六人目。
「奉納舞について話します。」
寮の中庭――。
奉納舞を踊ることになった面々が集まっていた。
誰にも気づかれないことをいいことに、リルベーラにくっついてきたヘルミーナは、中庭に集まっている人数を数える。
(いち、にぃ、さーん……全部で二十人かぁ……。結構いるのね)
不思議そうな顔で辺りを見渡していると、中央にいたエルーナが話し始めた。
「まず、奉納舞ですが……曲と、男女ペアということ以外、決まりはありません」
エルーナの言葉を聞いた瞬間、一瞬の静寂に包まれた。
一瞬の静寂のあと――
「「「「……え!?」」」」
たった一言。
選抜者たちから驚きの声が上がる。
「ど、どういうことでしょうか?」
「去年はありましたよね?」
昨年も選抜された先輩たちが、言葉を続ける。
しかし、エルーナはその言葉に反応することなく、眼鏡をくいっと持ち上げた。
(あれは……きっと癖なのね。私も眼鏡をかけたら、知的に見えるかしら)
つい同じように眼鏡を持ち上げる真似をしていると、リルベーラと目が合った。
口パクで「何してるの……?」と言ってくる彼女に、ヘルミーナは顔を赤くして答える。
「練習してたの……」
二人の間に、ふっと緩やかな空気が流れた。
だが、それを断ち切るように、エルーナが話を続けた。
「えぇ……去年はありました。が、今年はありません。振り付けから、すべて皆さんで作っていただきます」
その言葉を聞いたリルベーラは、眉間に皺を寄せると、きょきょろと辺りを見渡した。
(……いた!やっぱり遠くから見ていたのね!)
きっと遠くの木を睨む。
そこには、こちらの様子を陰から見ているフィンの姿があった。
(絶対……あいつの仕業だわ)
昔から、いたずら好きで周りを巻き込みながら高みの見物をするのが好きだった。
幼馴染として長く付き合ってきたリルベーラには、彼の考えが手に取るように分かる。
フィンも、こちらに気づいたのか、口元だけを歪めた。
バキリ!
中庭のどこかで、枝が折れたような音が響いた。
(あ~お気に入りだったのに…。)
リルベーラの手には折れた扇子が握られている。
その瞬間――。
ざわざわしていた中庭が静かになる。
エルーナがリルベーラを見た瞬間、少しだけ同情のような笑顔を向けたが、
そのまま話を続けた。
「元々、奉納舞は自由なものなんです。ですが、皆が踊りやすいようにと、同じ振り付けにしていただけでした。ですから今年は、伝統にのっとって自由に踊ってください。衣装も、希望があれば衣装係に行ってください」
それだけ告げると、エルーナはこの場を去っていった。
その背中を見送りながら、ヘルミーナはなぜか胸の奥が落ち着かないのを感じていた。
(何も起きなきゃいいけど……。)
ヘルミーナはリルベーラを残して、衣装係の集まりへと足を向けた。
***
「今回は、これだけかぁ~……」
エイクシュニル寮の裁縫室――。
「五人しかいないね……」
裁縫室に集まったメンバーは、そろって小さくため息を吐いた。
(はいは~い! 私もいるので六人です!!)
全員が人数の少なさに落ち込んでいる中、一人だけ元気よく手を挙げているヘルミーナ。
しかし、その存在に気づく者は誰一人としていない。
「まぁ~、去年あんなことがあったからねぇ~……」
「ミライア……」
三年の先輩が去年の話を口にしかけた瞬間、別の先輩がそれを制した。
「あぁ~……ごめんごめん。これは話しちゃいけないことだったね。忘れてくれ」
ミライアはそう濁すと、そのまま担当決めの話を始めた。
それだけ告げると、黒板に名前を書いていく。
パンパンッ。
手についたチョークを払うと、コンコンと黒板を叩いた。
「今回は二十着だ。一人四着ずつな?」
そう言うと、各々が立ち上がり、担当の名前を書いていく。
(私も書いていいかなぁ~……。でも、人数が多くなっても、ばれないよね)
《ヘルミーナ・スヴァルドレーン》
ヘルミーナは、リルベーラと、他三人の欄に自分の名前を書き足した。
「じゃ、これで決まりだなぁ。基本は自由で。間に合わないとかあれば、お互い助け合うように」
そう言い残し、ミライアは裁縫室を出ていった。
(あれ……? でも、さっき“私を入れないで五人”って言ってたはずなんだけど……いいのかな?)
黒板に書かれている名前を見ても、やはり五人分しかない。
誰かが書き忘れたのか。
そう思ったとき、部屋の隅、陰になった場所で、丸くなって眠っている少女が目に入った。
「あっ……もしかして、この子が書かなかったってこと?」
思わず声を上げてしまい、慌てて口元を押さえる。
すると、目の前の少女が、ゆっくりと目を開いた。
「おはよう~。あなた……妖精さん?」
寝ぼけ眼でそれだけ呟くと、また静かに瞼が閉じられていく。
(えっ……と……驚かせちゃったかな……?)
一人あたふたしていると、
すぅ……すぅ……
と、穏やかな寝息が聞こえてきた。
その様子に、ヘルミーナは胸をなで下ろす。
(と、とりあえず……この子のおかげで、ばれなかったってことで……)
小さな声で「ありがとう」と告げてから、ヘルミーナは裁縫室を後にした。
ヘルミーナが出ていくと、少女の目がぱちりと開いた。
「あの子……なんだか私と同じ匂いがする。友達になれるかな…。妖精さん。」
その言葉は誰かに届くことなく溶けて消えた。




