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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第二章 制服だけが知っている。
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終わったことになった日。

「なんだか、すごい人が集まってるけど、どうしたのかしら」


制服紛失事件から、数日後――。


ヘルミーナとリルベーラが学園に着くと、掲示板の前に、たくさんの人が集まっていた。


「解決したってさ」


「リルベーラ・エーデルヴァーンさんが、犯人じゃなかったのね」


「私は、最初からエーデルヴァーンさんが犯人じゃないって、思っていたわ」


安堵と、無責任な好奇心が入り混じった声が、あちこちから漏れていた。


「私たちも、見に行きましょ」


リルベーラは、ヘルミーナの手を掴むと、掲示板の前まで移動した。


すると、そこには――


―――


制服紛失事案に関する通達


学園内において発生していた制服紛失事案については、

調査の結果、当該事案に関与した者を特定し、

すでに然るべき対応を完了した。


これにより、本件は収束したものと判断する。

今後、同様の事案が発生する可能性は低いと見込まれる。


なお、本件に関し、

事実に基づかない憶測や噂話によって、特定の生徒を犯人視する行為、

または、それに準ずる言動は、厳に慎むこと。


学園としては、

これ以上の混乱や、不当な被害が生じることを望まない。


以上、周知徹底する。


―――


と、書かれた紙が貼られていた。


その紙を見て、リルベーラが、ホッと胸をなでおろした。


「よかったわね! 犯人が捕まったって……って、どうしたの? 浮かない顔して」


人だかりから抜けると、リルベーラに、笑顔が戻っていた。


と、同時に、ヘルミーナは、少し違和感があるのか、眉間に皺を寄せて考える。


「犯人って……結局、誰だったのかしら」


通達された紙には、犯人の名は、一切入っていなかった。


それに……破かれた制服については、一切、触れられていなかった。


(いくら、私が直していたといっても……全部が直せたわけじゃないだろうし、制服が破かれてたっていうのも、わかるはず……)


「ん~……そこは、書いていなかったわね。でも、よかったんじゃない? 犯人は捕まったんだし、もう大丈夫でしょ?」


「そう……ね。そうだと、いいんだけど……」


ヘルミーナは、もう一度だけ、掲示板を振り返った。


(これは、一度、お兄様に聞かないといけないわね。

 ――“解決したことにされた理由”を)


一度、教室に荷物を置くと、ヘルミーナは、グレインの元へと向かった。


***


「おい。本当に、よかったのか? あんな文書を出して」


生徒会室――。


生徒会長の席に座るリンデルに、グレインは、静かに視線を向ける。


その瞳には、少しばかり、苛立ちが含まれていた。


「ん~……でも、仕方がないだろ? あれしか方法がなかったんだ。うちの番犬が、今にも噂の女生徒に噛みつきに行きそうだったしね。それに……」


「……それに?」


リンデルは立ち上がると、窓から外を眺める。


これは、リンデルが、顔を見られたくないときに、よくやる手口だ。


「学園側が、深く追及するなと言ってきた」


ユグラシル学園都市は、独立国家に近い。


そのため、四か国の王権すら、ここでは慎重にならざるを得なかった。


(納得できないが……この学園に、喧嘩を売ることはできない、というところか)


リンデルの手は、爪が食い込み、今にも血が出そうなほど、強く握り込まれている。


それは、怒りか――それとも、無力感か。


グレインは、リンデルの様子を見て、それ以上、何も言わなかった。


そんな時――


「お兄様……」


耳元で、ヘルミーナの声が聞こえた。


「お、おま……!?」


あまりに突然で、グレインは、思わず大声を上げる。


リンデルも、声の大きさに驚いたのか、ビクッと肩を震わせた。


「どうした……!? そんなに慌てて」


リンデルが、グレインの方を向こうとすると……


「い、いや、な、なんでもない!! 野暮用を思い出したから、ちょっと出てくる」


それを遮って、話を続けるグレイン。


あまりの慌てっぷりに、何かあるのではないかと、ローヴァンや、セリクも、顔をのぞかせた。


「大丈夫ですか?」


「いってらっしゃ~い!」


グレインは、ヘルミーナの腕を掴むと、即座に、生徒会室から出ていった。


その後ろ姿を見ながら、リンデルは、首を傾げる。


「どうしたんだ……?」


「わからないですが……トイレではないですか?」


「あ~、あの慌て方なら、そうかも~」


二人は顔を見合わせると、それぞれの仕事に戻った。


(一瞬、あの女性が見えた気がしたが……気のせいか……)


リンデルは、グレインが出ていった扉を、少し眺めてから、ゆっくりと、目の前の書類に目を移した。


***


「お兄様……痛いです……放してください!」


グレインは、無言でヘルミーナの腕を掴むと、何も言わずに、ズンズンと進んでいく。


ガララ――。


「入れ」


たった一言なのに、怒っているのが、わかる。


(間違えたかしら……。でも、お兄様が、何かあれば来るように言ったわけだし)


それだけ言うと、腕を引っ張って、ヘルミーナを空き教室の中へと入れた。


「俺が、なんで怒ってるか、わかってるか?」


ヘルミーナは、グレインの言葉に、首を傾げた。


「ん~……特に、怒られるようなことは、していないと思うんですが……」


「ハァ……。お前……あんなところに、一人で来るのは、危ないだろ?」


「あんなとこって……生徒会室ですか?」


彼女の、何もわかっていない返答に、グレインは、さらに深いため息を吐いた。


「違う……。いや、間違ってはいないが……とにかく、あいつの前に、顔を出すのはだめだ!」


「あいつって……?」


グレインは、リンデルが探している“何か”に、ヘルミーナが引っかかっている可能性を、否定できずにいた。


話の断片を、つなぎ合わせるたびに、胸の奥に、嫌な予感だけが積もっていく。


(もし、あいつが、見える側の人間なら……ヘルミーナが、危険だ)


額に皺を寄せていく彼を見て、ヘルミーナは、きょとんとした顔で、目を瞬かせた。


「……?」


「ま、まぁ……そのことは、今はいい。それよりも、用事があって来たんだろ?」


「はっ……! そうでした。掲示板の、制服紛失事件について、聞きたいことがあったんですよ!」


ヘルミーナは、グイッと顔を近づけた。


「あの事件の犯人が、捕まったって。本当なんですか!? どこの、誰ですか!?」


ヘルミーナの勢いに、少し後ずさりしながら、目をそらして、


「……それは、言えない。今は、な」


と、小さく呟いた。


「言えない……ですか?……では、これだけ教えて下さい。今回の制服紛失事件。本当に、もう終わったと、思っていますか?」


グレインは、少し考えると、首を横に振った。


「そうですか。なら、いいです。ここからは、私一人で動きます」


ヘルミーナは、扉をガラガラと開けると、背中を向けたまま、話した。


「お兄様が、守ろうとしているものがあるのは、わかっています。

でも、その陰で、泣く人がいることも……私は、知ってしまいました」


切られた布も、

残された道具も、

あの声も――


どれ一つ、

「解決した」と、言える理由には、ならなかった。


「お兄様が、どんな選択をしても、構いませんが……私の、誇れる兄でいてくれたら、嬉しいです」


ヘルミーナは、グレインの方を見ると、微笑んだ。


その笑顔は――

もう、引き返さないと、決めた人のものだった。

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