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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第一章 悪役令嬢にされた日。
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赤いリボンの不在、そして小さな願い

ヘルミーナが一人で、兄のところに行っている頃――。


リルベーラは、これからのことについて、頭を悩ませていた。


(……今の状況を考えると、正直、あまりよくないわね……)


リルベーラは、髪を耳にかけながら、落ち着かない様子で、ゆっくりと部屋を歩き始めた。


どこを歩いていても、聞こえてくるのは、セレーネを虐めて喜んでいる、という話ばかり……。


それどころか、尾ひれや羽ひれがついて、状況は以前よりも悪化している。


「ホルト先生は、信じてくれたけど……他の先生の顔を見る限り、信じていない人の方が多い、というのは確かだわ」


相手が、ダーリンだったというのも、よくなかったのだろう。


いくら平等を掲げている学園だとしても、王族相手だと、少し変わってくる先生もいる。


特に……その国出身の先生などは、わかりやすい。


「何か……何か、いい方法はないかしら……」


リルベーラは、部屋を数歩歩き、落ち着かない手つきで、カーテンの端をつまんだ。


しかし、指先に力が入ったまま、動けなくなり、結局、ベッドの端に、ドンッと腰を下ろした。


「このまま、この学園を退学……なんてことになったら……家は、間違いなく、私を切り捨てるわ」


そして、家のことを思い出して、深く、ため息を吐く。


迷惑をかけたくない。

でも、誰かに助けてほしい――。


そんな矛盾が、胸に渦を巻いていた。


(ヘルミーナに、話だけでも、聞いてもらう?

でも……迷惑、かけちゃうかしら……)


リルベーラは、キョロキョロと、辺りを見渡すと、ドアのリボンが、青から赤に変わっているのに気づいた。


「赤いリボンってことは……出かけているのね」


リルベーラは、以前、ヘルミーナが決めた、一つのルールを思い出す。


《私がいないときは赤いリボン、いるときは青いリボンを、ドアの取っ手につけておくから、それで判断してほしいの》


これは、普段、実家にいるときや、ヘルミーナが、侍女や従者に使っているのと、同じ手法だった。


「いないなら……一人で、考えないと、いけないわね。

……一番の問題は、学園を退学になることだから……それは、避けたいわ」


リルベーラの出身国である、トラヴァルド。


トラヴァルドでは、女性貴族は、結婚のための“家の道具”として扱われる。


だからこそ、学園の卒業は、絶対条件だった。


即ち――。


退学になれば……家は、確実に、リルベーラを切り捨てるということだ。


リルベーラは、胸の奥が、ひゅっと縮むのを感じた。


「それでなくても、肩身の狭い思いをしているのに……本当に、勘弁してほしいわ」


小さく吐いた息は、どこか、震えていた。


そして、その震えを抑えるように、明るい声で、話を変える。


「あ、でも……逆に、追放された方が、自由に生活できるようになるかしら。

そ、それはそれで、いいかもしれないわね」


リルベーラが、一人で、自問自答を繰り返していれば――。


ゆっくりと、扉が開いた。


取っ手にある、リボンが、そっと、青色へと変わる。


「おかえり、ヘルミーナ!」


リルベーラは、見えていないはずの、ヘルミーナに、笑顔を向けた。


***


ヘルミーナが、部屋に入った瞬間、ぱっと、華やぐような、笑顔が、視界に飛び込んでくる。


「わわわ! かわいい~!!」


フレースヴェルグ寮から帰って、取っ手のリボンの色を、青に変えたところで、リルベーラが、思いきり、歓迎してくれたのだ。


普段は、姉御肌で、凛とした、リルベーラだからこそ、この無防備な笑顔は、破壊力が、抜群だった。


思わず、ヘルミーナが、大きな声を上げると、その声だけは、聞こえていたらしく、リルベーラが、「ふふっ」と、小さく、笑った。


「ヘルミーナは、すぐ、驚くわよね」


《普段は、驚かれる側だから……慣れていないのよ》


さらりと、差し出された、メモを読むと、リルベーラの、まつ毛が、ふっと、陰ったように見えた。


(あ……今の言い方、少し、寂しく聞こえちゃったかも)


ヘルミーナは、急いで、次の文字を、書き足す。


《でも、リルベーラみたいに、私を、ちゃんと見てくれる人が、いるから大丈夫!》


リルベーラの、表情が、ほっとしたように、柔らかく、ほどけた。


「なら、いいのだけど……

それで、あなたが、出かけるなんて、珍しいじゃない?

どこに、行っていたの?」


リルベーラの言葉を聞いて、思い出したように、ヘルミーナは、次の文字を、書き始めた。


《ちょっと、フレースヴェルグ寮にね……》


「え? フレースヴェルグ寮に、行ってたの!?

よく、入れたわね。

あそこは、厳格な人が多くて、風紀にも厳しいって、有名なのよ!?」


基本的に、一度、入寮すると、寮の行き来は禁止されている。


理由は、行事があるたびに、寮ごとの対抗戦が多く、それぞれ、派閥ができているからだ。


言ってしまえば、社会の縮図と、いっても、過言ではないだろう。


《ん~……でも、そこまで、大変じゃなかったけど?》


首を傾げながら、話す、ヘルミーナだが、その姿は、リルベーラには、見えていない。


(そうか……ヘルミーナだから、気づかれずに、入れたってことね)


一人で、納得すると、リルベーラは、そのまま、話を続ける。


「そう……まぁ、何もなくて、よかったわ。

それで? なんで、フレースヴェルグ寮に?」


《お兄様に、会いに行ってきたのよ。

ちょっと、用事があってね》


「お兄様……が、いるの?」


ヘルミーナの言葉に、驚く、リルベーラ。


同時に、瞳の奥が、少し、不安そうに、揺れる。


「ヘルミーナは……お兄様と、仲がいいのね?」


何か、含んだような、話し方に、ヘルミーナは、少し、考える。


(家族の問題が、何か、あるのかしら?

でも……あまり、踏み込むのは、よくないわよね)


《まぁまぁ、仲いいかな。

ほら……こんな体質だから。

気にかけてくれているんだと思う》


まさか、兄の話を出すだけで、ここまで、リルベーラが、落ち込むとは、思っていなかった、ヘルミーナは、空気を変えるように、そのまま、話を続けた。


《リルベーラ。

次の、新入生歓迎パーティー。

パートナーは、決まっている?》


その言葉を聞くと、リルベーラは、首を、横に振る。


「一応、パートナーは、いるけど……

会場に入ったら、一緒に、いることは、ないでしょうね……」


(パートナーは、ダーリンのことね。

卒業パーティーの時も、一人だったし……

行くまでは、仕方なく、一緒に行って、そこから先は、別行動って、感じかしら)


《なら、よかった!

その日、私は、お兄様と、行く予定だったのよ。

だから、会場に着いたら、待ち合わせを、しましょう?》


新入生歓迎パーティー。


基本的には、一人でも、参加可能な、パーティーだが、婚約者や、恋人がいれば、一緒に参加するのが、セオリーだ。


もちろん、いなければ、家族と行く人もいるし、友人と行く人もいる。


文字を読むと、ぱっと、明るくなる、リルベーラ。


「い、いいの!?」


リルベーラの言葉を聞くと、ヘルミーナは、ポンッと、肩を、一回、叩いた。


(きっと、次に、大きな問題を、起こすとすれば……

新入生歓迎パーティー、よね)


リルベーラを見て、固く、決意する。


(絶対、リルベーラの、汚名を、返上して、

あの二人を、ドン底に、突き落としてやるんだから!)


その瞬間――。


ヘルミーナの、瞳の奥で、また、わずかに、光が、揺らめいた。


――その光に、気づいたのは、リルベーラだけだった。

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