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噂の幽霊令嬢は今日もトラブルに大忙しです!  作者: ゆずこしょう
第一章 悪役令嬢にされた日。
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爆誕!?悪役令嬢リルベーラ。

授業のようなホームルームを終えると、ヘルミーナは、リルベーラと一緒に、エイクシュニル寮へ向かっていた。


《ホルト先生の話、面白かったわね!!》


リルベーラのポケットに、そっと、メモを滑り込ませる。


彼女は、それを読んで、小さく、笑った。


「そうね。それで……」


リルベーラが、何か言いかけた、その瞬間――。


リルベーラの足が、急に、止まった。


そして、笑っていた表情が、スッと、真顔に戻ると同時に、今までに、聞いたことのないくらい、低い声を発した。


「……セレーネ」


名前を呼ぶ、その声には、ほんの、わずかに、緊張が混じっている。


「あら、ごきげんよう。リルベーラ・エーデルヴァーンさん」


(うわ~……すごい、いじわるそうな笑顔……)


扇子で、顔を、半分隠しながら、嫌味ったらしく、フルネームで名前を呼ぶ、セレーネ。


「ごきげんよう。ローゼンクラフト先輩」


しかし、セレーネは、一つ年上。


リルベーラは、失礼にならないよう、スカートの裾をつかむと、小さく、カーテシーをした。


「ふん……面白くないわね……」


扇子越しに、ぼそりと、呟くセレーネ。


(えっ!? ただ、挨拶しただけなのに!?)


リルベーラには、聞こえていなかったようだが、ヘルミーナには、ばっちりと、聞こえていた。


「それで、何か、ご用でしょうか?」


その声は、静かだが、ほんのり、ピリッとした、緊張が走っている。


「特に、何もないわ!

たまたま、ここを通ったら、あなたが、いたから、話しかけたのよ。だって、私たち、友達でしょ?」


セレーネは、一歩、また、一歩と、近づき――。


すれ違いざま、わざと、肩が触れそうな、距離まで、寄った。


(えっ……今、絶対、近づいた!)


ヘルミーナが、心の中で、ツッコミを入れていると、セレーネは、誰にも、聞こえないほどの、小声で、リルベーラに囁いた。


リルベーラの眉が、ピクリと、動いた。


(あっ、これは、完全に、仕掛けてくる前のやつ!!)


次の瞬間――。


セレーネは、胸に、手を当て、ふらりと、上半身を傾け――。


ガンッ!


膝を、床にぶつけ、わざとらしい、悲鳴を上げた。


「きゃあああっ……!」


取り巻きの、何人かが、セレーネに、駆け寄った。


「だ、大丈夫!?」


「ちょっと!? いきなり、突き飛ばすなんて……っ!」


「ひ、人が、見ている前で、こんな……!」


「私、見たわよ……!

エーデルヴァーンさんが、セレーネ様の腕を、払うのを!」


「わ、私も!

そのせいで、セレーネ様が、よろけたのを、見たわ!」


「どう見ても、わざとよね!?

そうとしか、思えない!」


まるで、示し合わせたような、抗議に、ヘルミーナは、驚きすぎて、思わず、叫んだ。


「えぇぇぇぇぇ~~!!?」


そして、その声は、この場にいた、全員に――。


しっかりと、聞こえていた。


「「「「……え!?」」」」


ヘルミーナの、叫びを聞いた、生徒たちは、一斉に、声のした方向へと、顔を向ける。


(うわぁ~……また、やっちゃった。

でも……今は、それどころじゃないわ!)


ヘルミーナが、焦っている間にも、目の前では、“事態”が、どんどん、広がっていく。


「どうするの、エーデルヴァーンさん!?

セレーネ先輩に、謝りなさいよ!」


「見てた人、たくさん、いるんだから!」


「言い逃れなんて、できないわ。

本当に、最低よ……!」


セレーネは、床に、膝をついたまま、小さく、震えるふりをしながら――。


ちらり、と、上目づかいで、リルベーラを、見る。


(うわ……これ、完全に、わざと、やってる顔だわ……。

卒業パーティーの時から、思ってたけど……本当に、面倒な人よね)


ヘルミーナは、リルベーラと、セレーネを、交互に見ると、小さく、ため息を吐いた。


その直後、リルベーラは、意を決したように、周りの人にも、聞こえるような、声を上げる。


「私は、何も、していません。

ローゼンクラフト先輩が、勝手に、転ばれただけです!」


リルベーラの言葉を聞いた瞬間、ざわざわしていた、人たちの間に、一瞬の、静寂が落ちる。


そして、しばらくすると……取り巻きたちが、また、騒ぎ出した。


「何それ、言い方、ひどくない!?」


「謝りもしないなんて、最低!」


「セレーネ様を、突き飛ばしておいて、よく言えるわね!」


(えぇぇ!?

今の、どこが、“ひどい”の!?

何も、間違ってないのに!)


ヘルミーナが、心の中で、総ツッコミを入れる間にも、リルベーラは、眉一つ、動かさず、まっすぐ、セレーネを、見つめた。


「謝る理由が、ないわ。

私は、触れてすら、いないもの」


すべてを、見ていた、ヘルミーナは、リルベーラの言葉を聞いて、コクコクと、頷く。


しかし、はっきりと言い切った、その声が、逆に、周囲の空気を、さらに、ざわつかせた。


「おい、聞いたか?

あの一年……」


「あぁ……あれは、まずいんじゃないか?

どっから、どう見ても、非があるのは、一年の方だろ?」


「しかも……よりにもよって、あの女……

トラヴァルドの、第二王子が、目をかけている女だぞ」


(やっぱり、そうだったんだ。

制服が、破けた時から、腰に、手を回していたし……

なんとなく、わかっては、いたけど……)


周りの話に、聞き耳を立てながら、この場を、どうやって、切り抜けるのが、得策か、考えていると――。


コツン、コツン――。


という、足音が、響き渡った。


「おい……何を、している。

……って、また、お前か……リルベーラ」


(うわぁ~……このタイミングで、来るって、本当に、最悪だわ)


「ダーリン、第二王子殿下……」


「ダーリン!!」


先ほどまで、痛いと、泣き喚いていたはずの、セレーネは、何事も、なかったかのように、走って、ダーリンの腕に、抱きついた。


「リルベーラ。

卒業パーティーの時から、見ていたが……なぜ、嫌がらせばかり、する」


「私は、何も、していませんが……?」


(難癖、付けられたくないから、人一人分くらい、離れて、話していたというのに……

何が、できるっていうのよ)


リルベーラは、扇子で、口元を隠し、小さく、ため息を吐くと、ダーリンたちを、見た。


「何も、してない……だと?

そんな、言い分、通ると、思っているのか?」


ダーリンが、周りを見渡せば、セレーネの、取り巻きたちが、ここぞとばかりに、言いたい放題、言ってくる。


「私、見てましたよ?

あなたが、セレーネ様の肩を、押すところを!」


「私も、見てました!

足を、引っかけていたところを……」


「私もです!

セレーネ様に向かって、意地悪そうな笑みを、浮かべていました。

あれは……まるで、悪女でしたわ……。

今、思い出すだけでも、怖くて、身体が、震えてしまいます」


取り巻きの声に、便乗するように、周囲の生徒たちが、さらに、話を広げていく。


「リルベーラって……そんな子、だったの?」


「卒業パーティーでも、何か、あったって、聞いたわよ?」


「加護持ちって、噂もあるし……怖いわね」


――完全に、“空気”が、セレーネ側に、傾いていた。


(……ここで、何を言っても、無駄ね……)


リルベーラは、一瞬だけ、目を伏せたが、すぐに、いつもの、冷静な表情に、戻った。


「ダーリン殿下。

先ほども、申し上げましたが、私は、何も、していません」


ダーリンは、リルベーラの言葉を、信じる気が、ないのか、冷ややかな目で、彼女を、睨みつける。


「セレーネが、嘘をつく理由が、ない」


その言葉に、ヘルミーナは、思わず、心の中で、叫んだ。


(あるでしょ!!

めちゃくちゃ、あるでしょ!!

この間から、この女、嘘しか、言ってないじゃない!!)


セレーネは、ダーリンの腕に、ぎゅっと、しがみつき、涙声で、続ける。


「わ、私……ただ、ご挨拶、しようと、しただけなのに……

リルベーラさんが、ひどい顔で、睨んできて……!」


「セレーネ、もう、いい。

辛かっただろう」


ダーリンが、優しく、抱き寄せた瞬間、周囲から、同情の声が、漏れた。


「きゃっ……殿下が……」


「セレーネ様、守られてる……」


「あの噂は、本当だったんだな。

二人が、愛し合っているって……」


そして、その場にいた、全員が、リルベーラを、睨みつける。


「リルベーラって、本当に……」


「あぁ……あれは、傲慢で、最低な女だ」


「悪女って、噂を、聞いたことが、あったけど、本当だったのね」


「見た目も、悪女っぽいものね。

ツリ目で、気が強そうだし……

ダーリン様が、セレーネ様を、好きになる理由、わかる気が、するわ。

だって、真逆だもの」


(あぁ~~~~!

これは、リルベーラの評判が、地に落ちるやつ!!)


ヘルミーナは、見えないまま、オロオロと、その場を、走り回りたい気持ちだったが、もちろん、誰も、彼女に、気づかない。


リルベーラは、静かに、扇子を開き、ゆっくりと、口元へ、運んだ。


その、一連の所作は、逆に、“余裕ぶっている”ように、周囲の目に、映ってしまう。


「……殿下。

私は、事実を、述べているだけです」


ダーリンは、冷たく、言い放った。


「ならば、証明してみろ」


(いやいや、待って!

無理でしょ、それ!!!)


その瞬間――。


コツコツ――。


背後から、重い、足音とともに、あの、鋭い声が、響いた。


「――そこで、何を、している」


ホルトだった。


ざわついていた、空気が、一瞬で、張りつめた。


「お前たち。

ここは、学校だ。

勉強をするところであり、恋愛をするところではない。

わかっているなら、とっとと、散れ!」


そう言って、シッシッと、手を動かすと――。


ホルトの目が、怖かったのか、全員が、散り散りに、去っていった。


(ふぅ~……この場は、一応、収まったってことで、いいのかしら……?)


ダーリンと、セレーネは、最後まで、リルベーラのことを、睨みつけていたが、ホルトが、怖いのか、小さく、舌打ちをすると、そのまま、その場を、離れた。


(と、言っても……このままじゃ、リルベーラが、悪役、まっしぐらね……。

何とか、しないと……!)


ヘルミーナは、誰にも、見えないところで、一人、鼻息を、フンフン、荒くしながら、やる気に、満ち溢れていた。


その瞬間――。


ヘルミーナの、瞳の奥で、かすかに、光が、瞬いた。

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