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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第二章 制服だけが知っている。
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噂が歩き出した日

「ん~……これがいいかな……」


ガサガサ。


授業が終わり、寮に戻ると、ヘルミーナはクローゼットの中を物色する。


手に取ったのは、制服の模倣品とウィッグ。


そして、奥に仕舞い込まれていた小さな木箱だった。


その木箱だけは、他のものと違って、しっかりと蓋が閉じられている。


(……これで、確かめに行こう)


そう決めた途端、胸の奥が、少しだけざわついた。


「何してるの?」


クローゼットに頭を突っ込んでいると、背後から突然、声がかかった。


ゴッツーン!!!


「わぁぁぁっっ!! いったぁぁ~……!」


「ちょ、ちょっと……大丈夫!?」


リルベーラは、持っていたカバンを机に置くと、ヘルミーナに駆け寄った。


「大丈夫、大丈夫!! ちょっと、探し物してただけだから」


ぶつけた頭をさすりながら、クローゼットから顔を出すと、取り出したものを、机の上に置いていく。


「えっと……これは?」


リルベーラは、制服を手に取って、首を傾げた。


アルファルズ学園の制服は、季節ごとに一着ずつしかない。

そして、簡単には真似ができないよう、特殊加工が施されている。


「これは、私が学園に入る前に作った、制服の模倣品。見つかったら、退学じゃ済まないから……内緒にしてね?」


いつもより口数の多いヘルミーナを見て、リルベーラは、少しだけ違和感を覚えた。


「……それって、危ないことじゃないの?」


思わず、そう口にしてから、リルベーラは、慌てて言い足す。


「でも……ヘルミーナが言うなら、ちゃんと理由があるのよね」


冗談めかした口調だったが、リルベーラの視線は、真剣だった。


「うん! 大丈夫! そんなへまはしないわ! だって、スヴァルドレーン家の娘だもの」


一瞬、二人の間に、沈黙が落ちた。


「リルベーラ……。あなたを巻き込むのは、あれなんだけど、一つ、お願いしたいことがあるの」


今まで、遠ざけてばかりいたヘルミーナからのお願いに、リルベーラは、身を乗り出した。


「えっ!? ヘルミーナが、私にお願い? 何でも言ってちょうだい?」


リルベーラの反応に、ヘルミーナも、思わず、くすっと笑う。


「な、なに……?」


ヘルミーナが笑ったことで、自分が思っていた以上に、はしゃいでいたことに気づいたリルベーラは、顔を真っ赤にして、視線をそらした。


「ううん……何でもないの。ただ、友達ができて、よかったなって思って」


頬の緩んだ顔を向けると――


次の瞬間。


笑顔が、スッと消えて、真剣な表情になった。


そして、ヘルミーナは、自分がやろうとしていることを、話し出した。


「リルベーラには、私の秘密を一つ、話すわ……」


「えっ!? 秘密!?」


リルベーラは、ヘルミーナの言葉に、ごくりと唾を飲む。


(秘密なんて……聞いちゃって、いいのかしら……)


しかし、ヘルミーナは、リルベーラの気持ちを気にせず、さらりと言った。


「私ね……ほんの短い間だけ、人に“ちゃんと見える”ようになるの」


「えっ……!? 人に見えるようになるの……!?

(っていうか、かなり大切なことなんじゃ……!?)」


リルベーラの言葉に、こくりと頷いてから、話を続けた。


「そう……。新入生歓迎パーティーも、そうだったでしょ?」


新入生歓迎パーティーの夜。


混乱の中で、気づいたときには、ヘルミーナの姿は、消えていた。


「確かに……いつの間にか、いなくなっていた……わね」


「でしょ? それで、話は戻るけど、私が皆に見える、短い時間を使って、とある生徒を演じるわ!

……そして、噂を“作る”」


リルベーラは、一度、言葉を失い、無意識に、胸元のリボンを握りしめた。


「……噂、って……」


「えぇ……私の予想が当たっていれば、だけど……今回、狙われている女生徒には、一つ、共通点があるの」


その言葉に、首を傾げる。


「共通点って……セレーネの取り巻き、ってことじゃなくて?」


リルベーラが犯人扱いされたとき、セレーネの取り巻きばかりが狙われていたから、という理由だった。


「周りは、そう思ってしまっていたみたいだけど、それは、ただの偶然が重なっただけ。実際の共通点は、もっと違うところにあったの」


そう言うと、模倣で作ったという制服のスカートの裾を、戸惑うことなく、切り出した。


「えっ……ちょ!? そんなことしたら、着れなくなっちゃうんじゃ……?」


「大丈夫、大丈夫!」


裾を、きれいに切りそろえると、今度は、鏡越しに、スカートを自分の身体にあてた。


「うん。このくらいで、いいわね」


「……あ……」


鏡越しに、ヘルミーナがスカートの長さを確認したことで、リルベーラも、何かに気づいたようだった。


「……でも、それって、偶然じゃない? 流行りってこともあるし……」


「偶然なら、こんなに揃わないわ」


「……そういえば、今回、狙われていた人たちのスカートの丈の長さ……

かなり、短かったような気がする」


ヘルミーナが、何をしようとしているのかに気づいたリルベーラは、


「でも……(危ないってことじゃないの……)」


と、ヘルミーナにも聞こえないような、小さな声で呟いた。


「だからこそ、私がやるの。……誰かが、これ以上、傷つかないように」


その言葉には、ヘルミーナの決心が、詰まっていた。


リルベーラは、ヘルミーナの顔を見て、覚悟を決める。


「わかったわ。私も、あなたの友達として……いえ、親友として、最後まで、ついていってあげる」


リルベーラが手を差し出すと、その上に、そっと手を乗せた。


その笑顔は――

もう、引き返さないと、決めた人のものだった。


***


「最近さぁ~……すごく、可愛い女の子を見かけるんだよねぇ~」


「あぁ~……噂になっていますね」


「そうなんだよねぇ~。声をかけようかな~って思ったんだけど、すぐ、見失っちゃってさぁ~」


生徒会室――


いつものように、書類整理をしていると、ローヴァンとセリクが、話し始めた。


グレインとリンデルは、二人の話に、耳を傾けているだけだ。


「その子が通った後に、独特な香りがするんだよね。すごく、いい香りなんだけど……何の香りなんだろうな~」


ローヴァンは、背もたれに身体を預けて、ぐい~っと、伸びをした。


(独特の香り……? なんか、嫌な予感がするな)


グレインは、以前、ヘルミーナに渡したコロンを、思い出していた。


「ローヴァン。その子は、どんな見た目なんだ?」


グレインが話に入ってくるとは思わなかったのか、ローヴァンは、少し驚いた様子で彼を見てから、ニヤリと笑った。


「なになに? グレインも、興味あるの~? 珍しいじゃん。いつもは、『女なんて興味ない』みたいな顔してるのにさ~」


「い、いや……そういうわけではないんだが、ちょっと、気になることがあってな……」


(あいつが、変身してるなら……大体の見た目は、わかるが……)


ローヴァンは、手に顎を乗せて、少し考える。


「え~っと……。透き通るような、薄い金髪に……目は、ぱっちりしててさぁ~。顔も、小さいんだよね。なのに、背は高めだったなぁ~。僕と、変わらないくらいの高さは、あると思う」


その言葉を聞いて――

グレインは、一人の女を、思い浮かべる。


(やっぱり……あいつか)


グレインは、大きく、息を吐いた。


――噂は、もう、学園の中を、歩き始めている。

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