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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第二章 制服だけが知っている。
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静かに広がる噂。

「グレイン。待っていたぞ」


グレインが寮の部屋に戻ると、そこには煌びやかな見た目をした男が一人、勉強用の椅子に腰を掛け、優雅に紅茶を飲んでいた。


「リンデルか……。こんな時間に、どうしたんだ」


首元のタイをグイッと緩めると、グレインは反対側にある椅子に腰を掛けた。


「同じ部屋なんだから、別に私が話しかけたっていいだろう?」


ニコニコと笑みを浮かべているリンデルが、ふと真剣な顔になる。


「グレイン……お前に頼みがある」


その瞬間――


部屋の中の温度が、少し低くなったことが分かった。


グレインは椅子から降り、リンデルの前で跪く。


「なんでしょうか?」


その声は、いつもの気の抜けた声よりも、少しばかり張り詰めている。


「最近、学園内で増えてきている事件について、調べてほしい。お前なら、なんとなく予想はついているんだろ?」


見下ろすように話す姿は、まるで王族そのものだ。


「増えてきている事件……ですか。リンデル様がおっしゃるものと、同じものかは分かりませんが……調査いたします」


「うむ……ああいう存在は、放っておくと厄介になることが多いからね。それと……これは別件だが、とある女性についても、調べてもらえないだろうか」


「女性……ですか?」


まさかの発言に首を傾げていると、リンデルはこくりと頷いた。


「そうなんだ。ちょっと面白……いや、気が合いそうだから、話してみたいんだよね」


(今、この人『面白そう』って言ったな……)


「構いませんが……それは、リンデル・ヴァール・スノーミル第五王子殿下としての命令、ということでよろしいですか?」


「う~ん……女性については、私個人からのお願いだよ。ついででいいから、頼む」


両手をぱちりと合わせ、ウィンクしてくる目の前の男を見て、グレインは深くため息を吐いた。


「はぁ……それで、一体その女性は、どのような方なんでしょうか?」


グレインが調べることを承諾すると、濁っていた瞳が、きらりと輝いた。


それはまるで、面白いおもちゃを見つけた……とでも言うような顔だった。


「一言で言うと、影が薄い……幽霊のような女性、と言ったらいいだろうか。いつも途中で見失ってしまうんだが、なんだか目が離せないんだ。一回でいいから、あの目で私を見つめてほしいと思ってね……」


その言葉を聞いた瞬間――


ゾワリ。


その一言が、部屋の空気をわずかに歪めた。


***


新入生歓迎パーティーから、数日後。


ヘルミーナが学園に何があるか見て回っていると――


(また、制服が破られているわ……)


行く先々で、破れた制服が見つかっていた。


(これで……五着目。もう、偶然とは言えないわよね)


ヘルミーナは、懐にしまっていた針と糸を取り出すと、チクチクと縫い始める。


破れたところを見てみれば、縫い目に逆らうように、きれいに切られている。


それはまるで、裁ちばさみを使ったかのような綺麗さだ。


(切れ目がきれいだから、何とか直せるけど……こんな切り方、普通じゃない……制服に恨みでもあるのかしら……)


パチンッ。


(よしっ! できた)


残ってしまった糸をハサミで切ると、他に破れたところがないか確認する。


(大丈夫そうね……)


制服に刺繍されている名前を確認すると、ヘルミーナはそれを、そっと靴箱の中に入れた。


(これで、いいわね)


そして――


それから、さらに数日が経ち――


「えぇぇぇ~!! どういうことぉぉ!?」


以前よりも、破れた制服が増え、ヘルミーナは仕立て直し作業に追われていた。


「ヘルミーナ……あなた、最近一人でふらふらと出かけることが多いけど、何かあったの? 心なしか、元気がないような気がするし……。もしかして、最近噂になっていることが関係しているのかしら?」


教室に戻り、リルベーラの隣に座ると、ノートを取り出した。


《え、噂……?》


「知らないの? 最近、女子生徒の中で噂になっているのよ。制服がなくなったと思ったら、靴箱の中に入ってるって……しかも、前より頑丈になって戻ってくるってね」


全てを見透かしたように見てくるリルベーラ。


「中には、制服が変わって戻ってくるから怖いって言って、泣いてた子もいるみたいね」


その言葉は、すでにヘルミーナが何をしているか、断定しているような口ぶりだった。


「うっ……」


「で、何があったの?」


ヘルミーナは、少し考えると、何があったのかを書いていく。


《この学園、広いから。何があるか見て回っていたら、いたるところで破れた制服に出会うの》


「え? 破れた制服!?」


リルベーラの言葉に、こくりと頷いた。


《そう……初めは『たまたまかな~』って思っていたんだけど、一日、多い時は五着くらい、破かれてて……》


初めのうちは、五日に一回くらいだった出来事も、今では毎日起きている。


《もう、追いつかないのよね。でも、困っている人がいると思ったら、放っておけないし》


リルベーラは、ヘルミーナを見ると、盛大にため息を吐いた。


「ヘルミーナ。なんでもっと早く、教えてくれないのよ!? それはもう事件よ。……一人で抱える話じゃないわ」


リルベーラは、少し考えると口を開いた。


「ヘルミーナ。今まで、何着も直してきたんでしょ? 直していて、何か気づいたことはなかったの?」


《気づいたこと?》


リルベーラの言葉に首を傾げると、今までの制服を思い出した。


《そういえば……全て、切れ目がきれいに切られていたのよ。戸惑うことなく、一発で》


布を裁断するに慣れていないと、きれいな切れ目にはならない。


しかし、どの制服も綺麗に切られていて、直すには時間がかからなかった。


「へぇ~……っとなると、もしかしたら、布製品を扱うことに慣れている人かもしれないわね」


その言葉を聞いて、ヘルミーナはピンッときた。


(この切り口……もしかして……)


《仕立て屋さん……とか、手芸屋さん……とかと、関係があるのかも……。でも、もし仕立て屋さんが、そんなことをしているとしたら……なんだか、気に食わないわね》


(……仕立て屋さんが、こんなことをするかな……)


そこまで考えて、ヘルミーナは思考を止めた。


ヘルミーナは、胸の奥に言葉にできない違和感を残したまま、ノートを閉じた。

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