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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第二章 制服だけが知っている。
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揺れる噂と、裁ちばさみの音。

学園内――


リルベーラとヘルミーナは、二人で廊下を歩いていた。


すると、どこからともなく、一人の女性が現れた。


薄い金髪が揺れ、垂れ目がちな大きな瞳がこちらを向いた瞬間――

廊下の空気が、一瞬、止まった。


――そして。


近くを歩いていた男子生徒が、全員、振り返った。


「おい……あの子って」


「あぁ~……噂の子だよな……」


「誰か、声かけてみろよ」


コソコソと交わされる、男子生徒たちの視線。


そして、その視線を羨むように、女子たちからは、別の圧が向けられていた。


ふっと、そこにあったはずの存在感が揺らぐ。


誰かが、声をかけようとした――その瞬間。


廊下には、何事もなかったかのような日常だけが残った。


まるで、最初から誰もいなかったかのように。


「あれ……いない……」


誰かが、小さく呟いた。


その声は、喧騒の中に溶けて、消えていった。


***


「いい感じに、広まってるわね」


声に出した言葉とは裏腹に、ヘルミーナは、足取りを緩めることなく、廊下を歩き続ける。


「まさか、こんなにうまくいくとは、思っていなかったけど……」


その先には、遠くから様子を窺っていたかのように、リルベーラが立っていた。


「リル。あなたも、来ていたのね」


「た、たまたま、通りかかっただけよ」


少しとげとげしい言い方をするものの、その視線には、隠しきれない心配が滲んでいる。


ヘルミーナは、小さく息を吐いてから、続けた。


「それよりも……さっきね――

 あなたに向けられていた視線の中に、少しだけ“違うもの”が混じっていたわ」


リルベーラが、わずかに眉をひそめる。


「恨み……というか。怒りに、執着が絡みついたような……そんな感じ」


その言葉を聞いたヘルミーナは、少しばかり、口角を上げた。


(ふふ……もう少しで、釣れそうね)


その表情を見て、リルベーラは、一瞬、顔を青くする。


「ミーナ……。あなた……演技していないときに笑うと……怖いわね」


二人の間に、一瞬、沈黙が落ちた。


「えっ!? うそっ!? 今まで、そんなこと言われたこと、なかったんだけど……」


ヘルミーナは、がくっと肩を落とした。


普段、周囲から見えていないヘルミーナ。

顔を見て話す相手が家族ばかりだったこともあり、誰一人として、その笑顔に言及したことはなかった。


リルベーラは、自分の言葉が、遅れて胸に刺さった。


(……違う。そういう意味で、言ったんじゃないのに)


慌てて言葉を探すが、うまく続きが見つからない。


「……ごめん。今の、変な言い方だったわね」


そう言って、そっと、ヘルミーナの方を見る。


しかし――


「えっ!? 何が!?」


目の前に、落ち込んでいるはずのヘルミーナはおらず、そこには、目をキラキラと輝かせた彼女が立っていた。


「え……あなた、落ち込んでたんじゃ……!?」


「大丈夫よ! むしろ、本音を言ってくれる友達ができたって、嬉しいじゃない。

さ、それよりも、早く行きましょ。次の目的地に」


そう言って笑うヘルミーナは、先ほどの、怖い笑顔ではなかった。


(……ちゃんと、誰かに向けて、笑えるんじゃない)


リルベーラは、小さく息を吐き、彼女の後を追った。


***


「ハハハ……次は、あの女だ」


裁縫室――


人の気配はない。


だが、部屋の奥には、灯りが一つだけ、残されていた。


作業台の上には、畳まれた布。


どれも、学園の制服と同じ色、同じ質感。


裁ちばさみを手に取ると、

その重みを確かめるように、ゆっくりと、指を動かした。


ジョキン、ジョキン……


刃が布を裂く音が、静かな室内に、不自然に響いた。


「……最近の学生は、身だしなみを“軽く扱いすぎる”」


誰に聞かせるでもない声。


「規律を乱し、噂に踊らされ、注目されることを、疑いもしない」


切り落とされた布の端が、床に落ちた。


ジョキン。


ジョキン。


乾いた音が、胸の奥まで、沈んでくる。


「そうやって、学園の秩序を乱すから……“余計なもの”が入り込むんだ」


ふと、手を止め、手に持っていた裁ちばさみを見つめる。


「……あの子も、そうだ」


刃先が、わずかに震えた。


「目立たず、学園の通りにしていれば――

綺麗なままで、いられたのにな」


制服を見つめるその目は、まるで、恋をしているかのようだった。


ジョキン、ジョキン……


音は、次第に、荒くなっていく。


「あいつらは、何もわかっていない。

服を作る大変さも、どんな思いで、作っているかも」


ジョキン……


「だから、こんなことができるんだ。こんな……こんな……ことを……」


「この学園だって、そうだ……。臭いものには、蓋をする」


切り刻まれた布の山を見下ろしながら、その口元は、満足そうに歪んだ。


「あいつも消えた。……次は、あの女だ」


裁縫室の灯りが、小さく揺れた。


「いくら追いかけても、消えてしまうから……制服を手に入れるのに、苦労したよ」


そして、どこから持ってきたのか――


一着の制服を取り出し、うっとりと見つめる。


次の瞬間。


眉間に皺を寄せ、制服を、ぐしゃぐしゃにした。


「あ、あぁ……いけない」


彼は、自分で皺にした制服を、丁寧に伸ばす。


「布は……綺麗に、しておかないとな」


それだけ言うと、今度は、裁ちばさみを取り出し――

制服に、刃を入れた。


ジョキン。


その音だけが、裁縫室に残った。

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