表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第二章 制服だけが知っている。
18/50

疑いの矛先。

「走って!」


中庭中に声が響く中、ヘルミーナはリルベーラの腕をつかんで走った。


「えっ……でも、ここで逃げたら、もっと面倒なことになるんじゃない?」


「そうだけど……今は逃げる方がいいわ」


ヘルミーナの手には、先ほど木の上から取ったであろう制服が握られている。


「それに……いくら騒いだところで、証拠は出ないから」


背後で、誰かの叫ぶ声と足音が重なったが、ヘルミーナは、その相手がわかっているのか、振り返ることはしなかった。


(あの声……グレインお兄様だわ)


心の中で兄に感謝をすると、近くにあった裏路地へと入り込んだ。


「リルベーラ。急に逃げて、ごめんなさい」


リルベーラは、膝に手をつきながら、息を整える。


「はぁ、はぁ……別に構わないけど……。ヘルミーナのことだから、きっと意味があって逃げたんでしょ?」


ヘルミーナは、リルベーラの言葉に目を大きく広げた。


「そんな顔するってことは……きっと、私に関係があるんでしょうね」


ヘルミーナの肩を、ポンッと叩く。


「まっ、いつか話せる時が来たら、話してよね? 私たち、と、と……友達でしょ?」


頬を赤くしながら話すリルベーラを見て、ヘルミーナは「ふふっ」と笑った。


「な、何、笑ってるのよ? それよりも……その制服、直すんでしょ? 早く直しなさい!」


「うん! すぐやるから、ちょっと待ってね!」


小さな箱から針と糸を取り出すと、すごい勢いで、破れたところを縫っていく。


(す、すごいわね……ドレスの刺繍や、制服を縫ったものを見たことはあったけど……ここまでの技術、簡単に身に付くものではないわ)


目に見えない速度で動き続ける手を見る。


そして、縫われていく制服から、ヘルミーナの顔へと視線を移した。


気づけば、周囲の喧騒が嘘のように遠のいていた。


(この子……一体、何者なのかしら……)


先ほど起こった中庭での出来事は、すっかり頭からなくなり、リルベーラは、目の前で起きている出来事に、ただただ驚いていた。


「できたぁ~!!」


縫い終わった制服をバサリと広げて、問題ないか確認をする。


その姿は、ただの年相応の学生だった。


(まぁ……友達ってことには、変わりがないからいいかな)


リルベーラは、嬉しそうにするヘルミーナを見て、少し誇らしげに笑った。


***


中庭の事件から、一夜明け――


学園内は、とある噂でもちきりだった。


「ちょっと……聞いた? 最近の制服盗難事件。実は、犯人がリルベーラ・エーデルヴァーンさんって話よ」


「それ~!! 私も聞いたわ。エーデルヴァーンさんが、切り刻まれた制服を隠そうとしているところを、見た人がいるんですって」


「えぇ~、最悪じゃない。そんなことするようには、見えないのにね」


「エーデルヴァーンさんって……確か、二年の先輩とも揉めていなかった?」


「揉めてたと思う。いつの間にか、何事もなかったようになってたけどぉ~……」


コソコソと、至る所から聞こえてくる噂。


そのほとんどが、リルベーラを犯人とする話ばかりだった。


そうした声が、いつの間にか、学園のあちこちで囁かれるようになっていた。


コンコン。


「……で? これは一体、どういうことだ? ヘルミーナ」


学園内の、とある一室――。


目の前には、鬼の形相をしたグレインが、一定のリズムで机を叩きながら、ヘルミーナを見ていた。


「グ、グレインお兄様……!? ど、どういうこととは、一体どういうことでしょうか?」


ヘルミーナの背中から、たらりと汗が流れ落ちる。


「はぁ……俺が、気づいていないとでも思っているのか? 仮にも、お前の兄だぞ?」


その言葉には、色々な意味が込められているのが、わかる。


「確かに、お前は影の薄さで言えば、天下一品だ。仕立てだって、うまい。だが、情報収集能力で言えば、俺の方が上だろうが!」


グレインは、一度目を閉じると、先ほどよりも真剣な眼差しで、ヘルミーナを見つめた。


(お兄様が、この顔をするときって……本当に怒っているときとか、裏の仕事をしている時なのよね……今回は、一体どっちなのかしら)


ヘルミーナが、違うことを考えていると、グレインは眉間に皺を寄せ、「早く言え」と言わんばかりに、圧をぶつけてきた。


「す、すみません……。たまたまなんですよ……。リルベーラとランチを食べようと、中庭に行ったら、た・ま・た・ま……破れた制服が、木に引っかかっていたんです」


制服を取ろうと木に登っていたら、一人の女生徒が来たことや、足を滑らせた瞬間、手でつかんでいたはずの制服が、風に飛ばされ、リルベーラの足元に落ちてしまったことを伝える。


「そうか……。それで? その時、何か違和感のようなものはなかったか? リルベーラが犯人になってしまうような、何かが……」


(あぁ~……お兄様は、リルベーラが巻き込まれたことが、いやだったのね……)


ヘルミーナは、少し考えると、何かを思い出したかのように、手をパチンと叩いた。


「そういえば……制服が落ちた瞬間。目の前の女性が、『やっぱり、あなたが犯人だったのね!』と叫んでいました。その後、すぐに逃げてしまったので、理由まではわからなかったですが」


それだけ伝えると、グレインは「そうか……」と、短く返事だけをする。


「どうせ、お前のことだから、今までも制服を縫ってきているんだろ? その中で、他に気付いたことはないのか?」


全て見透かされていることに、思わず心臓がドクンと跳ねる。


「べ、別に……そこまでの何かは、見つかってないですね~」


グレインは、自分から視線を外すヘルミーナを見て、呆れた顔を向けた。


(本当に……ウソを吐くのが下手だな。こんなんで、こいつ大丈夫なのか?)


(……確証がない、か)


二人の間に、一瞬の沈黙が落ちた。


「そうか……なら、今はいい。もし、証拠が見つかったら、必ず俺に報告をしてくれ。わかったな? く・れ・ぐ・れ・も! 勝手に動くなよ?」


「いったぁぁぁ~~」


グレインは、今回のお仕置きに合わせて、耳を強く引っ張った。


「ふん。これくらい、平気だろ? 必ず、一人で動かないこと。それだけは、約束してくれ。わかったな?」


少し涙目になりながら、引っ張られた耳をさする。


「はぁ……お兄様が、そう言うなら……仕方がありませんね」


叱られながらも、どこか守られているような気がして、ヘルミーナは小さく息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ