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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第二章 制服だけが知っている。
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お友達に認識された日。

「あなた……もしかして、ヘルミーナ?」


新入生歓迎パーティーも順調に進み、夜風にあたりながら月を眺めていると、突然後ろから声をかけられた。


「リルベーラ……?」


リルベーラの後ろには、グレインが腕を組んで立っている。


(え? 私が周りから認識される制限時間は、過ぎたはずなんだけど。どういうこと!?)


リルベーラは、つかつかと近づいてくると、ヘルミーナをぎゅっと抱きしめた。


「やっぱり! そうなのね。グレイン様が全部教えてくれたわ。まぁ、それを聞く前から、あなたがヘルミーナだと思ってはいたんだけどね」


静かにグレインを見ると、こくりと頷く。


「……え!? いや、ちょっと待って。なんでリルベーラに、私の姿が見えてるの?」


今まで家族以外の人に認識されることがなかったヘルミーナ。


自分の体質が改善されたのではないかと、試しに会場内へと入ってみる。


ドクン、ドクン――


緊張なのか、心臓が口から飛び出しそうなくらい高鳴っている。


しかし――


誰一人として、ヘルミーナに気付く者はいなかった。


(やっぱり……体質が改善されたわけではなかったのね)


小さくため息を吐くと、リルベーラとグレインがいる場所へと戻った。


「で……なぜ、リルベーラだけが私を認識できるようになったのでしょうか?」


兄であれば知っているのではないかと考えたヘルミーナは、グレインにズイッと顔を近づける。


「いや……俺も詳しいことは知らない。だが……一つだけ、思い当たる節がある」


グレインは、リルベーラの方を見た。


「リルベーラさん。いや、エーデルヴァーンさんと呼んだ方がいいかな?」


その瞬間――


リルベーラの顔が、ほのかに紅くなる。


(こんな短い間に……!? 何があったのかしら……。でも、まぁ、顔は整っているものね)


「リルベーラと呼んでください。むしろ、リルとか、ベラでもいいです」


段々と声が小さくなっていく姿を見て、思わずクスリと笑った。


しかし、当の本人は何も気づいていないのか……


「わかった。じゃあ、リルと呼ばせてもらおう」


犬猫を撫でるように、ガシガシと頭を撫でる。


(ハァ……本当、王子らしさが一つもない男ね……)


リルベーラは、そんなグレインの行動を気にもしていないのか、頬を赤くさせ、気持ちよさそうに目を閉じている。


「あのぉ~……二人で楽しんでいるところ、申し訳ないのですが。なぜ、私のことをリルベーラが見えているんですか?」


二人には認識できているはずのヘルミーナだが、その存在を忘れてしまうくらいには、二人の世界に入り込んでいたようだ。


(この二人がくっつくのも、時間の問題かしら。あっ……でも、ダーリンがいるんだったわね。グレインお兄様なら、何とでもしちゃいそうだけど)


二人をジーッと見ていると、グレインがゴホンッと一回、咳払いをした。


「あぁ~……すまない。それで、リルがなんでヘルミーナを見えているか……ということだったな。リル……あの時の現場で、ヘルミーナを見た時に、何かを感じなかったか?」


今もそうだが、ヘルミーナは変装している。


その変装技術は並大抵のものでは気づかないし、ヘルミーナはもともと認識されていないから、どれが本物なのか区別できる者はいない。


リルベーラが、思い出すように首を傾げる。


三人の間に、一瞬の沈黙が落ち、さらさらと風の音が響き渡る。


「あっ……そういえば……あの時、ヘルミーナが現れた瞬間、直感的に『ヘルミーナだ!』って思ったんです。見た目は見たことありませんでしたが、雰囲気というか……空気というか……それが、以前ドレスを直してくれた時と、そっくりで」


(まさか……卒業パーティーの時のことを、覚えてくれていたなんて……)


「まぁ、ヘルミーナから聞いたわけではなかったから、ドレスを直してくれたのがヘルミーナかどうかは、私の勘だったんですけど。ふふ。どうやら、その顔を見ると、間違いではなかったようね?」


目をまん丸くさせ、少し涙を浮かべるヘルミーナを見て、リルベーラが手を取り、額をコツンとくっつけた。


「あの時から……助けてくれてたんでしょ? ありがとう。私の妖精さん」


「妖精……なんて。困っている人がいたから、放っておけなかっただけ」


家族以外に見られることに慣れていないヘルミーナは、リルベーラの言葉に頬を染めた。


「きっと、それが原因だな」


「「妖精さんが……?」」


グレインの言葉に、二人の言葉が重なった。


「いや、違う。そこじゃない」


切れのいいツッコミに、二人は思わず噴き出した。


しかし、それを気にせず、グレインは話を続ける。


「恐らくだが……リルが、変装していてもヘルミーナに気付いた、というのが、何かの引き金になったんだと思う。

今までは、変装後の姿を認識することができても、もとのヘルミーナを“わかってしまった”者はいなかっただろ?」


その言葉を聞いて、ヘルミーナは「確かに……」と頷いた。


そして、グレインの言葉を聞いて、パッと顔を上げる。


「と、いうことは……相手が私を認識さえしてくれれば……見えるようになる可能性がある、ということですか?」


「いや……そんな簡単なことではないと思うぞ。それだったら、今までだって、お前のことを認識してくれる人がいただろ?

どんな姿でも、ヘルミーナだとわかることが、トリガーのようなものなんだろう。……って……聞こえてないな」


ヘルミーナは、周りから認識される可能性があるとわかったから、グレインの言葉を聞かずに、脳内で一人、舞い上がっていた。


(まぁ、いいか……)


グレインは、そんな彼女の姿を見て、少しだけ口角を上げた。


その顔は、妹を見守る兄の目だった。


***


「新入生歓迎パーティーも、そろそろ終わりですし、帰りましょうか」


会場内では、そろそろ曲が終わり、生徒たちが各々、寮へと戻っていく姿が見える。


リルベーラの言葉に頷けば、三人そろって、場外へ向かって歩き出した。


その時――


ヒラヒラ――

――バサッ


何かが、足元に落ちてきた。


「えっ……紙……じゃないわね……布?」


拾い上げたそれは――


「それ……学園の制服じゃない……?」


刃物で切り裂かれた制服だった。


――しかも、切り口は異様なほど、正確だった。

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