表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第三章 ウルヴァール競技祭。
32/50

食堂の悲鳴。

「うっ……」


「ちょ、ちょっと、レオンハルト!? 大丈夫……!?」


昼食の時間――


食堂の中は、一瞬で騒然となった。


「だ、だれか助けて!!」


「うっ……苦しい……」


椅子が倒れ、食器が落ち、至る所で人がバタバタと崩れ落ちていく。


意識のある者が倒れた者に近づき、ゆさゆさと身体を揺らすが、苦しむばかりでそれ以上の反応はなかった。


リルベーラもレオンハルトに話しかけているが、どうやら同じ状態のようだ。


(これは……さすがにやばいわね。)


現状の把握をするために顔を左右に動かしていると、食堂全体がすでに混乱していた。


(こういう時こそ冷静に……ですよね。レイヴンお兄様。)


ヘルミーナは胸に手を当ててから、一番上の兄がいっていた言葉を思い出す。


『いいか、ヘルミーナ。もし事件や事故が起きた時は、一度周囲をよく見渡せ。その中に鍵となるものがいるかもしれない。目の前のことばかりにとらわれるな。冷静に判断しろ。そしてできることから一つずつ行っていくんだ。』


「スゥー……ハァー……」


ヘルミーナは大きく深呼吸をすると、ぱちりと目を開けて、急いでレオンハルトに近づいた。


そして、喉に詰まったものを吐き出させようと、口元に手を伸ばした。


(この匂い……ほのかに甘いような。でも、腐ったような匂いね……。)


「ちょっと、ミーナ! あなたも何しているの!?」


「これ、急いで吐き出させないと大変なことになる気がするの。リルベーラは急いで医務室に行って、この状態を伝えてきて。」


リルベーラはヘルミーナの切羽詰まった声に、急いで食堂から飛び出す。


「うっ……ゴホッ、ゴホッ……」


「レオンハルト、大丈夫?……って、聞こえないか。」


レオンハルトの顔色が、わずかに戻っているのを見て、ヘルミーナはすぐに視線を他へ向けた。


(あ、あれは……もしかしてヘル、ミーナか……? まさかな……)


レオンハルトは意識が落ちる寸前、透き通るような銀髪の少女を見かけた気がした。


悲鳴と叫び声が交錯する中、ヘルミーナは自分を見られていたことも知らず、周囲を見渡しながら、次々と同じ処置を繰り返していく。


(ん~ざっと二十人くらい……? いや、もっといる?)


味がおかしいと思ってすぐに吐き出した人は、軽症ですんでいるようだが、中には意識がなく倒れている人もいた。


すると――


バンッ!!


と、食堂の扉が勢いよく開いた。


「皆さん、落ち着いて、静かにしなさい! まずは現状報告を。近くにいるもので、意識がある者、意識はあるが体調が悪そうな者がいたら手を挙げてください。」


寮の先生でもあるホルトの姿を見て、食堂に張りつめていた空気が、わずかに緩んだ。


「先生!こっちに倒れている人がいます。意識はありますが、ちょっと苦しそうです。」


「こっちは意識がないです。ただ、先ほどよりは呼吸が安定しています。」


まるで先ほどまでの混乱は嘘のように、一人一人が手を挙げて状況を説明していった。


(ホルト先生が来てくれたなら安心ね。)


ホルトは的確に医師へと指示を出し、意識のない生徒から順番に処置をしていく。


それから別の先生たちにも指示を出すと、ホルトは厨房の方へと足を向けた。


「リル。私、行きたいところができたから、ちょっと行ってくる。」


「え!? また? って……もういないし……。」


ヘルミーナはリルベーラに行き先だけ告げると、ホルトの後をこっそり追った。


それから暫くすると――


処置を終えた医師と先生が、厨房へと集まってくる。


「どうでしたか?」


「皆、同じ症状のようですね。見たところ、スープを飲んでいた時に倒れたようです。」


(……スープ? だったらおかしいわね……私もスープは飲んでいたけど大丈夫だった。リルもスープは飲んでいたもの。)


厨房に集まった先生たちの話に聞き耳を立てていたヘルミーナは、話を聞きながら色々と頭を巡らせていた。


「そうですか……。それで? 倒れた生徒は……。」


「命に別状はなさそうですね。どうやら誰かが、口から吐き出させてくれたようですよ。」


「それは、よかった。」


ホルトとヘルミーナは医師の話を聞いて、肩の力を抜いた。


「ですが……」


「ウルヴァール競技祭の出場メンバーが復帰するのは、難しいかもしれません。」


「特に奉納舞に出るメンバーですが……決勝に残っているメンバーが倒れてしまって……」


別の先生が、困ったように口を挟んだ。


「競技祭全体を止めるわけにもいきませんし……軽症の生徒は休ませれば問題ないかと。」


「重症者は医務室で経過観察。意識の戻らない者は、念のため隔離を。奉納舞の決勝者は…仕方ないですが棄権してもらいましょう。」


次々と指示が飛び交い、事態は整理されていく。


(……おかしい。)


先生たちの会話を聞きながら、ヘルミーナの胸の奥に、小さな引っかかりが残る。


倒れたタイミング。


症状の出方。


そして、あの鼻に残るような、甘く酸っぱい匂い。


スープだけが原因だとするには、あまりにも条件が揃いすぎている。


(しかも、重症化しているのは奉納舞の決勝に出る人だけ。こんなピンポイントってあるかしら?)


ヘルミーナは先生の話を聞きながら、首を傾げていた。


そんな時――


「ん~これは……食中毒と言っていいのか。調べてみないとわからないな……」


ホルトが小さく呟いた一言が、ヘルミーナの心の中にスッと入ってくる。


カシャン――


(あ、しまった……)


「ん? 誰がいるのか?」


しかし、返事をする者はなく、


そこにいるはずの少女は、息を潜めたままだった。


「なんだ。気のせいか。ネズミかな。」


一人の先生が音のなる方に近づいたが、そこには誰もいない。


ホルトがちらりと、ヘルミーナが立っているところを見る。


(やばい!? 気づかれた……? って、気づかれることはないと思うけど……)


いつも以上にうるさい心臓の音を落ち着かせていると、ホルトはパッと目をそらした。


「ネズミだと思いますよ。今は、何もわかっていませんし、あまり大事にしないことが得策だと思います。それと、この件は学園長に伝えておきます。」


それだけ言うと、先生たちは全員厨房をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ