ほどけ始めた糸。
「ミーナ起きて!そろそろ時間よ。」
翌朝――
リルベーラに身体をゆすられた衝撃でゆっくり目を開ける。
「あれ……!?もう朝?」
「そうよ。ミーナが朝起きれないなんて珍しいわね。」
目を軽くこすってから時計を見れば、時刻は六時半を指していた。
「えっ……?時計が壊れてる?」
ヘルミーナは首を傾げた。
が、何度見ても結果は同じ。
その瞬間――
ヘルミーナは布団から飛び起きた。
「うわぁ~やばい!準備しないと!!」
「昨夜コソコソとどこか行ってたのは知っているけど、あまり無理しちゃだめよ?」
「き、気づいていたの!?」
リルベーラからの言葉にヘルミーナは立ち止まった。
(リルベーラが寝ているの確認してから出ていったはずなのに……)
「あれで気づかないと思うのなら、もう少し演技を練習した方がいいわね。」
クスクスと笑いながらリルベーラが部屋から出ていく姿を後ろから眺めていると、ハッと時間がないことを思い出したヘルミーナは急いで支度を始めた。
洗顔をしながら昨日のことを思い返す。
(あの時は眠くて曖昧だったけど……)
昨夜、衣装を全て直し終えると扉の鍵が開いていた。
(誰かが開けてくれたってことよね。)
そこまで深く考えずに部屋に戻ると、そのままベッドにダイブしたのだ。
(もう少しうまくできるようにならないとだめね。)
冷たい水で寝ぼけ眼を無理矢理覚醒させると頬を軽くパチンと叩く。
「反省はあとでするとして…今は遅れないようにしないと!」
ヘルミーナは気合を入れると、リルベーラの後を追った。
***
「わぁ~皆、きれい~!!」
「本当に最後の確認よ~。ここまで来たんだから絶対成功させましょう!」
裁縫室――
朝食を食べ終えて向かうと、そこには衣装を着た奉納舞を踊るメンバーが集まっていた。
ミライアの言葉と同時に、五人が目まぐるしく衣装のチェックをしていく。
(私は、念のため昨夜の所を確認しておこうかな……。)
「衣装の動きを見たいから回ってみて。」
ミライアが指示を出すと、それぞれがくるくると回る。
その時――
ふと一枚の衣装に目が行った。
(あれ…あのスカートだけきれいに開いてない。)
ほんのちょっとの違い……。
しかしヘルミーナはその違いに気付いた。
なぜなら――
「間違えるわけないわ。だって私が作った衣装だもの。」
リルベーラの衣装だったからだ。
リルベーラの相手役の衣装を確認すると、そちらは特に問題がなさそうだ。
(昨夜感じた違和感……。あれは偶然じゃなかったのね。)
リルベーラは周りを見渡した。
そして一人の少女の前で視線を止める。
その子は目をぎゅっと瞑って周りを見ようとはしなかった。
(何かしら関わっているってことなのかな。)
その時――
「あれ……この刺繍。なんだか作った時と違うんだけど……」
クララの一言に周りの三人がパッとそちらを向いた。
それは昨日ヘルミーナが直したはずの刺繍だった。
「え!?どういうこと?」
クララの言葉に皆がその衣装へと駆け寄った。
(とりあえず、今は目の前のことよね。)
ヘルミーナは視線をずらしながら近づいていく子に少し違和感がありながらも、目の前の衣装へと目を向けた。
「この一列…もとは赤色だったのよ。それが緑になってる。これだと美しい線が出ないわ。」
クララが指をさしたところは昨夜ヘルミーナが直したところは別の所だった。
(昨夜確認した時はなかったのに。)
クララが頭を抱えながら「どうしよう~」と涙目になりながら考え込んでいると、
ミライアがポンッと優しく肩を叩いた。
「大丈夫よ。」
その目はいつになく真剣だった。
「この中に、リルベーラさんはいますか!?リルベーラ・エーデルヴァーンさん!!」
ミライアは急いでリルベーラを呼ぶ。
リルベーラは人垣をかき分けて近づいてきた。
「わ、私ですが……」
リルベーラが声をかけるとバッと腕をつかみ裁縫室の倉庫へと連れていく。
「えっ、なに!?ちょ、ちょっと……」
ミライアに鬼のような形相で連れていかれるリルベーラ。
それを見ていたヘルミーナも後を追った。
ガラガラガラ――
「ちょ、痛いんですけど!一体どういうことですか!?」
リルベーラはミライアの手を無理矢理振りほどくと睨みつけた。
二人の間に重い静寂が訪れる。
(あぁ~これってまた前と同じパターンかしら。)
幾度となく犯人扱いされてきたリルベーラ。
半ばあきらめていると、
次の瞬間――
ミライアがバッと頭を下げた。
「突然ごめんなさい。あなたに頼みがあるの。」
「あぁ~はいはい。またですか……って……え?頼み!?」
まさかの言葉に唖然とする。
「妖精さんからあなたのことを聞いたのよ。何かあったら彼女に話しかけてくれれば妖精さんと話ができるって。」
その言葉を聞いたリルベーラは、パッとヘルミーナの方を見る。
するとヘルミーナはこくりと頷いた。
(あぁ~認識はできないけど……ノートを使って話したのかな。)
ミライアの目には涙が浮かんでいる。
「先輩。そんな頭を下げないでください。確かに、妖精さんとお話はできますけど、何かあったんですか?」
リルベーラはミライアの背中をゆっくりさすると、落ち着いたのか少しずつ何があったのか話し出した。
「衣装の刺繍の色が変わっていたの……それを直すのに妖精さんの力を借りたいのよ。」
「競技祭はどんどん進んでいくわ。並行して競技が行われる。決勝まではそこまで衣装は見られないけど……決勝は衣装も見られるの。それが芸術点をあげるために必要なのよ。」
「だから……今年こそは成功させたいの!お願い。」
両手をそろえて頭を下げる姿をみて、リルベーラは何も言えなかった。
「で、ヘルミーナ。あなたはどうしたいの?」
リルベーラはヘルミーナに視線を向けた。
「もちろんやるわ!仕立て屋の娘として、納期厳守は絶対よ。それにあなたの衣装も直さないとね!」
「え!?私のも?」
「周りは気づいていないけど…私にはわかるの。あなたのスカート、綺麗に広がっていなかった。」
その言葉を聞いたリルベーラは目を大きく開いた。
(この子……本当に観察眼がすごいわね。)
「ミライア先輩に伝えてちょうだい。「お任せください!この仕事ヘルミーナ・スヴァルドレーンが承りました」って。」
その言葉に、ミライアはほっと息を吐いた。
だが――
ヘルミーナの胸の奥に残る違和感だけは、まだ消えていなかった。




