?」


声に出したつもりはなかったが、隣にいる“誰か”には伝わったらしい。


ヘルミーナは小さく首を横に振った。


それからゆっくりと目を閉じると、大きく深呼吸をしてからゆっくり目を開いた。


「私はリルベーラ。さぁ、レオンハルト。最後の仕上げにこの会場をワッと驚かせましょう?」


それだけ言うと瞳の奥がきらりと光る。


(あの目の奥の光……きっと合図なのね。)


どこからともなく、ふわりと風が舞った。


花びらが舞台を包み込み、観客の視線が一斉に壇上へと集まった。


次の瞬間――


レオンハルトの隣に、一人の少女が立っていた。


漆黒の髪を揺らし、


凛と背筋を伸ばした一人の少女。


エイクシュニル寮の令嬢――


常に噂の中心にいる、その名を。


「……リルベーラ・エーデルヴァーン?」


誰かが、そう呟いた。


その名が、遅れて場内を満たしていく。


と、同時に


ざわり、と会場が揺れた。


♪~♪~♪~


リルベーラが現れた瞬間、


それを待っていたかのように音楽が鳴り始めた。


(ふふふ、つかみは上々ね。)


ふわりと笑う姿はまるで花の精霊そのものだ。


それと同時に凛々しい顔つきで立つレオンハルト。


二人はゆっくり腕を上げると、それを合図とでもいうように舞い始めた。


戦場を思わせるような重低音が響けば、レオンハルトが一歩、前に出る。


と同時にゆっくりと剣を振るう。


刃が空を切った瞬間、風が、舞台の中央を貫いた。


力任せではない。


それは正確で、迷いのない軌道。


(さすがね…思っていた通り剣舞も見事だわ!)


少し曲調が明るくなってくれば、


それに合わせて、リルベーラの足が床を蹴った。


裾が翻り、花弁のように舞台を彩った。


他にも踊っている人たちがいるというのに、


この場の空気の全てを二人が支配した。


「綺麗だ……」


「あぁ~……美しい。」


誰かがぽつりと呟く。


そして、先ほどまで嘲笑していた生徒が、口を開けたまま動かなくなっていた。


さっきまでの嘲笑が、嘘のように消えて、


二人の舞う姿に誰もが、瞬きを忘れた。


音が止まると同時に、


辺りはシーンと静まり返った。


その沈黙が、失敗なのか成功なのか、


誰にも判断できなかった。


――それは、あまりにも、完成されすぎていたからだ。


(えっ!?私たち失敗したの…?)


あまりの静けさに驚いていると、


次の瞬間――


会場がどっと沸きあがった。


リルベーラはあるところへ目を向けた。


(……ちゃんと、届いたようね。)


――これが、エイクシュニル寮の奉納舞。


逃げも、誤魔化しもない。


正面からの、反撃だった。


***


(一体どういうことだ…!?何が起きた。計算は合っていたはずだ…。)


パチパチパチパチ


奉納舞が終わると同時に、拍手が鳴りやむどころか、次第に熱を帯びていく。


他の寮生たちも含めた全員が立ち上がって惜しみない拍手を送っていた。


そんな中――


数名だけが、目の前の出来事に驚きを隠せないでいた。


「エルーナ……目の前にいるのは本物か?」


フィンは隣にいたエルーナに声をかける。


(レオンハルトは倒れていたはずだ。そしてリルベーラは俺を頼ってくるはずだったのに……)


フィンは自分の手を強く握りしめた。


そんなことはつゆ知らず……


エルーナはフィンに現実を突きつける。


「どう見たって本物じゃないですか。そんな顔するくらいなら初めから自分がやると名乗り出ておけばよかったのではないですか。」


エルーナは舞台から視線を逸らすことなく、淡々と告げた。


目の前にいたはずのリルベーラが、舞台の光に溶けるように消えていく。


(あれ…リルベーラがいない。)


フィンは一度目を擦ってから再度壇上を見たが、そこにいたのはレオンハルトだけだった。


「あっ……時間が過ぎちゃったみたい…」


その瞬間、舞台を満たしていた光が、ほんのわずかに揺らいだ。


誰かが気づくほどではない。


けれど、確かに――空気が変わった。


ぽつりとヘルミーナが呟いた。


「リルベーラ。あとはお願いしてもいいかしら。」


それだけ言うとヘルミーナは壇上から降りていく。


「えっ…!?ちょ、またこの展開!?」


普段冷静なリルベーラも、思わず素の声を上げた。


「って……私にどうしろっていうのよ。」


逃げ場のない舞台に、今度は“本物のリルベーラ”だけが、すべての視線を受け止める形で残された。


リルベーラが肩をがっくりと落としていると、そんなリルベーラの心とは裏腹に、司会の人の声が響き渡った。


「こ、こ、これはすばらしぃ演技でした。もう優勝は決まったものかもしれませんが、念のため審査員の一人にお話を聞きましょう~」


審査員の一人にマイクが渡され、勝手に話が進んでいく。


「えぇ~満場一致でした。今回の優勝は……

レオンハルト・アウローラ・フレイシアとリルベーラ・エーデルヴァーンのペアです」


その名前が告げられた瞬間、会場中の視線が、一斉に壇上へと集まった。


(……あぁ)


リルベーラは、小さく息を吐く。


祝福の視線を受けて立っているのは、“彼女自身”ではない。


(まっ、こういう勝ち方も悪くはないわね。)


観客の目にはレオンハルトとして映るまま、リルベーラは審査員の前へと進んだ。


その顔は先程まで自信のなかったリルベーラではなく、


いつもの凛と佇むリルベーラだった。

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