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婚約破棄された令嬢は、召喚獣たちとほのぼの領地改革します  作者: 九葉(くずは)


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最終話 居場所の確立

朝起きると、屋敷の前が大変なことになっていた。


「……何、これ」


私は窓から身を乗り出し、眼下の光景に絶句した。


山だ。

色とりどりの山ができている。


真っ赤なリンゴのような果実。

黄金色に輝く木の実。

見たこともない巨大なキノコ。

そして、新鮮な薬草の束。


それらが、修繕中の玄関前にうず高く積み上げられていた。


「おはよう、フィオナ」


下から声がかかる。

レオンハルト様だ。

彼は腕組みをして、その山を見上げていた。

隣にはポチがお座りをし、尻尾をパタパタと振っている。


「おはようございます……レオンハルト様、これは一体?」


「お前の友達からの差し入れだそうだ」


「友達?」


「森の連中だよ」


彼は顎で森の方をしゃくった。

よく見ると、森の境界線あたりに、数匹の小鬼ゴブリンやリスのような魔物が隠れてこちらを覗いている。

私と目が合うと、彼らは恥ずかしそうにササッと森の中へ隠れてしまった。


三日前の夜。

あのエントを助けて以来、森の空気が変わった。

刺すような殺気が消え、代わりに穏やかな風が吹くようになったのだ。


『……これ、お礼だって!』


ポチが私の足元に駆け寄り、金色の木の実を一つ咥えて差し出してきた。

エントの森でしか採れないという、幻の果実だ。


「ありがとう、ポチ。……みんなにお礼を言わなきゃね」


私は急いで着替えを済ませ、一階へと駆け下りた。


外に出ると、甘い香りが漂っていた。

果実の山からは、生命力が溢れ出しているようだ。


「すごい……これだけあれば、当分食料には困りませんね」


私が言うと、レオンハルト様は肩をすくめた。


「困らないどころか、使い切れない量だ。騎士団の胃袋でも消費しきれんぞ」


彼は一つ果実を手に取り、無造作に齧った。

カリッ、という小気味良い音。


「……美味い」


短く感想を漏らす。

その横顔は、初めて会った時の険しさとは別人のように穏やかだった。


「これ、どうしましょうか。腐らせてしまうのはもったいないですし」


「保存食にするか、あるいは……」


彼は言いかけて、遠くの街道の方へ視線を向けた。

何かを考えている目だ。


「まあいい。まずは朝食だ。これを使ったスープを作ってくれ。お前の味付けなら、部下たちも喜ぶ」


「はい! お任せください!」


自然と返事が出る。

最初はあんなに怖かった命令口調も、今では信頼の証のように聞こえる。


私はエプロンを締め、果実の山へと向かった。

ポチとドンも手伝ってくれる。

騎士たちが「手伝いますよ、フィオナ嬢!」と声をかけてくる。


忙しいけれど、楽しい時間。

ここには、私の居場所がある。


夕暮れ時。

作業が一段落し、私は屋敷の屋根――新しく葺き替えられたばかりの頑丈な屋根――に座っていた。


ここからは、再生しつつある領地が一望できる。

黒々とした畑には、ドンが育てた野菜の芽が青々と顔を出している。

崩れていた東棟も、騎士たちの突貫工事で骨組みが組み上がっていた。


風が気持ちいい。

王都の風とは違う。

土と、森と、生き物の匂いがする風だ。


「……ここにいたのか」


後ろから声がした。

レオンハルト様が、屋根の点検口から顔を出した。

手にはマグカップを二つ持っている。


「隣、いいか」


「どうぞ」


彼は私の隣に腰を下ろし、片方のマグカップを差し出した。

湯気が立っている。

ホットミルクだ。

蜂蜜の甘い香りがした。


「……お疲れ様です」


「ああ。今日もよく働いた」


彼はミルクを一口飲むと、ふう、と息を吐いた。

そして、私と同じように領地を見渡した。


「……変わったな」


「え?」


「この場所だ。二週間前までは、ただの廃墟だった。魔物が徘徊し、草木も生えない死の土地だった」


彼は視線を畑へ、そして修復された屋敷へと移す。


「それをお前が変えた。……たった一人で」


「一人じゃありません。ドンや、ポチや、レオンハルト様たちがいてくれたからです」


「きっかけを作ったのはお前だ」


彼は断言した。

強い口調だった。


「お前のその……召喚獣と話す能力。王都では気味悪がられていたそうだな」


心臓がちくりとする。

古傷に触れられた感覚。


「……はい。婚約破棄の理由も、それでしたから」


「見る目のない連中だ」


彼は鼻で笑った。

蔑みではない。

私の元婚約者たちに向けられた、明確な呆れの感情。


「力に善悪はない。使い手の心次第だ」


彼はマグカップを置き、私のの方へ向き直った。

夕日が、彼の銀色の髪をオレンジ色に染めている。

その瞳は、真っ直ぐに私を捉えていた。


「お前の召喚は……温かい」


「……え?」


「支配するんじゃない。共生し、心を通わせる。だからこそ、あのエントもお前には心を開いた。俺にはできなかったことだ」


彼の大きな手が伸びてくる。

私は身構えた。

でも、その手は私の頭に優しく乗せられただけだった。


ポン、ポン。

不器用なリズムで、頭を撫でられる。


「誇っていい。お前は、優秀な召喚士だ」


涙腺が、緩んだ。


ずっと言われたかった言葉。

「気味が悪い」でも「役に立たない」でもなく。

ただ、私自身を認めてくれる言葉。


「……うぅ……」


「泣くな。騎士団長が泣かせたと思われるだろう」


「だって……嬉しくて……」


私は袖で目を擦った。

涙が止まらない。

追放されたあの日から、ずっと張り詰めていた糸が切れたみたいだ。


ここは、流刑地なんかじゃない。

私の家だ。

大切な家族と、頼れる仲間がいる、私の帰る場所。


「……フィオナ」


レオンハルト様の手が止まる。

彼は少し躊躇ってから、ボソッと言った。


「……これからも、頼むぞ。この領地には、お前が必要だ」


それは、命令ではなかった。

懇願に近い、対等なパートナーへの言葉。


「はい……! こちらこそ、よろしくお願いします!」


私は涙目で、精一杯の笑顔を返した。

レオンハルト様が、ふっと口元を緩める。

今度は見間違いじゃない。

確かな微笑みだった。


その時。


カラン、コロン。


遠くから、鐘の音が聞こえた。

風に乗って運ばれてくる、のどかな音色。


「……ん?」


レオンハルト様が顔を上げ、街道の方を見る。

私も釣られて視線を向けた。


夕暮れの街道の向こうから、一台の馬車が近づいてくるのが見えた。

荷台には幌がかけられ、ランタンが揺れている。

かなり大きな馬車だ。


「誰でしょうか。こんな辺境に」


「……ふん、鼻の効く奴め」


レオンハルト様は、なぜかニヤリと笑った。

その顔は、悪友の到着を待つ少年のようにも見えた。


「客だ、フィオナ。……これから忙しくなるぞ」


「客?」


「ああ。あの果物の山を、金貨に変えてくれる相手だ」


金貨。

その響きに、私は思わず身を乗り出した。

お金があれば、もっとたくさんの種が買える。

ポチのお肉も、屋敷の家具も揃えられる。


「行こう。歓迎してやらんとな」


レオンハルト様が立ち上がり、私に手を差し伸べた。


私はその手を取った。

大きくて、温かくて、分厚い手。


「はい!」


私は彼の手を握り返し、立ち上がった。


新しい風が吹いていた。

廃墟から始まった私の領地改革は、まだ始まったばかりだ。

でも、もう不安はない。

ここには、私を信じてくれる人たちがいるのだから。


馬車の鐘の音が、新しい物語の始まりを告げるように、高らかに響き渡った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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