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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第二章 制服だけが知っている。
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残された道具。

「この切り方……まさか……」


裁縫室――


仕立て部の生徒が何人か残る中、顧問であるスティッチェルは、顔を青くして、切り刻まれた制服を手に持っていた。


「スティッチェル先生、どうしたんです……って、顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」


スティッチェルは、声のした方を見る。


そこには、一人の女生徒――クララ・ニードルが、心配そうな顔で立っていた。


「い、いえ……なんでもありません」


スティッチェルは、無理やり笑顔を作る。


「……そうですか? ならいいんですが……あまり無理しないでくださいね?」


それだけ言うと、自分の仕事があるのか、そのまま布を広げ、裁ちばさみを手に取った。


ガタガタガタッ。


「……っ」


スティッチェルは、裁ちばさみを見た瞬間、息を詰めるように喉を鳴らし、椅子から立ち上がった。


「えっ!? 先生、本当に大丈夫ですか!?」


あまりの動揺ぶりに、ハサミを持ったまま近づいてくるクララを見て、スティッチェルは、少しずつ後退する。


「あ、あぁ……。思ったよりも、体調がよくないみたいだ……今日は、先に帰らせてもらうよ」


それだけ言うと、かかとを翻し、まるで追われるかのように、扉の方へ足早に歩き出した。


その瞬間――


ガラガラガラ。


誰かが、扉を開ける。


「あれ? スティッチェル先生、もう帰るんですか!?」


目の前には、仕立て部員の一人――スヴェイン・ヴァルムが立っていた。


「スヴェインか……驚かさないでくれ」


驚かしたつもりのないスヴェインは、首を傾げた。


「なんだか、すみません。それより、顔色悪いですけど……大丈夫っすか?」


「あぁ……大丈夫だ。すまないが、今日は先に失礼する」


ふらふらと倒れそうになりながら歩く姿を、スヴェインとクララが見送っていた。


***


「あんな事件があったのに、よく学園に顔出せるわよね」


「あれじゃない? 逆に、犯人だからこそ、堂々としていられるのかもしれないわよ?」


「それありえる~。って……そういえば聞いた? 最近の制服紛失事件。狙われてるのって、ローゼンクラフト先輩と仲良くしていた人なんですって」


「うわぁ……もうそれって……」


「犯人、絶対あの子で決まりでしょ~」


教室内の窓際――


ヘルミーナとリルベーラは、二人で並んで帰り支度をしていると、廊下がザワザワとうるさくなった。


「……はぁ……本当に、懲りないわね」


廊下の方は見ないものの、自分のことが言われているのがわかるのか、リルベーラは、ため息を吐く。


そんな姿を見て、ヘルミーナは、申し訳なさそうに表情を曇らせた。


「ごめんね……リルベーラ。私が、あの時逃げようなんて言ったから……」


リルベーラは、首を横に振る。


「ヘルミーナのせいじゃないわ。遅かれ早かれ、私が犯人って噂が広がっていたと思うし……それに、私は何もしていないんだもの。堂々としていればいいのよ」


そう言ってウインクするリルベーラだが、瞳の奥は、不安そうに揺らいでいる。


「それに……きっとまた、妖精さんが助けてくれると思うわ。きっと今頃、あっちこっち走り回ってると思うの。私の知る妖精さんは、友達思いの優しい子だから」


その言葉を聞いて、ヘルミーナは、ゴクリと唾を飲んだ。


(信じてくれてるのね……)


ヘルミーナにとって、友人であるリルベーラに信じてもらえたことが、何より嬉しかった。


(なるべく早く、犯人を捕まえないと……そのためには……)


帰り支度が終わり、立ち上がると、リルベーラに声をかける。


「リルベーラ……。ちょっと、寄りたいところがあるから、今日は先に帰ってくれる?」


「寄りたいところ?」


リルベーラは、皆から聞こえないように言葉を返すと、ヘルミーナは、こくりと頷いた。


「そう。仕立て部に、ちょっと寄っていきたいの」


アルファルズ学園には、様々な部が存在する。


そして、そのどれもが高い技術力を誇り、将来、国を代表する技術者を輩出する場でもあった。


仕立て部も、また、その一つだ。


「仕立て部……ね。今回の事件に、何か関係があるの?」


「……」


ヘルミーナは、少し困った顔をするが、リルベーラの質問に応える気はなかった。


(確定した情報以外は、言ってはいけないって言われているし……)


「まだ言えない……ってことなのね。でも、制服は切られてるのに、縫い目は前より綺麗なのよね……。犯人、職人気質なのかしら?」


冗談めかした言い方だったが、すぐに言葉を引っ込めた。


「ごめんね」


「いいのよ。いつか、教えてくれると信じているから。じゃあ、先に帰ってるから、ヘルミーナも気を付けてね」


教室を出ると、ヘルミーナは、リルベーラと逆の方向へと歩き出す。


(せっかく友達になれたんだから、もう少し頼ってくれたら、うれしいけど……)


その背が小さくなるのを確認すると、リルベーラも、寮に向かって歩き出した。


***


(誰か、いるかな~……)


裁縫室――


コンコン。


と、扉をノックすると、中から扉が開いて、女生徒が出てくる。


「あれ? 誰もいない……?」


(失礼しま~す……)


「気のせいだったのかな……?」


扉が閉まる瞬間、ヘルミーナは、サッと裁縫室の中へと入った。


ヒュン……


「なんか、寒気がしたような……」


(あ……ごめんなさい)


腕をさすっている女生徒に、心の中で謝ると、ヘルミーナは、裁縫室の中を見渡した。


作業台に、ミシン、マネキン、布……


様々なものが揃っているのを見て、思わず心躍らせる。


(うわぁぁ~……いいなぁ~。新しいものばかり揃ってるし。私も、仕立て部で作業してみたい~)


音を立てないように、隅々まで見ていくと、作業台の箱の中に、見たことのあるものを見つけた。


(あ、あれは……)


隠すように置いてあるそれは――


ヘルミーナが、何度も見てきた、破かれた制服だった。


(こんなに早く、見つかるなんてね……)


破れた制服を目に入れると、そのあたりに置いてあるものを見る。


裁ちばさみに、布……。それに、待ち針や、メジャーが置いてある。


(あ、この布の切り方……制服の切られ方に、そっくり)


裁ちばさみの使い方は、まっすぐ切るときに刃を動かさないように固定して、スッと切る方法と、刃を動かして、ジョキジョキ切る方法がある。


大抵、布を切ることに慣れている人は、前者の切り方が多い。


(それに、縫いやすいように、きちんと考えて切られているわ。お端処理しやすいように……)


近くにあった裁ちばさみを覗いてみれば、使い古してはいるが、綺麗に手入れされている、高価なものが置いてあった。


そこには、「S」という文字が入っていた。


(……許せない……)


誰かを傷つけるために、針や刃物を使うことが――


そして、それを“仕立て”と同じ場所に、持ち込むことが――


ヘルミーナの胸の奥で、静かな怒りが燻っていた。


「……父さん……」


その声は、裁縫室の奥に、溶けるように消えた。

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