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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第三章 ウルヴァール競技祭。
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静かなほころび。

「はぁ~、ついに明日が本番かぁ~」


裁縫室――。


いつもの五人に、ヘルミーナを加えた六人で、衣装の最終確認をしていた。


「たった五人でよく頑張ったわよね。あ、違うわね。六人か……妖精さんがいるし。」


いつの間にか、五人の間ではヘルミーナの妖精呼びが定着していた。


それだけではない――


紅茶やお菓子も、すべてヘルミーナの分まで用意されている。


今日もテーブルの上には、六人分のティーカップが並んでいた。


(ふふ……少し、くすぐったいわね。)


「ねぇ、妖精さん。私たちにはあなたの姿が見えていないのだけど、意思疎通の取り方はないのかしら?」


ミライアは空いている席に目を向け、にこりと微笑んだ。


視線が合うわけではない。


だが――それでも。


ここにいる皆は、ヘルミーナのことを少しずつ理解しようとしてくれていた。


ヘルミーナはそっと、一冊のノートを取り出す。


《ノートを使えば何とか……。いつもおいしい紅茶とお菓子をありがとうございます。

もし何か急ぎの用事があれば、リルベーラ・エーデルヴァーンに連絡してください。》


ヘルミーナがノートから手を離すと、文字がふわりと浮かび上がった。


「うわぁぁ!? ……って、ノート!?」


皆が恐る恐る覗き込むと、そこにはきれいな文字で感謝の言葉が綴られている。


「リルベーラって……あの噂のリルベーラ?何かあれば、彼女に伝えればいいのね。これからも六人で定期的にお茶会をしたいと思っていたのよ。ほら……裁縫が好きでも、表立って動けない子が多いから。こうやってゆっくり話せるの、楽しいのよね。」


ミライアの楽しそうな言葉に、ヘルミーナも思わず頬が緩む。


(私も同じ趣味を持つ友達ができてうれしいわ。って、これはもう友達って呼んでいいのかしら?)


友達が一気に五人も増えたことに喜んでいると、話はどんどん進んでいく。


「あの布。やっぱり素敵よね~。どこに売ってるのかしら。光の加減で色が変わるのが絶妙だわ。」


「クララは細かい作業まで丁寧よね。あの刺繍今度教えて?」


「いいよ。そんなに難しくないし。それよりも、妖精さんの手直し……早くて的確で。何かしているの?」


《私は……家が仕立て屋で。》


その言葉を聞くと、皆が声をそろえて「あ~だからかぁ~」と納得の声を上げる。


それからしばらく――。


他愛のない話をしながらお茶休憩を終えると、ミライアが手を叩いた。


「さぁ、あとひと踏ん張り頑張りましょうか。衣装の最終確認も大詰めだしね!今日はゆっくり眠れそうだわ。」


テーブルの上のティーカップやお菓子を、唯一の男子であるオスカルドが片付ける。


その間に、端へ寄せていた衣装を近くに運び、それぞれが最終確認を始めた。


(ん~……おかしいな。前に直したはずの場所が……元に戻ってるわ。)


他の五人は気づかないような小さな違和感。


それを見ながら、ヘルミーナは首を傾げた。


(確かにちょっとした違和感だから気づきにくいけど……ここの刺繍の色も本来の色と変わってるし……)


刺繍の色は、日の光に当たるとよくわかる。


だからなのか……少し暗くなってきたこの裁縫室では、違和感に気付けるものがいなかった。


(あ……この衣装……ちょっと破けてるわ……。こっちもだ……)


小指が入るかどうかの小さな穴。それでも踊っているときにどこかに引っかかったりしたら、大変なことになる。


「なんだかおかしい……?」


一人で首を傾げていると、ミライアが声を上げた。


「うん!大丈夫そうね!あとは本番の奉納舞を楽しみにしましょう!」


(せっかくの雰囲気を壊したくないし……あとでこっそり直しに来ようかな。)


そう思っていると、ふと一人の子の手が少し震えていることに気が付いた。


顔を見れば真っ青になっている反面、ホッと息を吐いたのがわかった。


***


ガチャガチャ……


「ふふ……こういう時って、便利よね。」


寮内がすっかり寝静まった頃――


ヘルミーナは裁縫室へと足を運んでいた。


「あれ……鍵が、開いてる……?」


夕方、最終確認を終えて皆で裁縫室を出たとき、


『鍵もかけたし、これで大丈夫ね!!

念のため、みんな鍵が閉まっているか確認してちょうだい。』


そう言って、一人ひとりが鍵を確かめていたはずだ。


(ミライアが鍵を返しているのも、ちゃんと見てたのに……

どうして……?)


胸の奥に、ちくりと小さな不安が走る。


音を立てないよう、ヘルミーナはそっと扉に手をかけ、

ゆっくりと中を覗き込んだ。


……暗い。


灯りは落とされ、裁縫室の中は夜の静けさに包まれている。


その時――


かすかに、布が擦れるような音がした。


(……気のせい?)


ヘルミーナは息を潜めた。


もう一度、何かを感じた気がしたが、それはすぐに消えてしまう。


裁縫室の中には、誰の姿も見当たらなかった。


(……やっぱり、私の気のせいね。)


自分にそう言い聞かせ、ヘルミーナは中へと入る。


カチリ――


背後で、扉が閉まる音がした。


(あ……)


試しに扉に手をかけてみるが、びくともしない。


「……内側からは、開かないのね。」


少し古い裁縫室。


南京錠をつけて施錠する造りのため、外側からでなければ開けられない。


一瞬だけ迷ったあと、ヘルミーナは小さく息を吐いた。


「……考えていても、仕方ないわね。」


今できることを、するしかない。


一枚一枚、衣装を確認しながら、昼間に気になっていた部分に手を入れていく。


「……この破け方。やっぱり、何かに引っかかったみたいね。」


糸を解き、丁寧に縫い直す。


「こっちの刺繍も……色が、少し違うわ……。」


慎重に、淡い青色から濃い青色の刺繍へと整えていく。


「……この裾も危ないわね。」


踏みやすい位置にズレている裾を元に戻すと縫い直した。


「今気づいてよかった。危なく大きな怪我に繋がるとこだったわね。」


(せっかく仲良くしてくれているのに、こんな事で皆が悪く言われるのは嫌だもの。)


一枚一枚丁寧に作業を続けると、一旦大きく伸びをした。


(それにしても多いわね。これって……事故……なのかしら。それとも……)


そこまで考えると、ヘルミーナは首を振った。


(いや、だめね……今は、直すことだけ考えましょう。)


針を進めながらも裁縫室の静けさが、どこか落ち着かない。


先ほど感じた、あの違和感。


(……やっぱり、気のせいじゃない。)


そう思いながらも、ヘルミーナは最後まで口に出すことはなかった。

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